ゲーム転生までにけして避けられない脅威

ちびまるフォイ

ゲームあるあるを舐めるなよ

「起きなさい……起きなさい……勇者よ……」


「こ、ここは?」


「あなたはご都合主義ウイルスという新種のウイルスで

 不幸な死を遂げしまいました」


「どういった病気なんですか!?」


「詳しくは聞かないで。いろいろと破綻するから」


「……わかりました、それであなたは?」


「私は時給800円で雇われた女神バイト。

 あなたを新しい世界に案内するために昨日必死にマニュアルを読んだ勉強家よ」


「なるほど! 異世界転生か!」

「現代人は理解が早い」


「で、どんな異世界ですか」

「ゲームですよ。生前にやっていたゲームを思い出しなさい」


「"おばあちゃんと恋に落ちるなんて! ~始まる恋の若年性認知症~"か!」

「そっちじゃない」


「"アクネシア・オンライン"か!」

「そう、そのゲームの世界に行くことになったわ」



「うおおお! マジか! 話題の新作オンラインゲームで、

 βテスト前に死んじゃったからそれだけが心残りだったんだ! 嬉しい!!」


「喜んでもらえてよかった、それじゃ始めましょう」

「え?」


「キャラメイキング」


「……」


女神は真っ白い部屋にたくさんのウィッグを置いた。


「あなたは今、受肉していない概念としての存在しかない。

 だからこれからどういった人間になるのかキャラメイキングするのよ」


「こういうのって、あまり聞かないんですけど……。

 普通、直接ゲームの世界に行ってたりしません?」


「それやってたら毎回同じ顔になって、SNSで叩かれたのよ。

 ハンコ顔(笑)とか。あなたもゲームの世界に転生してまで

 ~太郎とかあだ名つけられたくないでしょう?」


「俺の名字「売寅(うるとら)」だから、なおさら嫌ですね」


「それじゃ、このウィッグから選んで」

「えーー……?」


悩んで選択したのは無難な無造作ヘアだった。


「じゃあ、これで」


「ダメです」

「ダメ!?」


「さっきも言ったでしょう。没個性的なものだったら、叩かれるって。

 そんなありきたりの"転生主人公でござい"は選ばないでください」


「だったら最初から候補に置かないでくださいよ!」

「これもあなたの適性を確かめるためです」


しょうがないので、その隣にあるハゲを選択した。


「それじゃ、これで」


「ダメです」

「また!?」


「あのね、ウケを狙ってるのか、奇をてらっているのか知らないですが

 そういう変なのを選ばないでください。

 これから、たしなむ程度のハーレム展開があるのに、モテたらおかしいでしょう!?」


「じゃあどうしろと!?」

「無難かつそこそこのものを選んでください」


「難しいな……」


たくさんあるウィッグをじっくり眺める。

正直なにがよくて何がダメなのかわからない。


「これは?」

「まあいいでしょう」


「ああ、よかった……。これで進めますね」


「じゃあ次は顔の骨格を作りましょう」

「え?」


女神がパネルで出したのは自分の顔の形。

アゴから頬骨まで細かく調整ができる。できてしまう。


「あの……ひとついいですか?」


「トイレならそのままやっちゃって大丈夫ですよ。

 ここは空の上なので、地面に届く頃にはきっと蒸発してます」


「じゃなくて、こういうキャラメイキングって飛ばせないんですか?

 俺ふだんからあまりこだわって作らないんで。

 用意されているプリセットで行っちゃうんです」


「ダメです」

「またかい!」


「メイキングをスキップして、無課金アバターみたいな

 パンツとTシャツだけの姿で冒険するなんてかっこうがつかないでしょう」


「スキップするとそうなるのか……」


「それに急いだほうが良いですよ」

「どうして?」


「私の定時までにゲーム転生を果たさないと、

 ゲーム側の定期メンテナンスが入るので、あなたのデータが消去されます」


「は!?」


「転生できず、バグとして消化されて終わります。

 もたもたしてる時間はないんですよ」


「それ先に言ってくださいよ!!」


急がなければ転生どころかただの犬死で終わってしまう。

それらしい骨格を作り上げる。


「できました!!」


「OKです。では次に眉の角度の調整を」

「細けぇ!!」


「OKです。鼻の高さの調整を」

「OKです。目の色の調整を」

「OKです。前髪の長さの調整を」

「OKです。口の形とうるおい加減の調整を」

「OKです。耳の形と難聴具合の調整を」


 ・

 ・

 ・


「はぁ……はぁ……これでどうだ……。

 足の小指の爪の形まで指定し終わったぞ」


「ギリギリですね。残り5分でした」

「間に合った……」


「いえ、まだスキルツリーの設定と

 アビリティポイントの割り振りと

 性癖ゲージの調整が残ってます」


「うおおおおい!!!」


残り3分。


見た目の調整であるメイキングとは異なるので、

割り振りはすべて同じく、左端のものを選んで配分していく。


残り1分。


「できた!! これで全部ですか!!!」


「お疲れ様でした。以上で、すべて設定完了です」

「本当にもうないんですね?」


「よろしければ、アンケートに回答を……」

「パス!」


「よろしければ、★5レビューを……」

「パス!」


ことごとく不要な要素をスキップする。残り30秒。


「では、新しい、できたてほやほやのゲームの世界に招待します!」


「よっしゃああ!! 間に合った!!」


「めくるめく素敵なゲームライフをお楽しみください!!」



女神がドアを開いてゲームの世界への入り口が開かれた。


まばゆい光が広がっていく。


そして――






ただいまデータをダウンロードしています ....(1/999999999)

(残り:481時間)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゲーム転生までにけして避けられない脅威 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