4-9 リョウマの個人授業

 目の前ではソシアさんが俺の服を掴んで絶対私も入るんだと息巻いている。小柄で容姿も可愛くどことなくナナを連想させる雰囲気がある。つまり俺にとってある意味天敵と言ってもいいだろう。断れるイメージが湧かない……困った俺はフェイの方を見るとプイッてされた。


「あのソシアさん。あそこは秘密が一杯なのでご遠慮してほしいのですが」

「でもサリエさんは入ってるじゃないですか? どうして私はダメなの? 信用できないってことなの?」


「そうですね、サリエさんと比べたら信用できません。ソシアさんはサリエさんと違ってお喋り好きですよね? 食事の件でも、サリエさんを連れてきていたぐらいですし」


「そうだけど、サリエさんだってお喋りは普通にするよ。それよりリョウマ君に信用されてないことの方がショックだわ」


「だって知り合って2日しか経ってないのですよ。信用する方がおかしくないですか? あーそう言えばソシアさんはすぐ人を信用しちゃって変なパーティーに入ってたんでしたね……成程ね……」


「何一人で納得してるのよ! 確かに私は変な人たちを信用しちゃって危ない目に遭ったけど、ちょっとリョウマ君酷くない!」


「じゃあ、ちょっと視点を変えましょう。ソシアさんは何を対価にくれるのですか?」

「え? どういうことです?」


「ログハウスの中には遊びで入ってるんじゃないんですよ。俺の個人授業を受ける為に入るんです。サリエさんの場合は時間停止の【亜空間倉庫】の習得です。世界中でも数えるぐらいしか居ないレア中の時間停止付の【亜空間倉庫】です。誰もが欲しがる情報ですよね? 当然安くない対価を請求します。俺はお金は有るので要りません……さて、ソシアさんはこの情報に何を差し出すのですか?」


 逃げと意地悪と両方含んだ一手だと、我ながら満足のいく言葉が出た。

 俺の横ではサリエさんが興味津々で聞いている。


「え! そんな話になってたの……私あの家の中で遊んでるのかと思ってた」

「なので、ソシアさんはすみませんがご遠慮ください」


「でもそんな貴重な情報なら尚更引けないわ。お金は要らないってことだけど、サリエさんは一体何を対価にしたのか聞いていい?」


「ん、私の体で払う。魅惑のちっぱいでリョウマをメロメロにするの」


 体は要らないって言ったのに、サリエさん何言ってんだ! でも、あえてその話に乗っからせてもらうよ。


「信じられない! リョウマ君どういうこと? ちょっとあなたを軽蔑するわ!」


「それほどこの情報は安くないってことですよ。食料は腐らないし、調理後すぐ入れておけば出来たてホカホカで食べれます。回復剤なんかも当然一生モノにできるので高級回復剤でも惜しみなく買えます。剥ぎ取りなんかも血の凝固も腐ることもないので後日時間が空いた時にでもやればいいので、時間の効率もぐっと上がります。別に後で剥ぎ取りだけギルドに依頼してもいいですしね。それに、【亜空間倉庫】の保管数も重量制限も大幅に増えます」


「ん、私、まだ数増やせるの? そんなの聞いてない」


「サリエさんの保管数はまだ増やせますし、重さ制限も増やせますよ。サリエさんの努力次第ですけどね」

「ん! 頑張る!」


「確かに時間停止の【亜空間倉庫】が習得できるなら凄い事だと思うわ。でも本当に習得できると限らないじゃない。リョウマ君がサリエさんの体目当てに適当なこと言ってるのかもしれないでしょ?」


「それこそ信用の話になってきますが、信用できないなら聞かなければいいのですよ。俺はサリエさんにどうしてもとお願いされたから了承したのです。ソシアさんには最初から遠慮してくれと言っているじゃないですか」


「それって私の体じゃ魅力ないってこと? ちみっこちっぱいのサリエさんに負けてるってこと?」

「何でそうなるんですか! しかも何気にサリエさんをディスってるし! 時間も勿体ないですし、サリエさん行きましょう。時は金成りです。俺もフェイも風呂に入りたいのでさっさと終えましょう」


 ログハウスに行こうとしたら、ソシアさんにまた服を掴まれた。


「ソシアさん、本当に勘弁してください。あの中はあまり見せたくないのです」

「ちょっと待って、私もそれでいいわ。だから私にも教えて」


「ん? 何言ってるんです?」

「だから、私も体で払うって言ってるの! 恥ずかしいから言わせないでよ、もう!」


「はぁ? 何言ってるんです。ソシアさん正気ですか? さっき軽蔑するって言ってたじゃないですか? 自分の体を欲の為に差し出すとか、それこそ俺、ソシアさんを軽蔑しますよ?」


「私の初めてがリョウマ君なら別に良いかなって思って……」


 もじもじしながらソシアさんはとんでもないことを口にした。

 超可愛いのだが、あなたホントにそれでいいのか? 横を見たらフェイだけでなくサリエさんまで不機嫌な顔でこっちを睨んでる。俺、悪くないだろ!


