4-17 美味しい食材情報

 ログハウスに入ると、フェイはベッドにちょこんと座って姿見を前に【ドライヤー】をかけて髪を乾かしていた。


「兄様、お帰りなさい」


「只今、その様子だとまだ痛みはきていないようだな?」

「うん、まだだよ」


「フェイの髪は綺麗だけど、腰まであって長いから乾かすのが面倒だよな。そのまま寝たらベッド濡れちゃうし、ホント面倒だよな。いっそショートヘアにしてみるか?」


「兄様は短い方がお好きですか?」

「いや、どっちかと言うとそのくらいの長さが好きだな」


「じゃあ切りません。兄様、もし短く切ったとして、竜化の姿に戻った時、羽? 髪の毛? にあたる部位はどうなるのでしょう?」


「前にもこんな話しなかったか? ナビーその辺はどうなってる?」


『……どうなのでしょう? 他の竜神達は羽ではなく鱗ですし、そもそも髪は一定の長さを保って伸びないそうです。切ったことがないから分からないようですね』


『ネレイスの髪も凄く綺麗で長かったが、切ったことないのか?』

『……ないようですね。試しに切って見ます? ふわたくれた雀のような姿が、羽が刈り上げられて猛禽類の鷹のように凛々しくなるかもしれませんよ』


『嫌だよそんなの……フェイはふわたくれたモコモコだから可愛いんじゃないか』


「よし、髪の毛切るのはなしだな! フェイ、乾かしてやるからおいで」

「やった! 兄様に乾かしてもらうの気持ち良いので好きです」


「それから、さっき創った新しい魔法だ。コピーするから自分で今のうちにセットして、ちゃんと練習しておくんだ」

「これは? あ! フェイの為に創ってくれたんですか? 兄様ありがとうです」


「主にお前の為だが、瞬間装備ができるようになるのは俺にもメリットはある。毎回裸になってるお前の為だが、これで最悪町中で万が一急に人化する羽目になっても衆目の中での全裸は免れる。ちゃんと第一装備は冒険者装備を設定するんだぞ。第二装備辺りに普段着のワンピースなんかにすると良いかもな」


 髪を乾かし終えたフェイは、練習がてら竜化したり人化したり、冒険者のフル装備からワンピースに変更してみたりして遊んでいる。


 俺は楽しそうに遊んでいるフェイをスキルのできを見るのに観察していたのだが、イメージ通りの出来栄えに満足だった。


「兄様、これ凄くいいです。わざわざ脱いだり着たりする手間がなくなりました。ありがとうです」


「MPも使ってるだろう? 消費はどれくらいだ?」

「MP消費は3ですね。MP消費軽減のパッシブを使っていますので、初級魔法と同じ量です。でもこれ、着脱時にちょっとコツが要りますね」


「ん? どんなだ?」

「兄様もやって見たら解りますが、手や脇の間や足も軽く開いてないと発動しません。発動時は足が浮いた浮遊感があるので変な感じですね」


「成程な、靴を履くのに地面と密着してると駄目なんだろう。指も開いてないと指輪の装着ができないな。俺のイメージとしては分子レベルの分解と再構築のイメージで創ったんだけど、ユグちゃんが創造可能なように補完してくれてるから、その辺は多少違ってるのかもしれない。そのうちユグちゃんが俺たちの様子を見て、使い勝手の良いように改造してくれるだろう」


「あ! 兄様、痛みがきました。今回【痛覚無効】は使いませんね。【痛覚半減】レベル1で我慢してみます」


「なんでだ?」

「冒険者の人は我慢してたようなので、フェイもちょっと我慢してみます」


「うーん、意味ないと思うがな。そもそも半減魔法で痛みはレベル1でも半分になってるんだぞ。痛み半分の状態で冒険者と比べてもダメだろう。もともと耐えられない程の痛みじゃないんだから、やるなら全部切らなきゃ意味ないだろ?」


