4-12 『灼熱の戦姫』の裏話
ナビー情報で、ギルドの依頼が出ている魔獣の分は持っておくことにした。
「実はギルドで何件かシルバーウルフの討伐依頼が出ていたのを思い出したのですよ。剥製と敷物とコートだったかな。他にもまだあるかもですが質の良いのを3匹先に貰います。残り5匹を引き取ってもらうので良いですか?」
「ああ、5匹でもうちに売ってくれると有難い」
「コート用って多少傷があっても良いのですよね? ガラさんの目利きで選んでもらっていですか?」
「ああ、いいだろう。どんな品でも傷は無い方が良い。そこを避けて加工する事になると、継ぎ目が出来てしまうからな。コートなら色艶も依頼主のこだわりがあるだろうから、あえて選ばせてあげて、値を釣り上げるのもいいと思うぞ。それにコートなら2匹要るな。とりあえず質のいいのを4匹選定してやる」
「今朝の剥ぎ取りは俺たち兄妹以外でやるんでしたね。どうしましょうか?」
「リョウマ君には旨い朝飯食わせてもらったからな、それに昨日の分もリョウマ君のバフのおかげだし、その剥ぎ取りは、俺たちブロンズ組でやってやる。剥ぎ取りは自信あるから、ミスる事はないので安心してくれ。万が一失敗したら俺が責任を持って差額分を支払う」
「なんか大金がまた入りそうですし、皆に剥ぎ取り依頼を出すことにします。面倒なギルドは通しませんけど、個人的に依頼します。そうですね一人金貨2枚でどうです? 勿論マチルダさんとこと、シルバーランクの皆さんにもお支払いしますので、全員で剥ぎ取りをしてください」
「それだとリョウマ君の実利はあまりないんじゃないのかな? 命がけで倒したんだよ、それに見合った分は受け取るべきじゃないかな?」
「マチルダさんの言い分はごもっともです。俺も通常ならこんな事はしませんが、何分大金が入ってくるので気分が良いのです。オークキングの報酬も受け取ってないうちに、更に最低3千万ジェニーという大金ですよ。同じ商隊に居たのに格差有り過ぎでしょ? 流石に何もしてないのに折半は俺的にもあり得ないですから、せめて剥ぎ取り報酬で気持ちだけでもと思ったのですが、上から目線で気に障ったのならすみません。気に入らない人は辞退してもらってもいいですし、変な見栄や意地を張らずに遠慮なくもらってくれる人だけ参加してもらえればいいです」
「そういう事ならブロンズ組はリョウマ君に甘えて、全員受け取らせていただくよ。ありがとうな、装備の修理があるから正直めっちゃ有難い」
「思うところもあるが、うちのパーティーも恥を忍んで頂こう」
「俺のシルバー組もよろしく頼む」
「簡単な剥ぎ取りで金貨2枚もらえるのだから、リョウマ君に甘えて『灼熱の戦姫』も参加するね」
「じゃあ、シルバーウルフ4匹をガラさんに選定してもらって、後はサリエさんの【亜空間倉庫】に預けておきますね。1人金貨2枚はガラさんに預けますので最初の分配分と一緒に受け取ってください。サリエさん良いですか?」
「ん、預かる。あっ! あああっ!!」
いつも小さい声で聞き取りにくいくらいのサリエさんが急に大声を出した。
「どうしたんですかサリエさん!」
「ん! 倉庫が増えてる!」
それを聞いてすぐに行動に出たのがソシアさん。
「キャー! ウソ私も少し増えてる! 凄いよリョウマ君! たった1日リョウマ君の言うこと実践しただけなのに!」
余程嬉しかったのか、ソシアさんはキャーキャー言いながら俺に抱き着いてきて、ほっぺにキスしてきた。それを見たブロンズ組が超しかめっ面を一斉にしたのを目の端でとらえてしまった。彼らの同級生で学年の憧れの的であるソシアさんの抱擁にキスだ、妬むのも当然だ。
「ん! 1日じゃない、半日! リョウマ凄い!」
