4-16 フェイの【ファッションドレッサー】

 野営地で夕飯の準備をしていたら、ナビーが話しかけてきた。


『ナビーどうした?』

『……フェイがいつまで経っても言わないのでお知らせしておきます。マスターから10km以上離れて狩りをしたせいで単独の経験値となり、フェイのレベルが1つ上がっています』


『そりゃーあれだけソロで狩ったらレベルも上がるよな……あいつ浮かれて忘れてるんだろう』


「フェイ、お前俺に何か言わないといけないことないか?」

「え? 兄様に怒られるような隠し事はしてないですよ!」


 面白いように狼狽えている。別に怒るつもりはないのだが、フェイの反応を見てたらまたからかいたくなってしまう。


「そうか? あれだけ狩っておいてレベルとか上がってないのか?」

「あっ! そうでした……言うの忘れていました」


「フェイちゃん、レベル上がってたのか。おめでとう!」


「「「フェイちゃん、おめでとう」」」


 皆が祝福してくれているが、俺に怒られるんじゃないかと少し不安顔だ。

 俺、そんなにいつも怒ってるかな。


「良かったな、皆が祝ってくれてるぞ。俺もお祝いに新作のデザートを夕飯に付けてやろう。凄く旨いぞ」


 俺が怒ってないと判断したフェイは満面の笑顔で皆に笑いかけた。


「皆さんありがとうです! 嬉しいです!」


 その笑顔はダメだろ! 追尾組の男どもなんか顔を赤らめて見惚れてるじゃないか。


「サリエさん、ソシアさん、今日の個人授業はお休みにしてください。丁度その時間の頃にフェイがレベルアップ痛の時間でしょうから、今日はゆっくりさせてあげたいと思います」


「勿論いいわよ、レベルアップは嬉しいけど、あれ結構きついものね。ゆっくりしてあげて」

「ん、私はいつでもいい。暇なときに呼んでもらえたらいつでも教えに行く」


「ありがとうございます。さて、それじゃあ夕飯にしますか」


 本日の夕飯の献立

 ・神殿の湖産白身魚フライの甘酢あんかけ

 ・鶏の唐揚げ

 ・麻婆ナス

 ・生野菜のレモンドレッシング和え

 ・パン・米飯

 ・イチゴオレ・バナナオレ

 ・ティラミス・プリン


 飲み物やデザートは選択式にしたつもりだったのだが、全員が両方食べてしまった。これは見せるべきではなかったと反省だ。かなりボリュームがあったが、皆、美味しいと完食してくれた。


 今回野郎どもには何も無しだ。欲しそうな目で見ていたが毎回くれてやっていては当たり前のようにねだってくるようになる。現に何もないの?みたいな目で訴えかけている。


 今回1人混じって一緒に食事したダリルさんは、俺にお礼を言った後、PTに戻ったのだが、皆にありがとうと言って泣いていた。


 聞こえた会話はこうだ『あんな旨いものはもう一生食えないだろう。お前たちのおかげで良い思い出ができた。本当にありがとう!』だそうだ。


「ダリル、お前泣くほど旨かったのかよ?」

「お前たちには悪いが、泣くほど旨かった。本当にありがとう」


『ナビー、お前の作ったものも含まれているんだぞ。なんか嬉しくないか?』

『……そうですね。人の笑顔は見ていてほんわかした気分になれます』


 ナビーにはどうやら感情がある。個として存在していて、もうこれはシステムではないな。


『そうか、俺もそう思う』


「フェイ、片付けはいいから先に風呂に入ってしまえ。おそらく後30分で痛みが来るぞ」

「分かりました、では兄様に後片付けはお願いしますね」


「『灼熱の戦姫』の皆は、お風呂どうします? 入るなら21時以降になりますが」

「フェイちゃんはいいの?」


「21時以降なら痛みも治まってますし、逆にテンションが上がってて中々寝ようとしません」

「ああ、それ解る。レベルが上がって痛みが治まると妙にハイになるのよね」


「コリンさんが【クリーン】の魔法が使えるようなので風呂は別にいいですか?」


「「「入りたいです!」」」


 全員入りたいそうだ……。


「貴族でもない限り、早々お風呂には入れないのよ。風呂付の宿は高いから、ゴールドランクの私たちでも滅多に泊まらないんですよ。それに本来貴族でも移動中はお風呂なんて入れないです」


「でも今日は村に行けば入れますよね? 本当に入りたいなら宿屋に泊るでしょう?」

「そうね。護衛任務中じゃなかったら入りたいところだよね。でもこの村は凄く高いからどっちにしろ【クリーン】で我慢するかな。日当が飛ぶようなとこには泊まりたくないしね」 


