7-11 アイテムポーチ

 アクセサリーショップでやたら時間を食ってしまったが、その足でサクエラさんの雑貨屋に行き、親子を紹介する。


「サクエラさん、この親子に俺の回復剤の作製法を伝授しますので、もしこの親子が売りにきたら適正価格で買い取ってもらえませんか?」


「それはこちらからお願いしたいくらいだ。定期的にこれからも仕入れができるって事だからね」


「ナシルと言います。先日縁あって冒険者になったばかりですがよろしくお願いします」

「ここの雑貨屋の店主のサクエラです。こちらこそよろしく」


「最初は高品質なモノができるとは限りませんので、あくまでも適正価格でお願いします」

「鑑定はできるので、その辺は商売なのできっちりさせて頂くから大丈夫だよ」


「それと俺の弟子というのも秘密でお願いします。作製法を聞き出そうと彼女たちが襲われたりする可能性もありますので」


「そうだね……私の方からは誰にも言わないし、むしろ言ってほしくない。うちで独占販売できるってことだろ?」

「独占契約とは言えませんね。冒険者ギルドに売る場合もあるでしょうからね。あまりにも回復剤が不足してしまって死亡者続出なんか嫌ですし、適度に放出するつもりです。ですが当分はサクエラさんの独占販売になるでしょうからその間に頑張って売ってください。あくまでも良心的にね」


「ああ、その辺は私の信念でもあるからね。安心してほしい」



 約束分の回復剤を納品し、代金を受け取る。

 その後、街を出て昨日の空き地にログハウスを召喚した。


「リョウマお兄ちゃん、回復剤って儲かるんだね?」

「そうだが、あくまで自分で作るからだぞ。本当なら経費が掛かるから丸儲けとはいかない。このガラスの容器だって作るのにお金がかかっている。回復剤を作る為の道具も決して安くないぞ。今は甘やかして全部面倒見てやってるけど、覚えたら倍にして返してもらうからね」


「お兄ちゃん倍なの? 無利子とか言ってたのに!」

「まぁ倍は冗談だが、そのくらい気合を入れて覚えるんだぞ」


「うん、がんばる! もう貧乏で飢えるのは嫌なの! お兄ちゃんみたいにガッポガッポ稼ぎまくるの!」

「こらっ! 金儲けの為に教えるんじゃないぞ! メリルは巫女なのだから品性を大事にしろよ?」


「うん、お兄ちゃんのように孤児院にも一杯寄付するの! お腹が空くのは悲しいの!」


 うーん、飢えで死にかけたせいで価値観がちょっと守銭奴気味になってしまってるが、ユグちゃんが気に掛けるほどの子だ。悪いようには決してならないだろう。



「とりあえず風呂だな。その後メリルのマッサージをして昼飯にしよう。今日の予定は薬草採取じゃなく、回復剤の作製だ。フェイもサリエさんも一緒に覚えると良い。いざという時に役に立つかもしれない」


「ん、私も覚えたい」

「分かりました。兄様、サウナに入ってもいいですか? お昼まで少し時間ありますよね?」


「ん、サウナ入りたい」

「ああ、いいぞ。操作は分かるな? ついでにお湯も溜めてきてくれ。それからアクセサリーはサウナに入る時は絶対忘れずに全部外すんだぞ。熱で金属部分が熱くなって火傷するからな」


「ん、リョウマも一緒に入る?」


「ナシルさんがいるからダメだろ」

「ん、残念」


「あの……この後メリルのマッサージをして頂けるのですよね? でしたら私はご一緒でもいいですよ」

「ナシルさん、自分の裸体で支払うみたいな事はしなくていいですよ」


「あの違います! できれば私もメリルと一緒にマッサージをして頂きたいと思いまして。図々しいと思うのですが、まだ本調子ではないようでして、少し朝がきついのです」


「あぁ、そうでしたか。失礼な事を言ってしまいました。すみません。なら、裸ぐらいもう今更って気もしますので、時間節約にもなりますし一緒に入らせてもらいますね」


「あの……サリエさんとはそういった御関係なのですか?」

「ナシルさんと同じく、サリエさんもマッサージ希望者です……」


「そうですか。あれを味わえるなら裸なんて気にしてられないですよね」


「ん! 裸ぐらい些事たること!」

「分かります! まさに夢心地ですよね!」


 2人で意気投合している……まぁ俺にとっても眼福だから喜んでやるけどね!