サリエさんまで抱き着いてきて『灼熱の戦姫』の他の人に何やってるの!と引っぺがされる始末。
「具体的にソシアさんはいくつ増えたのですか?」
「5マスよ! ああ、嬉しい! ありがとうリョウマ君!」
「なんだ、たった5マスですか。凄い喜んでるから1枠ほど増えたのかと思いましたよ」
「何言ってるのよ! 元々適性の低い属性なのよ。しかも【亜空間倉庫】は誰もが欲しい一生物のカテゴリーなのよ、5マス増えただけで随分と私物の持ち運びが改善されるのよ」
皆、ソシアさんの言に大きく頷いている。
「え~と、サリエさんはどれくらい増えたのか聞いて良いですか?」
「ん、5列増えた! だからマスで言えば25マス!」
「エーッ! なんかずるい! 私5マスなのに、サリエさん25マスとか有り得ないよ!」
「自分で言ってたじゃないですか。適性の違いですよ。でもちょっとでも増えて良かったじゃないですか。これからも実践してください」
「うん! リョウマ君の言うことが証明されたのだから、一層頑張るわ!」
「ん! 超がんばる! 目指せ時間停止【亜空間倉庫】!」
「あなたたち個人授業とか言ってそんな凄い事教わってたの!? しかもたった半日で成果が出るって、リョウマ君私にも教えてください!」
「「「俺にも頼む!!」」」
うわー! 下手に速攻で成果が出た為に、どんなことを教わったのか皆必死の形相だ。商人の人も例外なく目が血走っている。まずったな……。
「「ダメ!!」」
「なんで2人がダメとか言って邪魔するのよ! 2人だけで情報を独占するのはずるいよ!」
「私たちはちゃんとリョウマ君に授業料を後で払うのです! だから払ってない人はダメです」
「そんな凄い情報なら幾らでも払うわよ!」
『灼熱の戦姫』のコリンさんが言い放ったのだが、みなウンウンと同意している。
「リョウマ君、幾ら払えば教えてくれるのだ? 幾らでも用意するぞ!」
金儲けの匂いを嗅ぎつけたガラさんの言だ。
「リョウマ君は物やお金じゃ教えてくれないよーだ!」
「ん! 可愛い子限定!」
それを聞いた男どもは愕然とうな垂れて、鬼のような顔で俺を睨んできた。
言葉に出さなくても何故か声が聞こえる『この女たらし、死ねばいいのに!』と……。
「なら私なら大丈夫かな?」
不安げに聞いてくるマチルダさんだったが、ソシアさんがバッサリ。
「マチルダさんとパエルさんは処女じゃないのでダメですね。貴重な初めてを捧げる相手だからリョウマ君はこんな凄い情報を私たちに教えてくれたのよ!」
「なっ! 対価って体で払うって事!? しかも処女の可愛い娘限定ですって!? あなたクズね!」
「ちょっと待ってください! その言い方だと、俺が女の初めてを物のように取引材料に使う鬼畜みたいじゃないですか! 体を対価になんかしてないですからね! 彼女たちが勝手に言っているだけですからね!」
全員が獣を見るような目で俺を見ていた。勿論一番冷たい凍るような目をしていたのはフェイだった。
それよりもマチルダさんとパエルさんの落ち込みようが凄かった。
『灼熱の戦姫』の中では禁句になってたのを、嬉しさのあまりソシアさんがついやってしまったようだ。
後日聞いたこの話はバナムでは有名な話らしく、皆知っているようだが最近バナムに来た俺は知らなかったのだ。
『灼熱の戦姫』が男性嫌いの理由。
約2年ほど前に、クラン『灼熱の戦姫』に18歳の魔法科を卒業したばかりのイケメンヒーラーが自分から売り込んできたらしい。最初は女性限定だからと断ったそうだが、そいつはその時は実にあっさり引き、別PTとの合同の狩りの際にマチルダさんに気に入られるよう、あの手この手で上手く距離を詰めてきたそうだ。
