5-2 受付嬢のイリスさん

 現在受付嬢のイリスさんに連れられて、ギルドの裏手にある解体作業部屋に来ている。


「それにしても大きいですね、バナムの倍近くないですか?」

「商都なので、依頼が集まってくるから、それなりの規模になるのよね」


「『商人ある所に依頼有り』ですね」

「まさにその通りね。リョウマ君、ニリスから毎日のようにコール通話でリョウマ君たちの話を聞いていたので妙に親近感が湧いちゃって、こんなフレンドリーに話しちゃってるけど嫌じゃない?」


「全然嫌じゃないですよ? どうしてです?」

「初対面で馴れ馴れしいと思われてないか、ちょっと心配になって聞いてみたの」


「ちなみに仕事モードのイリスさんの対応だとどんな感じなんですか?」

「ふふふ、気になる? リョウマ様、フェイ様、ここが当ギルドの解体用作業倉庫になっています。もうすぐギルド長も到着致しますので、今暫くの間お待ちくださいませ。リョウマ様より当ギルドに魔獣を売っていただけるとのことでございますが、先にそちらの鑑定を済ませたいと思っておりますが、よろしいでしょうか? 鑑定は1級鑑定士の資格を取得している、わたくしイリスが担当させていただきます」


「「…………」」


「なんで2人して黙るのよ」


「いや~何と言うか、それはそれで良いと……」


「事務的だけど、悪い気はしないでしょ? マニュアル通りだから無難な対応だよね。当たり障りがないというか、ちゃんと礼儀正しくしてればトラブルにはなりにくいので、一応ここの受付嬢はこのくらいの言語力は持ってるわよ」


「素晴らしいです。でもさっきの話だとギルド長とやらが来るんですか?」

「そんな嫌そうな顔しなくても、悪い人じゃないので大丈夫よ」


 イケメンエルフがちょっと残念な人だったのでね……。


「魔獣はここに出せばいいのですか?」

「ええ、お願い」


 フェイが狩った分の魔獣とシルバーウルフ4体、鹿と野兎をだした。


「シルバーウルフなのですが、ギルドの方に依頼が確か出ていたと思います。依頼を受けてから相手方との交渉で剥ぎ取り方が変わるので、これはまだ保留ですかね。オーク肉と鹿肉、野兎の肉は売らないので、剥ぎ取りだけお願いします。それ以外は全部魔石込みで売りたいと思いますのでよろしくお願いします」


「お肉以外のオークの魔石や毛皮とかの素材は売ってもらえるのかな?」

「ええ、構いません。欲しいのはお肉ですので」


「スタンプボアもあるじゃない、これは売ってくれるの? イノシシ系の魔獣でとても美味しいお肉なんだけど」


「あ、それも売らないようにお願いします」


「そんなにお肉どうするの? どっか専属で肉屋さんに卸してるとかなの?」

「違いますよ、売るならちゃんとギルドを通して売ります。お肉は水神殿に寄贈しますので結構な量がいるのです。なにせ騎士も入れたら食べ盛りの若者が40人近くなりますからね」


「ああ、そういうことね。オークキングやオーククイーンも寄贈したって聞いたけど本当なの?」

「本当ですよ、お肉大好きな9歳の女の子がいまして。小さいお口で頬一杯にしてもきゅもきゅしてとても美味しいそうに食べてる姿を見てしまってますので、できるだけ送るようにしています」


「そういう理由なら仕方ないですね。魔石の大きさなどもあるので鑑定は剥ぎ取り後になるけどいいかな?」


「ええ、勿論いいですよ。シルバーウルフって1頭どれぐらいの金額なのですか?」

「そうね、今の相場は15~25万ジェニーぐらいかしら。毛皮の質と獲れる魔石の質で前後するけど……」


「バナムで出ている依頼でもこちらで受けられるのですか?」

「勿論受けられるし、報酬もどこのギルドからでも受け取れるので、私に言ってくれれば手続きをするわよ」


「では、シルバーウルフの依頼手続きと、バナムで査定の終えている分の報奨をこっちで受け取る手続きをしてもらえますか? それと、ガラさんの依頼のホワイトファングウルフとサーベルタイガーの依頼もですね」


「いいけどせっかちね、もっとゆっくりお話ししたいのに」

「あ、すみません。今回護衛依頼を一緒した『灼熱の戦姫』の方たちと討伐依頼に行こうという話になってまして。それの依頼を見る為に待ってもらっていますので、ゆっくりしている時間はありません」


「あらごめんなさい。人を待たせていたなんて知らなかったので許してね」

「ええ大丈夫ですよ。時間がかかるのは相手方も分かってくれていますので。では狼と虎はこの床の方に出しますね。っとその前に【クリーン】」


「随分慎重なのね。な! なにそれ? そんなに大きいの!」

「慎重にもなりますよ。なにせこの狼、最低でも3千万ジェニーになるそうですからね。汚れ1つでもつけたらガラさんに怒られてしまいます。虎の方も相当の額になるそうですよ」



「ホーこりゃ立派な狼だな!」


 うわっ声でけー、と思って振り返ったら、身長もでかかった。この人? 2m50cmはありそうだ。


「ギルド長、挨拶を忘れてますよ」

「おおこりゃ失礼、儂がハーレン支部のギルドマスターのザック・ギガウスじゃ。ザックでよいぞ」


「アイアンランク冒険者のリョウマと妹のフェイです」


「ふむ、この王狼は兄妹で倒したのか?」

「いえ、俺一人です。妹が倒したのはそっちの虎の方です」


「嬢ちゃんもなかなかやりおるの。この猫もかなりすばしこく、力も強いので何人もの冒険者が逆に狩られておる、大したもんじゃ」


そう言いながら、忌々しそうな顔をして蹴りやがった。気持ちは解らないでもないが、許せん!