 ソシアさんほどの美少女を抱ける権利は魅力的だが、流石に情報程度でもらっちゃうほど俺は鬼畜じゃない。それにソシアさんではどう頑張っても【時間停止】は習得出来ない。適性が薄い属性は絶対習得出来ないのだ。ただ俺の指導で頑張れば、個数と重量制限が大幅に増えるので無駄ではない。


「2人とも本気ですか? 確かに【時間停止】機能の【亜空間倉庫】は喉から手が出るほどの物だとは思います。でも好きでもない人に体を差し出してでも欲しい物ですか?」 


「リョウマ君、解ってないようだから教えてあげる。まず私の感情抜きの話からするね。パン1個、夕飯1食で体を売ってる女の子がこの世に何人いると思っているの? 【時間停止】機能の【亜空間倉庫】情報となったらこの世で何人の女の子が体を差し出すと思う? 次は私の感情込の話ね。私、これでも魔法科の学校でかなり持てたんだから。でも大事に18歳になっても貞操を守ってきているの、そんな軽い女じゃないよ? 知り合って2日だけど、リョウマ君ならいいかなって……好きでもない人に抱かせたりしないよ」


「ん! ちなみに私は一目惚れ! リョウマは可愛い!」


 そういえば俺の魅力値【測定不可】というとんでもないことになってたのを忘れていた。でも、確かに女の子顔だけど、可愛いは止めてね……なんかあまり嬉しくないです。


「もういいです、2人とも中に入ってください。ソシアさんは秘密厳守を誓ってくださいね」

「分かってるわ。【亜空間倉庫】の情報も中のことも、勿論誰にも言わないよ」


 中に入ったソシアさんは、まるでサリエさんの再現のようだった。


「フェイ、悪いけど時間が勿体ないから、ソシアさんと一緒にまた風呂に入ってくれるか?」

「ん! 私も入る!」


「別に良いですが、兄様はどうするのですか? 一緒に入ります?」

「4人で入るのも魅力的だが流石に狭いし、ゆっくりしたいから後で入るよ」


 3人が出てきたのだが、やはりシャンプー・コンディショナーのことを聞かれた。


「リョウマ君、あの魔法の液体どこで売ってるの? 私も欲しいからどこで買ったか教えてよ」


 俺はいつものようにフェイの髪をドライヤーしながらどうしたものかと考えた。俺が作ったものだと言ったら、売ってくれっていうのは間違いない。そうなったらなくなると俺から定期的に購入することになる。


 それは、凄く面倒だ。


「すみませんが、この中の物のことは全て秘密です。だから中に入れたくなかったのです」


「う~、このシャンプーとコンディショナーっていうの使ったら、もう他の石鹸使えないよ~意地悪しないで教えてよ~」

「ん、ソシア、リョウマとの約束守ろう。私も凄く欲しいけど……ちらっ」


 フェイは我関せずという風に目をつぶって気持ち良さそうに俺に髪を乾かしてもらってる。俺のドライヤーは魔法で温風を出しているので、ファンがないため音がしない。



「これまで勿体ぶって話してきましたが、これから俺の話すことは実は大したことじゃないんですよ。ただ俺のアドバイスがないとサリエさんは一生時間停止の【亜空間倉庫】は習得出来ないです。後、すみませんがソシアさんはどう頑張っても時間停止の【亜空間倉庫】は習得できません」


「どういうこと? 何で私はダメなの? それにシャンプーのことはさらっと無視するのね」


「元々の生まれ持った適性の関係です。ソシアさんの生まれ持った適性のメインは水と雷属性ですよね? 特に水属性の相性が良いようです。頑張れば上級の【アクアガヒール】どころか部位欠損も癒せるほどの使い手になるでしょう。でも【亜空間倉庫】に必要な闇属性の適正は高くないようで、数と重量は増やせますが、時間停止はちょっと習得不可能ですね」


