極悪人があなたの家にお届けられました!

ちびまるフォイ

極悪人を罰する極悪人

「ついに俺の部屋に極悪人がやってきた!!」


部屋には注文していた極悪人が届いていた。


寝袋のようなものに包まれ、顔は見えない。

そのうえ、拘束具で固定されており抜け出すことも動くこともできない。

まるで芋虫。


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【極悪人取扱説明書】


① けして拘束を解かないでください。

② 声を聞かないでください。

③ 顔を見ないでください。

④ ものを与えないでください(もらうのも厳禁)

⑤ 死亡後の返品はいたしかねます。

⑥ 取扱について一切の責任を負いません。

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「本当に極悪人なんだなぁ」


公式HPには死刑判決を受けてもなお反省の色がない

ほんとにどうしようもない人間に行われる刑罰らしい。


顔を見れば、ひょっとしたらニュースで見た顔かも知れないし

外側からなら拘束具は簡単に解けるので見てみたい欲求も湧いてくる。


「いやいや、顔なんか見たら、それこそひどい扱いできなくなるな」


思わず拘束具に伸ばした手を止めた。

その日は何もせずに過ごした。


翌日は仕事でこっぴどく怒られて、ひどく帰宅が悪いまま帰宅した。


「あーー!! ムカつく! なんで俺が取引先に謝らなくちゃならねぇんだ!!」


部屋の中央に横たわる極悪人を蹴り上げる。

足にたしかな人間のみぞおちの感触が伝わった。


「この! ふざけんな! ふざけんな!!」


極悪人を蹴り上げ、踏みつけ、何度も罵倒したらスッキリした。

心地いい疲れ具合でストレス発散ができてその日はゆっくり休めた。


その日をきっかけに極悪人をよく使うようになった。


「クソッ! 今の銃弾あたってただろ!! 死ねよ!!」


ゲームをやるときはいつも小脇に極悪人を置いておく。

苛立ったときは極悪人を殴ったり蹴ったして憂さ晴らし。


これまではコントローラーを投げたり、壁を殴ったりしていたが

極悪人なら修理費がかからないうえ手応えがあるので効果的。


「またピネだぁぁぁ!! あいつマジなんなんだよ!!」


極悪人は手頃なサンドバックになった。



極悪人の扱いに慣れてくると、サンドバック以外の使い方も考えるようになった。


バスタブに水を貯めると、極悪人をその中に放り込んだ。

お湯に入れられたエビのように極悪人は必死に体を反らせてもがいた。


「ははは。やっぱ人間なんだなぁ」


殴ったりする八つ当たりだけでなく、極悪人をいじめるのが日課になった。

別に極悪人が憎いわけでもストレスが溜まっているわけでもない。

なんとなく、という感覚だった。


「これが空気ケーブルかな?」


極悪人遊びを続けているうちに、拘束具内部に空気を通す穴を見つけた。

深夜にこっそり起きておそらく眠る極悪人の空気穴を塞いだ。


数分後、バタバタと芋虫がもがき暴れる様を見てすっかり満足した。


「あははは。すっごいなぁ」


見ていると必死にのたうつ人間が見られるので興味深かった。




そんなある日、いとこから電話があった。


『甥っ子が遊びに行くから、家に泊めてくれない?』


「あ、うん。わかった。部屋片付けておく」


年の離れた甥っ子は特に俺になついていた。

ゲームをたくさん持っているのでおそらくそれ目当てだろう。


家に帰る途中、甥っ子から連絡が来た。


>はやくついたから家でゲームしていい?


メッセージを見た瞬間、一気に寒気が広がった。


「しまった。部屋に極悪人が置きっぱなしだ……」


頻繁に甥っ子がやってくるので、

いつでも来ていいよと、いとこに鍵を渡していた。


部屋の外で子供がいると育児放棄だと通報されたこともあるので、

家に来たときは部屋に入るようにと言い聞かせていた。


それが今回は裏目に出てしまった。


もし極悪人の拘束を解いてしまったら、俺はいったいどんな報復を受けるのだろう。

それどころか、持ち主を甥っ子だと勘違いして報復されるかもしれない。


これまで自分がやってきた行為を振り返ると、

極悪人がどんな反撃をしているか考えただけで足がすくんでしまう。


「そ、そうだ! 警察! 警察に電話しよう!!」


はじめて警察に電話したが、どう事情を話したらいいかわからない。


「警察ですけど、要件は?」


「部屋に誰かいる……かもしれないので、一緒に来てほしいんです!」


「そういうのはちょっと。家の捜査には令状とかもいるので」


「部屋に極悪人がいるかもしれないんですよ!?

 甥っ子が殺されてるかも知れないんです! ごちゃごちゃ言ってないで来てください!!」


「ひええええ!」


極悪人が家に届いてから、怒りに対する我慢強さがなくなっていた。

しぶる警察の尻をひっぱたいて恐怖の自宅へと向かう。


「こ、ここですか……」


「拳銃とかないんですか」

「普通使いませんよ。警棒で精一杯です」


あっちは極悪人で、こっちは素人の2人。

ライオンの檻に入るような緊張感でドアを開けた。


惨劇への心構えをして目を開けると……。



「あ、おじちゃん! おかえり!!」



甥っ子は普通にゲームしていた。

極悪人は拘束されたままになっていた。


「あの、極悪人は?」

「気のせいでした、あは、あははは……」


「いたずらは止めてくださいよ、まったく!」


警察官はぷりぷりと怒って帰ってしまった。

ムカつくので極悪人を部屋から連れ出し甥っ子の目の届かない場所に運ぶ。


「ったく、ふざけやがって! てめぇのせいで焦ったじゃねぇか!!!」


極悪人をいつも以上にキツく当たった。

命の危機まで感じただけに拳や足に力がはいる。


「はぁ、はぁ、いいかげんにしろよ、もう」


今後こんなことがないようにと極悪人をゴミ捨て場に捨てた。

家に帰ると、甥っ子が待っていた。


「おじちゃん、どこ行ってたの?」


「ゴミ捨て」


「ふーん。ねぇ、おじちゃんも一緒にコレやろうよ、昨日買ってきたの!」


「お前な、いい加減自分でもゲーム機本体買えよ?」


「だってお母さんが隠すんだもん」

「マジか」


世知辛い子供事情を聞いて、2人協力するアクションゲームを始めた。


「あれ? 2面から? もう進んでるじゃん。いつ進めたの?」


「おじちゃんが来る前」


「え、誰と?」

「おじさん」


「いや、俺はまだやって――」


そのとき、拳に残る感触を思い出した。

さっき殴ったあの感じは、いつもの感触だっただろうか。


いつもよりずっと柔らかくて、まるで……。


「きょ、今日は……ひとりで、来たんだよな……?」




「ううん、お母さんと一緒に来たの。

 部屋のおじさんに捕まったから、次はお母さんが鬼の番でね、

 お母さんが代わりに袋に入ったよ」

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