「中の事を言いふらさないようにしてくれるという条件付きで、ソシアさんとサリエさんを案内係として3人ずつ一緒に入ってもらえるならお貸ししますよ」


「信用してもらっていいの?」

「ええ、皆さん神への信仰値が凄く高いのである程度は信用しています」


「じゃあ入らせてもらうわね。やっぱりお風呂は気持ちいいから」

「フェイの痛みが治まったら、ソシアさんにメール入れますので、着替えを持ってログハウスまで来てください。男性陣は風呂に招待はできませんが、もし【クリーン】を誰も持っていないなら俺が無償で掛けてあげますよ。【クリーン】は必要ですか?」


「俺たちは頼みたい!」


 ブロンズ組は学校で習ったとヒーラーさんが持っていたが、他は持ってないらしくお願いしてきた。生活魔法レベルの簡単な魔法なのだが、レアな聖属性の他にも何種類かの祝福がいる為、意外と持ってないのが現実だった。

 サリエさんも持っていないようなので今度教えてあげよう。商人とシルバー組に【クリーン】を掛けてあげ、その場は解散となった。


 『灼熱の戦姫』のメンバーは、さっきの夕飯でまだ盛り上がってるようだが、俺にはこれからしたいことがある。





 皆から少し離れて、俺は【クリスタルプレート】のフレンド登録からフィリアにコールを入れて呼び出した。


「リョウマ! なぜもっと早く連絡を寄こさんのじゃ!」


「フィリア様、第一声が―――

「フィリアじゃ! 何度も言わすでない! いい加減覚えぬか……」


「……フィリアたちは食事中ですよね? 今いいかな?」

「勿論構わぬぞ。それよりもっとこまめに連絡を寄こさぬか」


「俺の周りには冒険者や護衛している商人たちが一杯いると先に言っておくね」


 そう言いながらテレビ電話機能の画像で俺の周りの皆を映して見せた。


「其方だんだん手口が巧妙になってきておるの。妾が口煩く言わないように、人を集めて牽制しおったのか……皆もナナも心配しておるのじゃぞ」


「ナナの名前を出して……フィリアこそずるいじゃないですか」


「リョーマはナナのことを何とも思ってないの?」

「何言ってんだ、ナナのことは大好きだぞ~」


「えへへ、ナナもリョーマ大好き!」


「バカ師弟っぷりは相変わらずじゃの。リョウマの方は順調にレベルは上がっておるのか?」

「ええ、その辺はぬかりなく。そろそろカリナさんの武器じゃきつくなってきたとこです」


「リョウマ君! 武器の選定は命に係わる、レベルに見合った装備をするようにと私は教えたよな?」

「カリナさん、大丈夫ですよ。ちゃんと用意はしています。剣ではなく、自分の手に馴染む刀にしようと思ってこれから練習を開始するところです」


「それならいい。それにその防具じゃもう厳しいだろう?」

「この防具一式、結構俺に似合ってて、しかもカリナさんの良い匂いがするので、ついつい交換するのに迷ってしまいます」


「なっ! 良い匂いとか……恥ずかしいことをナニ平気で言っているんだ!」

「ふふふっ、顔真っ赤にして……カリナさんはやっぱり可愛い人ですね」


 あらら、真っ赤になって俯いてしまった。最初の頃はあれだったが、この人やっぱ可愛いな。


「リョウマ、あまりカリナをからかうでない」


「リョウマ君、ちょっと話中すまない!」


 ガラさんの声で振り返ったら、全員が跪いて最敬礼の姿勢を取っていた。


 あ! しまった……俺の不注意だ。フィリアにもガラさんたちにも余計な気を使わせてしまった。


「すみません、俺の不注意でしたね……余計な気を使わせてしまいました」

「いや、そんなことはない! むしろお声が聞けて光栄に思っている! 良ければ挨拶させてもらっていいか?」


「はい、紹介します。フィリア様、この方が今―――

「フィリアじゃ!」


「フィリア、この方が今、俺の依頼任務で護衛している商隊のリーダーのガラさんです」


「お初にお目にかかります。今回この商隊のリーダーを務めています、ニコラス商会のガラ・ニコラスと申します。そして隣に居る者が護衛リーダーのマチルダです」


「クラン『灼熱の戦姫』のリーダーで、名をマチルダと申します。お話できてとても光栄です」


「ふむ、其方ら、そうかしこばらなくても良い」

「ガラさんには今回買取やらその他もろもろで暫くお世話になりそうですし、『灼熱の戦姫』のメンバーにはギルドの受付の紹介で冒険者の為の指導をしてもらってます。色々知らないことが多くて、助かってます」


