7-12 回復剤の作り方
時間停止機能付きのアイテムポーチをナビーが作ってくれ、これが皆に好評のようだ。
「そのアイテムポーチには使用者権限が付いていて持ち主以外は作製者の俺以外は使えないようにしてある。初回だけ使用者登録がいるので、口紐の金具に血を一滴落としてください。その血から個人情報を読み取って登録者になるようにしてある。ポーチの色は渡した栗毛色か黒だ。黒が良ければ交換してあげるけどどうする?」
皆、茶色が良いようだ。
「兄様! やっぱりフェイもそれ欲しいです!」
「お前は上位の【インベントリ】があるじゃないか。余計な荷物増やしてどうするんだよ」
「可愛いから普段着の時に付けるのです!」
「可愛いからって、無駄に荷物を増やすのは感心できないな」
『……マスター、フェイもお年頃の女の子なのですよ。おしゃれに拘るのはいい傾向だと思います。最初は裸でうろうろしてても平気なダメっ娘でしたでしょ? 好きにさせてあげたらどうでしょう?』
『それもそうか。普段着にとか言ってたしな』
「分かった、色はどっちがいいんだ?」
「兄様ありがとうです。フェイも茶色が良いです」
普段着にとか言ってたのに、さっそく血を垂らして腰に付けてるよ。凄く嬉しそうだからいいけどね。
「あの、兄様? フェイのにはプリンが入っていないです……」
とりあえず、この可愛い駄竜はデコピンで黙らせた。
さて、回復剤作製の伝授だ。
「まずは薬草の泥を綺麗に水で洗い落とす。洗いが悪いと土が混じって味が悪くなったり臭みが出るからしっかり落とすように……できるだけ素早くね。この時、根を傷つけたり折ったりすると水中に成分が溶け出し等級が下がってしまうから細心の注意をすること」
皆、熱心に聞いている。とくにナシル親子は必死だ。これが生活の基盤になるのだからそうでないとね。
「次は水切りだけど、風魔法が使えないあなたたちは、綺麗な布で余分な水分を吸わせるようにすると良いかな。この作業で水分が残ってると等級が下がるから注意してね」
いったん見回って水切り具合を確認する。大丈夫のようだ。
「次はこのすり鉢でひたすらすり潰す。体力が要るけど休むことはできない。できるだけ短時間でやるのがコツだ。この段階で出来上がりの等級の上限が決まってしまう。どういう事かと言うと、根だけ使って作ったものは上級回復剤の5級までの物が作製可能になるが、葉や茎も使うと中級回復剤の5級までが上限になる。冒険者が主に買うのは初級の物なので今回は全部入れて作ります。ここまでで質問は?」
「はい、お兄ちゃん! 良い物が作れるなら、根だけ使って良い物を作った方が良いと思います!」
「上級回復剤は薬草だけじゃなく、聖水と錬金術と回復魔法がいる。一般人にはまず作れないから1本50万以上の値がするんだぞ。中級の物も聖水と蒸留して濃度を高める工程がいるが、魔法を使わなくても出来るのでお前たちにはこっちを教える予定だ。中級でも今は品薄で10万近くするそうだからな。儲けは十分ある」
皆に道具を配る。
すり鉢、すりこぎ棒、ハサミ、大きめの三角フラスコ、アルコールランプ、三角フラスコ用の口ゴム、細長いガラス管、ビーカー、聖水、アルコール、計量カップ、砂時計、完成品を入れる試験管と口ゴム。
口ゴムは例のパッキンに使ってたラバーワームだ。どこにでもいるらしいのだがまだ見たことはない。ヤツは本当にいろいろ使えて便利なのだ。今度大量に仕入れて、タイヤとかナビーに開発させるのも良いかも知れない。タイヤが上手くいけばバイクを作ってもいいな。
おっと今は回復剤だった。
「さて、今、渡した物が回復剤を作る為の道具と材料だ。プレゼントするから大事にしろよ」
「リョウマさん、ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
「お兄ちゃんありがとう! 大事にするね」
「ん! 感謝!」