 やはりナシルさんはいい体でした! 俺の目と心が幸せだと喜んでいました。


「それにしても、メリルはすぐ魔素が停滞するんだな。早く魔力循環をできるように魔法を覚えないとな」


「兄様、教本をあげるのじゃなかったのですか?」

「教本で覚えると、呪文での発動になってしまうから、後で修正するのに苦労するだろ? フィリアですら苦労するのだから、まっさらなうちに無詠唱で覚えさそうと思ってね」


「そうですね……その方ががいいかもしれません」


 フェイと会話しているが、俺たちの手元ではナシル親子がだらしない顔をしてマッサージ治療を受けている。


「フェイ、ナシルさんはどんな感じだ?」

「朝がきついのは事実ですね。もともと肝臓がかなり弱っていたのでしょう。また魔力が停滞しています。メリルちゃんほど酷くはないようですが、だるさはかなりあると思います」


「そうか、じゃあナシルさんにも後であのアクセサリーをメリルと同じ付与に変えてあげるとするかな」

「リョウマさん、ありがとうございます」


 俺も少し疲労が残っていたので、フェイに軽めに揉み解してもらって全快した。

 さて昼飯だな。何しようかな……。



「お昼はすっぽん鍋にする。俺が食いたいからだ!」


「ん! やったー!」

「兄様! 嬉しいです!」


 食べた事がないナシル親子は2人のはしゃぎように戸惑っているが、食えば分るだろう。


「おろしポン酢仕立てにするので、サリエさんは大根と人参をすりおろしてください。フェイは食器の配膳だ。ナシルさんは野菜の皮むきを、メリルは白菜やキノコやネギのカットを頼む」


「ん、レバ刺しっていうのまだある?」

「あれは精もつくのでナシルさんの体にもいいか。まだ一杯あるから出してあげるよ」


 皆で協力したので準備はすぐに整った。



「では、いただきます!」

「「「いただきます!」」」


「このすりおろした大根と人参を入れて、ポン酢にこんな感じにつけて食べるんだ……うん、旨い!」


「リョウマさん、凄く美味しいです!」

「お兄ちゃん、美味しいよ!」


 前を見たら、また親子で泣きながら食べている。


「フェイの採ってきたキノコも旨いな。帰りの護衛の時にまたあの森で採ってきてくれるか?」

「はい兄様、キノコは大好きです!」


「あのリョウマさん、私もキノコ採取を覚えたいです」

「確かに昨日教えた薬草の採取場所周辺にもキノコは一杯あるんだけど、鑑定魔法がないナシルさんは止めた方がいい。毒の有るものも多いので素人には危険だ。肝臓が悪いんだから、そんなもの食ったら一発で寝込んでしまうよ。死ぬようなものはあの辺りにはなかったけど、キノコ採取は知識がないと難しいんだ」


「ん、1、2回見ただけでは判断できないような物も多い。止めた方がいい」


「あ、この2種類なら採ってもいい。類似品がないし、特徴的だから間違うこともないだろう」

「ん、それは私も野営中に見つけたら採ってスープの具に入れてる」


 流石サリエさんだ。堅実で安全な事が冒険者にとっては一番長生きできると教えてくれる。


「このレバ刺しですか? 生で食べるのには驚きましたが凄く美味しいですね」

「新鮮じゃないと生はダメだけどね。これも鑑定魔法がないなら絶対止めておいた方がいいよ」



 美味しい昼食後は、回復剤作りの授業だ。その前に例の物を仕上げるかな。


『ナビー、できているか?』

『……ふふふ、良い物ができました』


 どれどれ……おお~っ! 凄く可愛く、しかもおしゃれだ! 俺が装備してもいいぐらいだ。


『いい出来だ! これは腰ベルトに通して使うんだな?』

『……そうです。ポーチに手を入れて、イメージで取り出すような感じで使用できると思います。但し出し入れできるのは、ポーチの口幅のサイズまでですので最大でも60cmまでです』