「そうですね……分かりました。あたたたたたっ」

「ひゃはは、お前はケンシロウかよ。あべし!」


「ナニ訳の分からないことを言っているのですか! あ……だんだん慣れてきました。確かに我慢できますね」

「ふ~ん、フェイって痛みに強い子なの? 爬虫類だから痛みが鈍いのか?」


「兄様が何故、爬虫類は痛みが鈍いと思っているのか理解できません。それにフェイは爬虫類じゃないです!」

「ドラゴンは爬虫類だろ?」


「違います! ドラゴンは竜種です!」

「だから、爬虫類ジャン」


「竜種です!! トカゲとは違います!」

「もういいよ……それで我慢できそうか?」


「はい、慣れれば結構大丈夫ですね」

「無理しないで、我慢できないようならすぐスキル使うんだぞ。そんなことに意味ないんだから」


「意味はあると思いますよ。万が一腕がちぎれた時とかの非常時に、痛みで何もできないとかより、ある程度痛みにも耐性を付けておいた方が良いのではないですか?」


「バカだなー、その最悪な想定も見越して【痛覚無効】を創ってるんだろうが。むしろ痛みが無いので無双しすぎて出血性のショック死とかのほうが心配だよ」


「あうっ、そうでした。兄様にかかれば痛み耐性の強化なんて無駄な努力でした。素直に【痛覚半減】レベル3を使わせてもらいます」


「そうしとけ、でも無効の方じゃなくていいのか?」

「そこまでの痛みはないですので、大丈夫です」


 ほどなく痛みも治まったので、『灼熱の戦姫』のお姉さま方をお風呂に招待した。


 最初部屋の中を見回して騒いでいたが、早く入れと追い立ててやっと一組目がお風呂に向かった。最初の組はマチルダさん・パエルさん・サリエさんの3人のようだ。2回経験のあるサリエさんが使い方を教える係なのだ。彼女らは、1時間ほどの長湯をしてやっと出てきた。交代でコリンさん・サーシャさん・ソシアさんが入った。フェイはマチルダさん達が入った時はそわそわしていたが、なんとか我慢したのに、ソシアさんたちがキャッキャと騒いでる声で我慢できなくなったのか『フェイももう1回入る!』と、止める間もなく入って行ってしまった。


「くそっ! あのバカ、4人も入ったら狭いだろうが!」

「まぁまぁ、可愛いじゃないですか。ほら、皆で入って楽しそうな声が聞こえてますよ」


「フェイは髪が長いので、乾かすのが凄く面倒なんですよ」

「あれほど長いとそうでしょうね」


「待ってる間に冷たい物でもどうぞ。はちみつとレモンを水で割ったものです」


 お風呂上りにはさっぱりしていて美味しい飲み物だ。


「あら、美味しい!」

「ん! 美味しい! リョウマありがとう」

「お風呂上りなので、余計に美味しく感じる、ありがとう」


「それにしてもここ凄いわね、一流の高級旅館以上だわ」


「リョウマ君て本当に神殿関係者だったんだね。しかもあんなにカリナ様やフィリア様と親しそうにしてたわ」


「デザートで上手く取り入っただけですよ」


「あの方たちがそんなことぐらいで、気を許す訳ないでしょ……」

「ん、フィリア様は凄いお方」


 マチルダさんと雑談をしてる間にソシアさんたちも上がってきた。皆、濡れ髪が色っぽいです。ドキドキです。


 だが、この駄竜は案の定髪をまた洗ってきやがった……そしてこちらをちらちら見ている。


 絶対乾かしてやらん! 無視だな。


 ソシアさんたちにも冷えたはちみつレモンを出してあげ、飲み終えるまでにある情報を頂いた。


「美味しいお肉って他にないですかね? 牛肉とか欲しいのですが知りませんか?」

「知ってるけど、滅多に手に入らないよね」


「それはどんなものです?」

「ハーレンの南に広がる草原に居るのがヌー系の魔獣ラッシュヌーです。硬めのお肉ですが、甘みとコクがあり大変美味しいです。ハーレンから大体30kmほどの所でよく見かけるそうですが、単体でBランクの8級程の強さがあります。20~100頭ほどの群れで居て、仲間が襲われると集団で鋭い角で突進してきます。草食で向こうからは絶対襲ってこないのですが、一度暴れだすと突き殺すまで追い回すそうです。高級食材なのですが危険なため、狩りをする時はレイドPTで何日も後を付けて、集団からはぐれた単体を狙って狩るそうです。後ろから付け回すので勿論警戒してハグレ個体が出ない場合も多いそうです。そうなったら大赤字なので、あまり狙って狩る人がいないのです」


「なるほど……単体でも強いのに、それが集団なのでネックなのですね」


「後は、ハーレンの川を渡った北側を40kmぐらい遡った辺りに湿地帯が在ります。そこに水牛系の魔獣ラッシュバッファローが居ます。肉は柔らかく臭みもない極上肉が採れるそうですが、こちらも群れで行動することが多くヌーほどではないのですが、10~20体の群れを作ります。単体の強さはBランクの4級ほどで強さも大きさもこちらが上になります。バッファローも草食で向こうからは襲ってきませんが、ヌーより気性が荒く、やはり角での突進攻撃が脅威です。狩り方はほぼ同じですが、こちらは湿地があるので見失う事が多く、やはり赤字覚悟でないと挑めないので冒険者の狙う獲物としてはあまり人気がないですね」


「兄様、お肉食べたいです!」

「だよな……牛肉のステーキ食べたいな。美味しいけど豚はいい加減飽きてきた」


「湿地帯には他にも食材になる美味しいお肉はありますよ。ワニ系のキラークロコダイルは鶏肉のようなあっさりした味わいのお肉です。でも小さいのでも体高2m・体長10mほどもあり一飲みでパックンチョされちゃう冒険者も多いです。後は蛙系のデスフロッグ、これはちょっとヤバい奴です」