「ガラさん、マチルダさん、リョウマはとんでもない山奥育ちじゃそうで、多岐に渡って常識を知らぬ。目が飛び出そうになったり、顎が落ちそうなほど驚く事もしばしばあるじゃろうが、根は善人故善きに計らってやってもらえるかの。時々小生意気な口を聞くが、そこは15のこわっぱの言じゃ、大目に見て聞き流してやってほしい」


「酷い言いようだな!」

「それよりリョウマ、妾に用があったのではないのか?」


「そうだった! 例のベッドが完成したので30分後に転移陣にナナを寄こしてもらえますか?」

「おお! 待っておったぞ! アレは良い物じゃ!」


「それと3日後にハーレンに着きますので、そこで神殿のアイテムボックスにに牛乳と卵をまた手配してほしいのですが、お願いできますか?」


「フム、妾に任せておけ。他に欲しい物はあるか?」

「それだけでいいです。お礼に今日フェイが狩ったオークの肉1頭分とデンジャーオストリッチというでっかい鳥の肉を熟成させてから送りますので皆で食べてください。今日贈る分にはオークだけ送りますね」


「デンジャーオストリッチ! 希少なお肉じゃが、其方売らなくても良いのか? 冒険者になってお金に困っておらぬのか? 妾も巫女の皆も凄く心配しておる」


「お金は既に一般市民なら一生働かないでも暮らせるほどの金額を稼いでいます。昨日ホワイトファングウルフという狼の王種を狩る事ができまして、ガラさんの商会が引き取ってくれます。それが数千万になるそうです」


「リョウマ、王狼を狩ったのか。それより上の狼種となると、狂暴性の高い単独行動のブラックファングウルフしかおらぬの。さらに上にはもう聖獣や神獣扱いのフェンリルじゃな」


「フェンリルって実在するのですか?」

「どうじゃろうな? 昔は時々目撃されていたのじゃが、もう100年以上も噂すらないのう」


「そうですか、絶滅したのか隠れてるのかもしれないですね。それとこれ、その時の狩りの動画です。後、ベッドと一緒に新作のデザートを1人3個ずつ食べられるように送りますね。いいですか、1人3個ですよ。レシピはまたサクラにメールで送りますので、追加はサクラに頼んでください」


「新作のデザート!? リョーマ! それ早く送って! ナナ、今から転移陣の前で待ってるね!」

「リョウマ……食事中なのにナナが走って行ってしまった。すまぬがすぐに送ってくれるかのう」


「そんな事言って、本当は皆が居なかったらナナと一緒にすっ飛んで行ってたでしょ?」

「な、な、何を言っておるのじゃ! く、くだらないことを言ってないで、さっさと新作のデザートを送るのじゃ!」


「はい、はい、了解です。またそのうち連絡しますね。護衛任務中は早々連絡できませんので、次は3日後になります」


「ふむ、仕方ないのう。くれぐれも気を付けるのじゃぞ」


 サクラが何か言いたそうにしていたが、申し訳ないがナナが待っている。今度ゆっくり一人の時に連絡しよう。


 通話を切ったのだが、ちょっと場が騒然としてしまっている。


「皆さん、俺の配慮が足らずご迷惑おかけしました。ちょっと急ぎで神殿に贈り物をするので、席を外しますね」


 皆色々言いたそうだったが、フリー通話で会話を聞いていたのでナナという少女が待っているのを理解してくれている。






 今年は豊作で、今現在5月に新たに巫女4人、姫騎士3人も神殿入りが決まっているのだそうだ。なのでベッドも多めの25台送るようにした。


 サクラとアンナさんは今年で任期満了なんだよな……殆んどの巫女は帰国後に結婚話が控えているそうだ。

 サクラがどうするのか聞いてないけど、16歳で結婚とか早いと思うのだが、こっちの世界だと普通らしいし、18歳のアンナさんはともかく、16歳のサクラはなんかショックだな。



 ベッドとオーク肉とティラミス、そしてついでにアイス3種を送ってやったのだが、30分もしないうちに皆から感謝のメールが続々届いた。喜んでもらえて何よりだ。



 さてと、じゃあ覚えてるうちにやりますか。


【魔法創造】発動

 1、【ファッションドレッサー】

 2、人型の模型に装備品を登録できる

   登録数は5つまで可能とする

   登録した一式装備に名前をを付けられる

   登録カ所は、一式を以下の場所とする

    ・武器右手

    ・武器左手

    ・頭(帽子・ヘルム・フード)

