5-8 サリエさんの観光ガイド

 ガラさんの商会で色々と注文をした後、いよいよ街の散策に入った。


「サリエさん、まずは防具屋が見たいです」

「ん、いいとこがある」


 15分ほど歩いた裏通りにある防具屋なのだが、良い品が揃っている。流石Aランク冒険者のサリエさんが薦める店だけはある。


「リョウマ君、何か欲しい物があるの?」

「そういうわけではないのですが、革装備で良いのがあれば買おうかなと思って。このレザーパンツみたいなのも替えが何枚か欲しいですしね」


「坊主ちょっと見せてみろ……デスフロッグの皮パンツか。良く伸びるし柔らかいから冒険者には人気の高い素材だが刺突には少し弱いんだよな。うちでも扱ってるが見てみるか?」


 これ、カエルだったのか。ずっと何の皮だろうかと思ってた。


「はい、見せてください……今、履いてるのと同じようなものですね。小さいサイズはありますか?」

「あーそうか、坊主にはちょい大きいか。いや悪いがそのサイズが一番小さいものだ。それ以上は女性用になって腰回りのサイズが微妙に変わってくる」


「え? ひょっとして俺の今履いてる物って女性物ですか?」

「ん? ちゃんと男物だが……どうした?」


「これを買った防具屋で女物と知らずに買ったかもと思ったので」

「ああそういう事か、良くそんなサイズ扱ってる店があったな。かなり大きな店か?」


「いえ、小さな防具屋ですけど売れ残ってたものを安く売ってくれました」

「ククク、そんなの仕入れるのはアホだな。坊主みたいに小柄な奴は冒険者になんかそうならないからな。ガタイの良い荒くれ者が多い冒険者ばかりなので、標準サイズ以上を仕入れるのが常識だ」


「身もふたもない言い方ですが、そうなんでしょうね。おかげで俺はいいのが買えたのですが」


『……マスター! 革装備はナビーに任せてほしいです』

『びっくりした! いきなり大声で念話してくるなよ!』


『……カエルを狩ったらナビーが鞣して、今履いてる物よりずっと良い物を作って差し上げます!』

『ああ、そうだったな。服作りはナビーの趣味にしたいんだったね。分かった、俺たちの装備品はナビーに任せるよ』


『……フフフ、ありがとうございます。ワニ革もよろしくお願いします』



「ん、良いのなかった?」

「いえ、良いの沢山ありましたよ。店のおやじもイイ感じだし、良い店ですね」


「ん、裏通りにあるけど良い店」

「明日湿地帯に行って色々革が手に入るでしょ? なのでそれからにしようと思ったので買い控えました」


「特注するの?」

「良い素材が手に入ったら、知り合いの工房があるのでそこに頼もうかと思ってます」


 ナビー工房だけどね。


「ん、次はどこ行きたい?」

「そうですね、アクセサリーなんか見たいですね」


 次に向かったのはアクセサリー専門店。美しい宝石や付与の掛かった装飾品を扱っているそうだ。


「イヤリングを見せてください」


「ご予算はどれくらいの物をお求めですか?」

「10万ジェニー以内の物で、付与が掛かっていない物がいいです」


 普通は付与が掛かってる物を求めるそうだが、俺には下級付与など邪魔なだけだ。


 フェイに似合いそうな紅いルビー色のイヤリングがあった。鑑定で見てみると……ってルビーじゃないか!

 この大きさで、片方5万ジェニーって嘘だろ! 普通1個で数十万円はするぞ。流石異世界、日本じゃまず売ってないほどの大きさだ。

 だが、問題点が1つある。片方はエンチャントを付与できる枠が2つあるがもう片方は1つしか枠がない。つまり枠の数が違うのになぜか値段が一緒なのだ。普通の人には空き枠が見えないということか? だからどっちも只の付与無しアクセサリーとして同額で安く売られているのだろう。


「これください」

「お客様、それには何も付与が掛かっていませんが、一応ルビーなので2つで10万ジェニーもするのですが、よろしいのですか? 冒険者なら、ルビーとかの宝石より、こちらの防御力が少しだけ上がる付与の掛かった水晶の方が宜しいかと思います。同じ値段で買えますよ?」


「お気遣いありがとうございます。ですが妹のフェイにはこのルビーが良く似合っています。これを買わせてもらいますね」


「分かりました。確かにお似合いです」


「それから、これとこれとこれとこれ。サリエさんはこの中で好きな色あります?」


「ん、どれが似合うと思う?」

「この紫の色が似合うのではないかな? ちょっと当ててみてください……ほら可愛い!」


「ん、これ買う!」

「そこは俺にプレゼントさせてくださいよ。ソシアさんもどうです?」


「え! 買ってくれるの?」

「ええ、いいですよ? 大金も手に入りましたし。でも色だけ選んでくださいね。品は俺が選びます」


「色もリョウマ君に任せるわ! 私に似合いそうなものを見繕ってね」

「そうですね……ソシアさんはやはりブルー系が似合いそうですよね。属性色って結構大事なんですよ。あっ、これなんてどうです?」


「へー、リョウマ君、なかなかセンスいいね。サリエさんのも凄く似合ってたし、フェイちゃんのもとてもイイ感じだよね。ありがとう、それにするわ」


「ではお姉さん、これ全部お願いします」

「ありがとうございます。42万4千ジェニーになります」


「お姉さん端数は切っておまけしてくださいね。ハイこれ40万ジェニー」

「そうですね。付与無し品ですしおまけしますね」


 買ったアクセサリーはプレゼント用に可愛く包んでもらい俺のインベントリに全部入っている。サリエさんもソシアさんもフェイもすぐ着けたそうにしていたが、帰ってからのお楽しみだ。