「うーん? 習得出来るとか、無理だって言い切るってことは、それなりに根拠があるのかな?」

「俺もフェイも神殿の関係者と言った方がいいのかな? これを見てください」


 アランさんとカリナさんの身元保証書を取り出して見せた。


「そっか、リョウマ君とフェイちゃん、神殿関係者なんだ」

「信用を得るために見せましたが、他には俺の弟子に巫女のナナと巫女長のフィリアがいます」


「巫女長のフィリア様? 凄い人でてきた!」

「フィリアは2番弟子ですね。話を進めますね。何故こんなことを教えたかと言うと、まず俺の言葉を心の底から信じてもらわないとサリエさんのスキル習得はできないからです」


「ん! 大丈夫、信じてる!」


「じゃあ、まず二人に質問します。『信仰値』は知ってますね?」


「ん、神様に捧げた信仰の数値?」

「学校では神様からの信頼の数値って習ったけど?」


「どっちも不正解です。学校でそんなウソを教えているのですか? まだサリエさんの答えの方が近いですよ。正解は、捧げた数値じゃなくて、神様を信じている心を数値化したものです」


「へーそうなんだ。数値が高い人ほど神様を信じてるってことなんだね」


「そうです、でも数値が高くても神に貢献してるとは限らないのがポイントです。神を信じてはいるが、上手く貢献できていないのですね。そこで次の質問です。神への貢献って何ですか?」


「ん、お供え物?」

「良い事をするとかかな?」


「どっちも正解です。神へのエネルギー供給が一番の貢献になるのですが、その手段がお祈りやお供え物、後は善行とかもそうですね、良い気を出せば神にとっての糧となります。逆に悪行を行えば神にとってエネルギーは減らないですがマイナス要素になります」


 質問形式にしたのが良かったのか、熱心に話を聞いてくれる。


「で、ここでサリエさんの習得に足らないのが信仰値と貢献値になるわけです。特に大事なのは貢献値の方なのですが、沢山貢献した人には神様も加護や祝福といった形で還元してくれます。その祝福の中の1つが、言わなくてももう解りますね」


「ん! 【時間停止】機能のある【亜空間倉庫】」


「そうです。ここからが俺のアドバイスの核心になってくるのですが、只のコツみたいなものですが、このちょっとしたコツが大事なのです」


「なんか私ドキドキしてきたわ」

「ん! ドキドキわくわく!」


「2人ともお祈りはいつもしているのですよね? 信仰値が2人とも結構高いのでびっくりなのですが。今現在サリエさんが67、ソシアさんがびっくりの71も有ります。71という数値は神殿巫女に選ばれてもおかしくない数値ですね」


「え! 私そんなに数値高いの? でも巫女に選ばれていないよね? なんか悪いとこあるのかな? 勿論お祈りは毎日しているよ」


「ん、私も毎日やってる」


「残念ながら水神殿に限っては巫女入りできるのは信仰値80以上なんですよ。他の神殿なら70以上なんですけどね。なんでも世界中に供給する大事な水を管理しているから、他より高い数値の設定になっているそうです」


「そういえば、そう学校で習った」


「では、次の質問です。具体的にどんなお祈りをしていますか? サリエさんから答えてください」

「ん、時間停止の【亜空間倉庫】が欲しいです! どうかよろしくお願いしますってちゃんと毎日祈ってる」


「ぎゃはは! アウト! それダメですよ! 可哀想ですが毎日時間の無駄です」

「え、ダメなの? 上級回復の祝福をくださいって毎日祈ってるんだけど……」


「ぎゃははは! 2人とも笑わせないでくださいよ! それお祈りっていうより、ただ願望言ってるだけじゃないですか。神に対してなんの貢献もしてないのに、見返りがある訳ないじゃないですか。あ~お腹痛い」


「そう言われると、ごもっともな話だけど……なんか笑われると悔しい」

「ん! 確かに願望だけど、エイッ!」


「サリエさん蹴らないでくださいよ! ちょっと痛いですってば」


「じゃあ、リョウマ君、私たちはどうすれば良かったのかな?」


「欲望まみれのお祈りも、全くの無駄ではないのです。何時間もしているお祈りが、全部欲望だけってことはないでしょうから、ちゃんと神のエネルギーになった祈りも含まれていた筈です」