「ああ! 蹴っちゃダメですよ! 王子と姫様の誕生祝に贈る品ですよ! 不敬ですし、傷がついてたら弁償してもらいますからね!」


「そうなのか? それはすまなんだ。それほど力は入れておらんので大丈夫だ!」


「何言ってんだ! そんなでっかい巨体で力は入れておらんとか言っても信じられるわけないでしょ!」

「そうよ! このバカ巨人! リョウマ君大丈夫? 傷んでない?」


 イリスさん……上司に向かってそれはちょっと……。


「どうやら大丈夫のようですね。他人の数百万もする毛皮を蹴るなんて、それでギルド長とかありえんわ。姫様への誕生祝になる品なのですよ? 不敬罪とかになりませんか?」


 俺はさっさと狼と虎をインベントリに仕舞った。また蹴られてはたまったものじゃないからな。


「そんなに怒らなくても良いではないか……最近の若いもんはすぐ切れるからいかん」


「ちなみに狼の方は3千万以上しますからね。ギルド長が何かやらかしたらうちのギルドは大損ですよ。巨人族は力加減が分からないから嫌なのよ。ドアは壊すし、椅子は壊すし、コップは割るし……」


「イリスさん、この人何しにここに来たんですか?」

「ぷっ! ニリスの言ってた通り、リョウマ君もなかなか毒舌ね。でも今回は仕方ないわね」


「悪かったって。もう勘弁しておくれ。キングを倒した少年たちが来るというので、楽しみにしていたのだよ。そうしたら今度は王狼を倒したと言うではないか。顔を拝みに来たのじゃが、嫌われてしまったようじゃの」


「命懸けで狩った数百万もする獲物を足蹴にされたのですよ。怒らない方がおかしいと思いますが?」

「そうじゃな、儂の配慮が足らなんだ。どうか許してほしい」


 ギルド長は大きな巨体を小さく丸め、深く頭を下げ謝罪してきた。


「謝罪をお受けします。フェイもいいな?」


「兄様、別にフェイは怒ってないよ?」

「おい、そこはちゃんと怒るとこだぞ。まあいい」


「ギルド長が人に謝るのも珍しいですね……」

「何を言っておる、悪いと思ったらちゃんと謝るわい」


「じゃあいつもは悪いと思ってないのですね」

「まぁ、そうじゃな。儂も元冒険者だからな、自分の狩った獲物を足蹴にされたら当然怒っておる」


「へー、ギルド長は冒険者だったのですか?」

「リョウマ君は知らないのね。この巨人のおじいちゃん、元Sランク冒険者『双斧破壊のザック』って二つ名持ちよ」


「おじいちゃんは酷いな、巨人族では86歳は一般人の30歳ちょっとの年齢だぞ? 儂なんかまだまだじゃ」


「それに元とか言ってるけど、このおじいちゃんめちゃくちゃ現役よ。おそらくハーレンで一番強いわよ。あの筋肉、引退した老人の体に見える?」


 ハーレンで一番強いのか、ちょっとからかってみるかな。さっきの事もこれでお相子だ。


『フェイちょっと威圧を発動する。気構えをしておけ』

『分かりました、兄様』


 俺はいきなり【王の威圧】を発動した。フェイは事前に知らせておいたので余裕で耐えたが。イリスさんはきゃーと可愛く叫んでへたり込んでしまった。そして肝心の巨人のおじいちゃんなのだが。


「へー、余裕ですね」

「ほー、嬢ちゃんも余裕であれに耐えるか」


「すみません、無礼を承知でスキルを使いました。イリスさん大丈夫ですか? パンツ見えてますよ」

「もう! びっくりしたじゃない。なんなのあれ?」


「あれはスキルなのか? 気の開放に似ておるが違うのか?」


「秘密厳守でお願いします。守れますか?」

「言うなと言われたことは、誰にも言わぬ、安心せい」


「このスキルは、オークキングを倒した時に手に入ったもので【王の威圧】と言います。さっき放ったのはそれのレベル6のモノだったのですが、素人のイリスさんですら座り込んだ程度ならあまり使えないですね」


「何を言うか、イリスはハーレンの受付嬢の一番人気の娘じゃ、当然邪な考えを持った奴も来る。そいつらに良いようにされないように、精神汚染耐性、威圧耐性、魅了耐性、魔眼耐性などの各種耐性効果のあるアクセサリーを何個も装着させておる。もちろん自己でも耐性を上げる訓練をしているじゃろう。さっきのは一般人なら気を失うほどの威圧じゃったぞ」


「そうなのですか? 初めて使ったのでどれほどの効果があるのか知りませんので、あまり使えないものかと思ってしまいました」


「時々王種はスキルを得られると聞いていたが、本当じゃったのじゃな。わしも何体か王種は倒しておるのに何も得られなんだ。何か条件があるのかもしれんな」



「おっとすみません、人を待たせているのでぼちぼち切り上げたいのですが、いいですか」

「ああ! ごめんなさいそうだったわね。すっかり忘れてたわ」


「俺は、待つのも待たせるのも嫌な性質なので。今日は帰らせてもらいます」

「ふむ、時間を取らせてしまってすまなんだな。イリス後は頼んだぞ」


「はい。それじゃリョウマ君、書類はもう出来ているので、さっきの部屋に行きましょうか」



 ギルマスに捕まると長くなりそうだったので、『灼熱の戦姫』を待たせていると言って上手く逃げ出した。

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