「物は壊れるものだし、消耗品は使えば減る。大事に使っていても慣れるまでは壊しやすい。壊れた時は気兼ねしないで言うように。すぐ新しい物に替えてあげるので変に遠慮はしないこと。まぁ、この道具は全て強化してあるので簡単に壊れることはないだろうけどね」
皆、もの珍しそうに手に取って1つ1つ道具を確認している。
「まずは下準備だ。俺の回復剤は長期保存が効くというのが売りになっている。その為には目に見えない良くない菌を殺す必要がある。その為にこのアルコールで手や器具をまず最初に消毒する。ここで雑菌が残っていると普通の回復剤のように傷みが早くなってしまうのできっちりやること。殺菌処理が済んだら、ここからは一気に行くぞ」
皆の消毒が終えるのを待ってから次の実演を行う。除菌もできる【クリーン】があれば簡単なんだけど、無い物ねだりをしてもしょうがないからね。
「ハサミで根の部分だけをできるだけ細かく刻み、すり鉢へ入れる。そして粒が無くなるまでひたすらすり潰す! それが終わったら茎と葉も同じように刻んでまたひたすら潰す! この作業が一番しんどいし疲れる工程だが、一番大事な作業だ。潰しが甘いと効能成分が抽出できなくてかなり等級が落ちてしまうぞ」
「う~~、お兄ちゃん、腕が攣りそうだよ~」
「ほらメリル頑張れ! 時間が経てばたつほど酸化して質が落ちるぞ!」
子供にはきつい作業だろうけど、スピードがいる大事な工程なので容赦しない。
「よしこれぐらいまで潰せたら三角フラスコに入れて聖水を加える。普通は聖水3杯だが、俺はこの計量カップで1杯分しか入れない。その替わりにアルコールを2杯入れる。普通はアルコールを使わないのでここで俺との差が出る。アルコールを入れたら抽出がきれいにできるんだ。アルコールは熱するとすぐに揮発して無くなるから濃度の高い薬液が出来るというわけだ」
「ん、これは凄い秘匿情報」
「ガラス管を通した口ゴムをしたら、良く振ってから火にかける。沸騰して白い蒸気が出始めたら2つある砂時計の小さい赤い奴を引っくり返して砂が落ち切るのを待つ。砂が落ち切ったら蒸気口をビーカーに入れて蓋をして、大きい青い方の砂時計を返す。薬草が焦げないように時々振るのを忘れないように。大きい砂時計が落ち切ったら火を止める。この間にビーカーの方に出た透明な液体が中級回復剤の1級から5級程度の物だ。そして三角フラスコに残ったものを今から布で濾した物が初級回復剤の5級から10級になる」
「ん、赤い砂時計の時間は何を意味するの?」
「サリエさん良い質問です。揮発性の高いアルコール成分のみが先に蒸気として出るんですよ。それを飛ばすために小さい砂時計の時間分火に掛けています。長くやり過ぎると、今度は肝心の回復成分まで空気中に無駄に出しちゃうので、手際よく行いましょう」
メリルは良く解ってないようだが、今は手順さえ覚えられればいい。
「ここで時間を掛けると雑菌が入るので、すぐに回復剤の容器に入れる。この際きっちり線のとこまで入れる事。多い少ないでトラブルになるから分量は守るように。ここですぐに口ゴムをしても結構長持ちするのだけど、俺のは特別製だ。この錠剤を1錠入れて口ゴムでしっかり栓をすると見てのとおり発砲する。ぶくぶくとガスが出るんだけど、これで中の空気を抜いている。その際、口ゴムにこの中が空洞になっている細い針を刺していないと発砲の勢いで口ゴムが飛んで行ってしまうので針を忘れないように。で、このくらいに発砲が治まったら針を抜く。完全に泡が出なくなると中に再度空気が入ってしまい意味がないので針を抜くタイミングは重要だよ。抜くのが早すぎると口ゴムの針を抜いた穴から多少は出てくれるが大抵はガスの圧で口ゴムが飛んで行ってしまう」
空気を抜く意味も簡単に説明したが、菌が何か分かっていないので、フェイ以外は理解しづらいようだ。