 服屋も覗きたかったが、ナビーがもっか製作中とのことなので任せてある。俺のインベントリ内の工房ってどうなってるのか疑問だ。そのうちナビーを問い詰めるとしよう。


「あちこち行ってる間にもう昼ですね。ソシアさんに奢ってもらいますかね」

「ん、いい店がある!」


 サリエさんについて歩く事10分。その店はメイン通りの中心にあった。昼時とあってそこそこ客は入ってそうだ。


「ちょっとサリエさん、ここ凄く高そうなんですけど!」


 ソシアさんがサリエさんに抗議するが、俺は知らん顔して中に入る。


「じゃあ、ここに入りますか」


 俺たちは1万ジェニーのコース料理を頼んだ。勿論この店で一番高いメニューだ。ちょっと涙目のソシアさんだったが、もともと俺に1万ジェニー払ってでも美味しい物が食べたい食通だ。すぐにニコニコ顔になり美味しいねと素敵な笑顔を見せてくれた。


 このコース料理のメインは肉だったのだが、平原の方で取れる猪の魔獣の肉だそうだ。この肉も欲しいなと思ったのだが、あれもこれもは無理だから今回はこの場で食べて満足する。


「ソシアさんごちそうさまでした! サリエさん美味しい店でした」

「ソシアさん美味しかったです! 兄様に負けないレベルの味でした! 兄様、また来たいですね」


「そうだな、また来よう」


『……マスター! ユグドラシル様から緊急に相談したいことがあるそうです』


 ナビーがユグちゃんって言ってないし、緊急? 何か悪い事でも起こってるのか?


『すぐに繋げてくれ!』

『創主様、お楽しみのところ申し訳ございません! 急ぎご相談したい案件があります!』


『どうした? 何かあったのか?』

『今、11歳の女の子が犯罪に手を染めようとしています』

 

『ん? そんなことは良くある話じゃないのか?』

『その子は2年後に巫女になる予定の子です! とても良い子なのです!』


『事情は分からないが、すぐ止めろ! 念話で神の名を出していい!』





 数分後ユグちゃんから再度念話が入った。


『思いとどまってくれましたが。この後どうしましょうか?』


「リョウマ君? ボーッとしてどうしたの?」

「兄様? 何かあったのですか?」


「少し席を離れます。ちょっとここで待っててください」



 少し離れた裏路地に入って行き、話の続きをした。


『事情が分からないので説明してくれ』


『ハイ、その子は11歳の女の子なのですが、母親が過労で体調を崩し半年ほど前に寝込んでしまいました。収入は冒険者をしている父親だけになってしまったのですが、帰宅予定日より20日経っても帰ってきません。Cランクの冒険者だったのですが、最近良いPTに入れてダンジョンの上層階で雑魚魔獣を狩って食べていけるだけの稼ぎはあったのです。ですが1月ほど前に素人の新人ソロプレイヤーのトレインに巻き込まれてPTごと死亡してしまったようです。連絡が取れない父親が亡くなった事も知らず待っていたのですが、帰ってくる気配もなく、冒険者ギルドにも問い合わせるが分からないと言われ手持ちのお金が無くなって4日ほど何も食べてない状態です。既に母親の方は餓死寸前の状態です』


『それでその子は窃盗か何かしようとしていたのか?』

『その通りです。契約奴隷に身を落とす事も考えたようですが、それだと母親を看病する者が居なくなります』


『これまでにも巫女候補が犯罪者になるようなケースはあったのか?』

『ハイ、似たような事案が3例ほどあります』


『その時はどうした?』

『システムに則って、何もいたしておりません。捕まり犯罪奴隷として売られ、高級娼婦として生きた者もいます』


『今回はどうして関与しようとした?』

『分かりません……でも創主様の花嫁になれる素質があるのに、落ちていくのは我慢できなかったのです』


『11歳で花嫁候補ね……その子は今どうしている? どこにいる子だ?』

『うな垂れて、路地裏で呆然と致しております。場所はちょうど創主様が今いる商都ハーレンの街の南通りです』


『近くならそれを早く言え! 向かうから案内しろ……ナビー、MAP案内頼む』



「ちょっと皆いいかな? 私用ができたのでここで解散にしてほしい」

「ええー、なんで? 私用ってなによ!」


「急ぎなんだ! ソシアさんごめん! サリエさんもごめんなさい!」

「ん、続きはまた今度……」



 食事を奢ってもらってすぐ解散はソシアさんに申し訳なかったが、神殿関係の急用だと言って了承してもらった。今度埋め合わせしますね……ごめんなさい。

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