「それなら良かったけど、全部無駄だったとしたらちょっとショックだったわ」


「どんなお祈りが神のエネルギーになるかってのが大事なのです」


「ん! 知りたい、リョウマ教えて!」

「いよいよ、本題ね!」


「なに、簡単です。ちゃんと心が籠ってるかどうかなんですよ。なので、これからは何かする度に各属性神に感謝すれば良いのです。【亜空間倉庫】を使った時にヴィーネ様に、ヒールを使った時にネレイス様に、火を使った時にはロキ様に、後は分かりますね。属性に関することを行った時になら素直に感謝できるでしょ? ちゃんと心が籠った感謝の言葉なら神は喜んでくれますよ。勿論その感謝の心が神のエネルギーになるのですから貢献値はどんどん溜まります。貢献したらちゃんと返してくれるのがこの世界の神様たちです。実に簡単でしょ? その都度なら何秒もかかりませんしね。心のない数時間の祈りより、美味しい水を飲んで素直な気持ちで『水神様、美味しい水をありがとう』という数秒のお礼の方が心が籠っているのですよ」


「ん! リョウマ凄い!」

「なんか、目から鱗の気分だわ!」


「ちなみにこの方法なら、全属性の貢献値を上げる事が可能です。勿論適性が高く使用頻度の多いものほど溜まるのも早いですから、当然自分の得意な属性に偏ってくるのですけどね。クランの倉庫番のサリエさんなら使用頻度は高いでしょう? その都度神に感謝していれば、俺の見立てでは早ければ1年以内、遅くても5年ぐらいで時間停止の【亜空間倉庫】を獲得できます。頑張って実践してください。ソシアさんは時間停止の【亜空間倉庫】は適性の関係上取得出来ないですけど、数と容量は格段に増えます。それとヒール関係も上級を覚えるのも早くなるでしょう。是非実践してください。ちなみに俺の一番弟子のナナは数日で時間停止の【亜空間倉庫】を獲得しちゃいました。あれは俺も驚いたけど、流石8歳で巫女に選ばれる天才児なだけあって規格外な子も中には居るんだよね」


「実際にリョウマ君のアドバイスで獲得してる子がいるっていうのがいいね。信頼度と安心感が断然上がる」

「ん、1年で獲得できるように頑張る!」


 サリエさんは【亜空間倉庫】から1m程の大きな宝箱を3個取り出した。ちゃんとその後に感謝の祈りも忘れてない。さっそく実践しているようだ。


「サリエさん、報酬は要らないと言いましたよね?」

「ん、分かってる。この宝箱は罠解除の練習用の宝箱。あと7種類ある。ダンジョンで出る基本の罠の解除法をお礼に教える」


「へー、それはいいですね。10種類あるってことですか?」

「ん、これで全部じゃないけど。中層階までならこの10種で大抵のダンジョンなら行ける」


「それ教えてほしいです。どれくらいの期間があれば覚えられるものですか?」

「ん、個人差は人それぞれ。でもそれほど難しくはない。私は5日で覚えられた」


「この護衛依頼中ではちょっと厳しいですね。終えた後にも時間作ってもらっていいいですか?」

「ん、勿論いい。というか、ずっと良い関係でいたい。本音を言えば結婚して」


「知り合って2日目で結婚は重いので、ちょっとごめんなさいですが、サリエさんとなら良い関係というのは俺も賛成ですね。とりあえずフレンド登録しましょうか?」


「ん! 嬉しい!」

「あ! 私もお願い! 私も良いでしょ? ダメとか言ったら泣くよ?」


 ちょっと泣くとこ見たい気もしたが、フェイも交えて2人をフレンド登録に入れ、サリエさんから罠の解除法を教えてもらえることになった。只、中途半端な習得は死に繋がるから、教え始めたら習得するまでは逃がさないと念を押された。俺の身の心配もしてくれていることが単純に嬉しかった。


 問題は、約束通り体で払うとソシアさんが暴走した件だろう。凄く魅力的なのだが、横でフェイが冷たい視線で凄く睨んでる。流石にあんな情報程度で、ソシアさんの初めてをもらっちゃうのは気が引ける。


 とても可愛い子なので、ハーレンの街に着いたら夕飯でも奢ってもらってチャラにするつもりだ。

 可愛い女の子とのデートでお礼は十分だろう。


 明日からのサリエさんの罠解除法の個人レッスンが楽しみだ。

 明日は剥ぎ取りでいつもより起床時間が早い。さっさと風呂に入って寝るとしよう。

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