    ・耳(イヤリング・ピアス)

    ・目(メガネ・擬装用カラーコンタクト)

    ・首(ネックレス・チョーカー)

    ・下着(パンツ・女性はブラジャーの装着項目あり)

    ・インナー上着

    ・上着1(インナーの上に重ね着)

    ・上着2(上着1に重ね着)

    ・上着3(上着2に重ね着)

    ・最上着(コート・マント等)

    ・肩1(肩当・肩パット・矢筒・ショルダーポーチ等)

    ・肩2(肩当・肩パット・矢筒・ショルダーポーチ等)

    ・肩3(肩当・肩パット・矢筒・ショルダーポーチ等)

    ・背中1(盾・弓・刀・剣・矢筒・リュック等)

    ・背中2(盾・弓・刀・剣・矢筒・リュック等)

    ・背中3(盾・弓・刀・剣・矢筒・リュック等)

    ・防具上(胸当・鎧・プレート等)

    ・腰1(武器・腰巻・腰当・腰ポーチ等)

    ・腰2(武器・腰巻・腰当・腰ポーチ等)

    ・腰3(武器・腰巻・腰当・腰ポーチ等)

    ・腰4(武器・腰巻・腰当・腰ポーチ等)

    ・右腕1(盾・腕輪・腕当・ガントレット等)

    ・右腕2(盾・腕輪・腕当・ガントレット等)

    ・左腕1(盾・腕輪・腕当・ガントレット等)

    ・左腕2(盾・腕輪・腕当・ガントレット等)

    ・手(ナックル・各種グローブ等)

    ・指(指輪等)

    ・ボトム(スカート・ズボン・パンツ等)

    ・膝(膝当・レッグプレート等)

    ・足首(足輪等)

    ・靴下

    ・靴

   装備しない箇所は空白にしてよい

   名前タグをイメージすることで、一瞬で登録装備を装着可能とする

   装備変更時は光のエフェクトがかかり、肌の露出を周りに見えなくする

   フェイは特例として人化する場合に指定がなければ、強制的にセット箇所1番目を発動する

   フェイは特例として竜化する場合に自動で全ての装備品をインベントリに強制収納

 3、イメージ!!

 4、【魔法創造】発動


 ふぅ、色々装備箇所が多いのでイメージするのに集中がいったが上手くできたようだ。

 まぁ、このスキルは主にイチイチ竜化の度に全裸になっているフェイの為のスキルなのだが、朝とか、急な襲撃なんかの時には俺も役立つだろう。それにこれでフェイもアクセサリーが付けられる。これまでは竜化すると小さくなるためアクセサリー類は無くす可能性が高かったので装着していなかったのだ。




【呪縛契約】

 ・神の呪術契約で縛ることができる

 ・どんな契約かはその都度決める

 ・呪い発動の条件はその都度決める

 ・契約なので呪いの種類や発動条件の同意を得ないといけない

 ・契約は対象の同意なく一方的に解除できる



【強制呪縛】

 ・神の呪術で縛ることができる

 ・どんな呪いかはその都度決める

 ・呪い発動の条件はその都度決める

 ・強制的に発動できるが、熟練度で縛れる威力が変わる

 ・呪縛は対象の同意なく一方的に解除できる



【祝福呪縛契約】

 ・神の呪いで縛ることができる

 ・どんな呪いかはその都度決める

 ・呪い発動の条件はその都度決める

 ・契約なので呪いの種類や発動条件の同意を得ないといけない

 ・契約で縛っている間はリョウマの祝福を得られる

 ・与える祝福はその都度決める

 ・縛ってる契約の種類や条件で、得られる祝福の効果が上がる

 ・契約は対象の同意なく一方的に解除できる




 人を呪文で縛るのもどうかと思うが、俺はヤバい魔法も多い。善人に教えるのはいいが、どこかでうっかり悪人に流れてしまったら相当まずいことになる。やはりある程度は制限を掛けさせてもらった方がいいだろう。それと今後【強制呪縛】の魔法が活躍することが多くなりそうだ。殺すほどのこともないが、見逃せない小悪党をこれで縛ってしまうのだ。軽犯罪とか未遂なら程度にもよるが執行猶予3年とかつけて放逐してもいいかもしれない。半ば強制でも更生の機会は与えてやったほうがいい。



 新たなスキルを増やし、フェイの第一装備はやっぱ冒険者装備だよなと考えながら、ガラさんたちを放置でフェイの待つログハウスに向かうのだった。

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