『エッ!? 60cm? なんでそんなに広がるんだ? このポーチ自体バレーボールぐらいの大きさしかないじゃないか?』


『……ポーチの口元にいくほど広くなっています。それを蛇腹にして口元を縛るといい感じの形になるようにしました。試作段階で良いのを作る為に牛革を少し消費してしまいましたがご容赦ください』


『ああ、それは別にかまわない。ありがとうな』


 俺はナビー特製ポーチを裏返して、中に【空間拡張】と【時間停止】の付与を付けていく。外側には長持ちするように【素材強化】のエンチャントを掛けておく。


 さて、どんな感じかな。手を突っ込むとステータス画面が現れる。これは非表示にもできるが、入れた物を忘れた時にいるだろうとイメージしておいたものだ。そしてイメージしたものが自動で手元にくるようにしてある。


 入れる時は、ポーチに突っ込んでいない方の手を対象物に触れる事で転移させて中に入れられる。こうすることで、60㎝サイズの縛りがなくなった。ナビーが折角蛇腹仕様にして間口を広げる工夫をしてくれていたが、サイズ制限があると、解体しないと入れられない大きな魔獣も多いからね。


 容量だが、付与魔法では横5マス×縦10マス=最大で50個だ。1マス10kgのようなので重量制限も最大500kgまでのようだが十分だろう。



 20個作製して皆を工房に呼んだ。



「皆にプレゼントがあるんだが、1つ約束がある。サリエさん以外は絶対に人前で使わないこと。理由は見られたら皆が欲しがって、噂が広まれば確実に襲われるからだ」


 そう言いながら皆に配った。


「ポーチですか?」

「リョウマお兄ちゃん、これ可愛い!」

「ん! 可愛い!」

「兄様! フェイの分は? フェイも欲しいです!」


「フェイには必要ないからな。言っておくけど只のポーチじゃないぞ」


 俺は態と勿体ぶって一拍おいてから説明した。


「それは【時間停止】機能付きのアイテムポーチだ! 最大で50個、500kgまで収納できる!」


 サリエさんが一番驚いている。このポーチの価値を一番理解しているのだろう。


「サリエさんのポーチには事前にプリン10個とアイス10個を入れてあります。ナシルさんにはお肉をいろいろ50kgずつと、各種野菜やキノコ類の食材を入れておきました。メリルにもプリンとアイスを各20個入れてある。メリル、食べていいのは1日2個までだぞ、太ってしまうからな」


「サリエさんは自己拾得までの繋ぎだと思ってください。これで満足してしまったら獲得できなくなりますので気を付けるように」


「ん! こんな貴重な物ありがとう! ナシルさんたちは本当に気を付けるように! バレたら間違いなく襲われる」

「どうお礼を返せばいいのかもう分かりません。本当にありがとうございます」


 ナシルさんにもこの価値が分かるのだろう。ポタポタと涙を流して感謝の言葉を伝えてきた。

 1人中身に喜んでるのがメリルだ。


「1日2個まで食べてもいいのね! リョウマお兄ちゃんありがとう! お肉も食べられるんだね!」

「ああ、腐ることがなくなったからな。時々補充してやるから肉に困ることはもうないぞ」


 メリル、中身にめっちゃ喜んでいる……でも、価値はポーチの方があるんだよ?


「取り出しにコツがいるので、蓋の無い液体や食器などの壊れやすい物は入れないようにしてください。コツをつかむまでは、各自で安価なものでちゃんと練習するように」  



 さて、一息入れたら午後からは回復剤作製の練習だ。

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