スマホを落とすな!

pizmo

何気ない日常のドラマ

「なんでスマホなんて落とすんだよ」

裕太は隣に並んで立っている理央をちらりと見た。


同じ高校に通う二人は付き合い始めて半年。

家が近いので、いつも同じ電車で通学している。

まだ通勤ラッシュには早いのでホームは人影まばら。

秋なのに初冬のような冷たい風が吹いている。


今朝、乗車寸前まで占いサイトをチェックしていて

カバンに仕舞おうとして落としてしまったのだ。


「手が滑った。てか、カバー付けているから大丈夫」

と言って、うさ耳の付いたスマホをヒラヒラさせた。

身長差が20センチ以上あるので見上げるように。


理央は小さい身体に似合わず、大雑把で雑なので

いつも裕太に注意されている。

逆に裕太は大きいくせに神経質で細かすぎると

毎回のように言い返されている。


傍から見ても、お似合いのカップルだ。


「機種変したばかりの最新型なのに信じられない」

無言。白いセーターに萌え袖、小さい身体に似合わず

服の上からもわかるくらいの胸に目がいってしまう。


子供の頃からお互いの親同士も知り合いだったので

自然と仲良くなり、なんとなく付き合おうかという流れ。

いわゆる幼馴染なので、手をつなぐのもひと苦労である。


お互いに心の中ではもっと親しくなりたいという気持ちは

あるのだけれども照れがあるのか、友達感が心地よいのか

現状維持が続いている。


「夏休みにバイト頑張って買ったのに、よくそんなことできるよな」

裕太は自分の大事なものが壊れてしまったかのように嘆いた。


「引力が悪いんだよ。ニュートンのせいだ!」

理央は意味不明な言い訳をしている。顔は笑っている。


裕太はちょっと不機嫌になった。


「じゃあおまえさぁ、自分の子供でも落とすのか?」

理央はハッとしたように見上げた。意表を突かれた。

想定外の言葉に一瞬戸惑ったというのが正解か。


「バカじゃないの?」とりあえず口からでた。

裕太は帰宅部にしておくのはもったいないほど体格が良い。

一瞬、二人の子供を想像してしまったのか急に恥ずかしくなり

思いっきりぶっきらぼうな口調になってしまった。


裕太もそんな理央の微妙な変化に一瞬、頬を染めた。

「スマホを落とすと大変なことになるらしい、映画の中だけど」

話題を変えようとして、思いついたことを適当に言ってしまう。

「スマホを止めるな!みたいなのもあったよね」それはカメラ。


二人はスマホを丁寧にカバンに仕舞い込む。

そしておもむろに手をつないだ。ぬくもりが伝わる。

一段と強く冷たい風がホームに流れると同時に電車が来た。

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