「カエルか~、ゲテモノですね」


「ですね。オスとメスがあり、メスは食肉としてとても美味なのですがオスがヤバいです。10mほど伸びる舌を持っていて、その舌でペチャっと舐められると、名前の通り即死級の毒をもらうそうです。問題なのは普通の蛙と違い、オスメスの大きさがほぼ同じなので危険なオスとの見分けがつかないそうです」


「即死級の毒は厄介そうですね……」


 あ~でも【詳細鑑定】で、雄雌の判別はできるので問題ないかな。


「あと、魚系になるのですが、美味しいナマズが居るそうですよ。足があっていきなり水中から襲ってくるそうです。これも3~5mの大きさがあり、食べられちゃう冒険者もいるそうです。特に美味しい食肉という条件付きならこの周囲ではこのぐらいですかね」


「マチルダさん、ありがとうございます。お風呂分の情報は得られましたね。行くなら湿地帯の方かな」

「2人で行くのは危険よ! 湿地帯はレイドPTを組んで行くのが普通なんだから!」


「俺たち兄妹に普通と言われましてもね~」

「兄様、牛のお肉とワニのお肉が食べたいです」


「俺はナマズも気になるな。白身だろうしフライにしたら旨そうだ」


「ん、私も行く」

「駄目ですサリエ、危険ですし却って迷惑が掛かります」


「ん……湿地帯は何度か行ってるから案内できる」

「そう言えばサリエは優秀な偵察や斥候だから、うちがオフの時に野良で他のPTに誘われてあっちこっち行ってるんだったわね。湿地帯も良く行ってたの?」


「ん、5回ほど行ってる。牛やワニのいる場所も大体知ってる」

「でもハーレン滞在は5日しかないので今回はダメよ」


「40kmほどの距離なら、俺たちにとっては日帰りの距離ですけどね」

 

「「「エッ!?」」」


「必要なのは行きの距離の時間だけです。40kmなら、2時間程で行ける距離ですよね。帰りは【テレポート】で帰りますので1日あればそこそこ狩れるんじゃないですか。良い素材が沢山あるなら1泊してもいいですし」


「私も嫌じゃなければ同行したいな」

「サーシャまで何言ってるの。ダメ、迷惑よ、実力が違いすぎるもの。あなたたち寄生するつもり?」


「そう言われちゃうと、返す言葉もないけど……だって珍しくサリエが楽しそうなんだもの」

「皆が行くなら私も絶対着いて行くからね!」


「えーっ、ソシアさんはマチルダさんが言うように、来てもマジ寄生ですよ。俺たち兄妹は上級回復持ちですし、魔法特化なので後衛は要らないです」


 コリンさんとソシアさんは後衛なので俯いてしまった。


「パエルさんが俺の事嫌ってるようなので、そろそろ誤解を解いておきますね。例のソシアさんの体で払うってのは他の人への牽制の為で、本気じゃないですから。ちなみにサリエさんは罠の解除などの指導を俺にしてくれるのが、俺の個人授業を受けた交換条件になってます。ちょっとしたコツを教える授業で体を差し出せなんて本気で言いませんので、パエルさんもそれほど俺を警戒しないでくださいね。実際成果の有ったソシアさんが無償ってのもあれなんで、ハーレンに着いたら街の案内がてら、俺たち兄妹2人にお昼でも奢ってもらいましょうかね。なにせ俺たちハーレンは初めてですので、良い雑貨屋や食材が手に入る店なんかが知りたいですね」


「何言ってるの? 私、体で払うよ! むしろ払わせて!」

「ん! 当然! 私も体で払う! 罠解除法はおまけのほう!」


 冗談で言ってる風じゃないのがドン引きだ……二人とも可愛いので、頂きますしちゃいそうだ。


「……まぁ、そういう訳ですので、他の方たちもそう警戒しないでください。湿地帯への狩りはフェイの様子を見る限り行くことになると思います。ハーレン到着3日目辺りに行くと思いますので、同行したい人はピクニック気分で参加してくれればいいです。ちょっとした稼ぎになると思いますので、金銭的に余裕のない方は是非参加してください」





「兄様、お肉食べたいし、宿屋でじっとしているより狩りに行きたいです」


 フェイは6千年もあの神殿で待機させられていたんだ……じっとしてるのが嫌なんだろうな。


「回復は要らないって言ってたけど、私も行っていいの?」

「ソシアさんもいいですよ。あくまでお肉確保のお遊びなので、全員参加でも構いません。どのみち俺たちのランクではまだ受けられないギルド依頼も、小規模レイドPTとしてゴールドランクの『灼熱の戦姫』が一緒なら色々受けられるでしょうし、ちゃんとメリットはあるのですよ」


「そっか、リョウマ君たちってまだアイアンランクなんだよね。湿地帯の依頼はまだ受けられないから、誰か一人でも一緒の方がいいね」


 一応雨天中止という話で『灼熱の戦姫』とレイドPTを組み、ハーレン到着3日目に湿地帯に行くことになった。

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