男の嫌な視線にコリンさんとサリエさんは反対したそうだが、ヒーラーがいるといないとでは回復剤の減りなどで稼ぎが変わってくるし、PTの生存率が全く違ってくる。結局リーダーのマチルダさんの意見を汲んでパーティーに入ったのだが、予想通り見目麗しい『灼熱の戦姫』のメンバー全員の体を狙ってたようで、その時甘い囁きで騙されてしまったのがマチルダさんとパエルさんだった。
半年ほどで心と体を許してしまった挙句、ギルド倉庫の出し入れの許可権まで与えてしまったのが彼との最後だったらしい。当時拠点とする家を買うために貯めていた2千万ジェニーと高価な各種回復剤やレアアイテムまで全て持ち逃げされたそうだ。
色ボケして3人の反対を押し切ってギルドでの財産管理権限を与えてしまった責任を取り、マチルダさんとパエルさんは、今も殆んどの稼ぎをその時失った分の返済に充てているのだとか。日本ならこんな場合は詐欺や窃盗になるのだが、この世界では引き出す権限がある人が引き出したのだから罪にならないようだ。ギルドもパーティー内の揉め事は自己責任だと相手にしてくれなかったそうだ。
そりゃそうだよね……日本の銀行だって印鑑と通帳を持っていけば、例え本人じゃなくてもお金を引き渡してくれる。そういうシステムなのだから、銀行からすれば相手が誰だとかは関係ないのだ。お金を下ろす権利がある人がきたから渡しただけなのだ。権利を与えてしまったマチルダさんが全面的に悪いよね。
体を捧げた上に全財産を持ち逃げされるとか、二人にとって初めての男は痛い経験になったようだようだ。
サリエさんいわく『見つけたら必ず抹殺する』そうだ。
「ん! ソシア、それ言っちゃダメ! また2人が寝込んじゃう!」
項垂れた2人をコリンさんとサーシャさんが必死で慰めてた。
『灼熱の戦姫』の事はともかくとして、ちょっと気になったことがある。
『ナビー、ヴィーネに気持ちは嬉しいのだけど、俺に関わった人のあからさまな依怙贔屓は止めろと伝えてくれ。ナナの時もそうだったが、ヴィーネはちょっとやり過ぎだ』
『……ヴィーネからの返答です。一言一句そのままお伝えします。『今回贔屓はしていないです。ソシアには他にも、水と火属性の祝福が付いたし、サリエには水と風属性の祝福が付きました。元々信仰心が高い娘たちに創主様の指導が適切だったのと、彼女たちが疑うことなく心の底から実践したため貢献度が一気に跳ね上がり、すぐに祝福が付いたのです』だそうです』
『そうか、疑って悪かったと伝えておいてくれ』
「ソシアさん、俺の見た感じ水と火属性も祝福が付いたように見えるのですが、何か増えてません?」
「エッ? 待って、見てみる……ホントだ! 生活魔法の着火【ファイア】と、ウソ~凄い! ネレイス様の祝福の水系効果3%アップの祝福が付いてる! キャー! ヤッター!」
余程嬉しいのかピョンピョン子供の様に跳ねている。回復量も、魔法の威力も3%何もしなくても今後ずっと増えるのだ、嬉しいのは当然か。
「サリエさんも他に水と風の祝福を感じます。見てみてください」
「ん? あっ……初級の【アクアヒール】! それと中級の【ウインダラカッター】覚えた!」
「サリエさん、初級のヒールって凄いじゃないですか。『灼熱の戦姫』のヒーラーが2人に」
「ホント? サリエちゃんでかした! うちのヒーラーが増えた!」
マチルダさんは男の事を思いだし落ち込んでいたが、ヒーラーが増えたとすぐ復活して喜んでいる。
正直アドバイスの効果が凄かったのでちょっと自分でも驚いているのだが、それより他のメンバーからの教えてくれオーラが凄すぎてちょっと怖い。特に商人は面倒そうだ……自業自得だが彼らをどうしたものか困ってしまう。
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