「この錠剤だが、赤・黄色・オレンジ・白の4種類の色があるんだけど、それぞれの色によって味が違う。俺の回復剤は美味しいと評判なんだけど、この錠剤に味の素が含まれている。赤は野イチゴ、黄色はバナナ、オレンジはオレンジ、白はバニラ味にしてある。下手に味付けまでさせていたら、あなたたちだと品質を劣化させそうなので今回新たに開発しておいた。これならエア抜きも味付けも簡単だろう」
サリエさんは錠剤を手に取りクンクンして確かめている。
途中からナシルさんたちより興味津々な感じだ。こういう人の方が覚えは早いんだよね。
「見てのとおり蒸留してできる中級回復剤は4本程度しかできない。残りの初級がメインとなる。さぁ、今度はフラスコに残っているやつで初級を作るぞ」
「「「はーい」」」
「熱いので火傷に気を付けて、この布に入れしっかりと搾る。できるだけきつく搾って薬液を回収する。この状態だと緑色でドロッとした従来のクソ苦くて超不味い回復剤だが、これもさっきの錠剤で味も色も変化する」
ここでも幼いメリルが苦戦している。力が要るからね。搾りが甘いと無駄に捨てる事になって完成品が減ってしまう。
「どうだ? 解ったか? 今回俺は薬草1束分から、中級回復剤4本、初級回復剤8本できた。普通に薬草を売ったら1万ジェニー程度だが、労力を惜しまず自分で抽出すれば中級4本で約30万ジェニー、初級8本で11万ジェニーになる。合計41万ジェニーだ。なんと40倍の値段で売れる」
「あの、リョウマさん? こんなに稼げるのに、どうして冒険者さんは自分でやらないのでしょう?」
「抽出法を薬師ギルドや冒険者ギルドが秘匿してしまっているからです。学校に行き薬学科を専攻して習得したら必ずギルドに強制加入させられてギルドを通してしか仕事ができなくなっている。一般人はただ擦って煮詰めて飲むぐらいしか知らないでしょ? それだと完成までの間にほとんど効果がとんでしまうのです。ちゃんとフラスコで密閉して外部の空気に触れさせないようにしないといけない。ガラス製の道具が超高くて一般人には買えないのも理由の一つだね。薬師ギルドでしか道具も売ってないし、ギルド登録してなきゃ、まず道具自体を売ってくれないしね」
「そういうことですか。普通に鍋で煮てもダメなんですね」
「まったく効果がない訳じゃないよ。健康維持には使えるから、この絞りかすも俺は捨てずにこっそり料理に混ぜて皆に食べさせている。苦味はほとんど抽出してあるからスープに混ぜると健康に良いですよ。ポーチがあるんだから鮮度が落ちることはないしね。弱ってるナシルさんにとっては毎日食べた方が良いかもです」
「搾りかすでも、スープに混ぜると回復効果があるんですか……確かにこのまま捨てるのは勿体ないですね」
「さて、皆の完成品を鑑定してみるかな……どれどれ、メリルはちょいすり潰しが甘かったようだね。中級は1級だし初級は7級品だね。3等級ほど価値が下がってしまっている。フェイは2等級減だね、同じくすり潰しが原因だね。ナシルさんは初級は10級で中級は3級、1級下がり程度なので合格だね。サリエさんは完璧だね。初級は10級、中級は4級でできています。俺と同等品です」
褒められたのが嬉しいのか、小鼻を少し広げてドヤ顔をしている。
サリエさん、超可愛いんですけど! 何、この可愛い生き物!
「じゃあ、今日はもう一度同じ手順で作って終わりにします。メリル、もう1回分擦り下ろす体力はあるか? 頑張ったら40万だぞ!」
「40万ジェニー! うん、私やる! 大丈夫だよお兄ちゃん!」
「よし、俺はちょっと他の用事で居ないから、分からなくなったらサリエさんに聞きながらやるんだぞ。サリエさんお願いして良いですか? 俺はパエルさんの盾作りの準備をします」
「ん、こっちは任せて。パエルの盾お願い」
パエルさん抜きでこのまま創ってもいいんだけど、サリエさんの時に自分の剣が出来るところを凄く見たがったからな~。パエルさんにも一応声を掛けておこうかな。
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