冒険者登録編

3-1 辺境の町バナム

 今日は久しぶりにスッキリ目が覚めた。シーツをそっと捲るとフェイは俺の服の端っこを咥えてガジガジやっている。服は涎で濡れてるし、この調子じゃすぐ破れそうだ。ナビーの話だと幼竜に見られる一過性のモノらしいし、指を齧られて安眠妨害で目覚めるよりまだマシかと、少しの間は諦めることにした。


 起きるには少し早いが外はうっすらと東の空が明るんできており、二度寝するにも目覚めはスッキリで寝れそうもない。

 剣でも振って稽古でもするかと下に降りたら宿屋の夫婦はもう起きて朝の準備を始めていた。


「おはようございます、お二人とも早いですね」


「ああ、リョウマ君おはよう。君こそ早いな」

「リョウマ君おはよう、宿屋の朝はこんなもんだよ。それよりどうしたんだい? こんな早くに?」


「レベルアップした日の朝って、妙に目覚めスッキリなんですよね。二度寝できそうにないので、剣の素振りでもしてこようかと思いまして」


「ああ、体の切れがいいとか、めちゃくちゃ調子がいいんだよね。分かるよそれ」


「1時間ほどで戻りますね。その後フェイを起こして朝ご飯にしますのでお願いします」

「はいよ、いってらっしゃい」


 宿屋の外に出て村の中央広場で稽古しようと思っていたのだけど、結構な人がもう出歩いている。

 夏の暑い時期は、暑い時間帯の昼に農作業をするより、涼しい早朝にやってしまった方がいいのだそうだ。

 これは日本でも異世界でも共通な事で、俺がこれまで意識していなかっただけだ。



 会う人が皆にこやかに声を掛けてきてなかなか前に進めない……どうやらこの村で俺は有名人になってしまったみたいだ。


 話しかけられて練習どころじゃないので、仕方なく村の外に出る。


 門番に声を掛けて昨日の小川の広場で稽古することにしたのだが、ちょうどいい具合に昨日皆が集まったせいで地面が踏み固められていて具合が良かった。



 1時間ほど剣を振って見たのだが、思っていたとおりの結果だった。昨日剣術レベルを5にしてるのだがレベル2の時とそれほど変わらない。

 魔法はAPを使ってレベルを上げると目に見えて改変されるのに、剣術は扱い方は知ってるのにできないといったような感覚だ。例えるなら、自転車の乗り方は知っているが、練習しないと最初は上手く乗りこなせない時の感覚と同じかな……頭で理解はしているのに体がついてこないのだ。


 今、剣術をレベル10にするのは却って危険な気がする。とっさの危険にレベル10の剣戟を使って失敗し、怪我しましたってのが予想できて怖いのだ。レベル5の剣術が使えるようになって1つずつ上げるのが良さそうだ。レベル2から一気にレベル5に上げてしまっている今は注意がいるなと実感してしまった。


 カリナ隊長やアラン隊長達から教わった基本の型を一通りなぞり終え、汗を魔法ではなく小川に直ダイブで洗い流しスッキリして宿屋に戻った。


 なぜか食堂でフェイが飲み物を貰ってご機嫌に飛んでいる。パメラさんも起きて朝食の準備を手伝っているようだ。今日は雑貨屋が言ってた行商の商人が来る日で、護衛の人を入れて5人泊り客があるのだと嬉しそうだ。


『……マスター、おはようございます。その子、目が覚めたらマスターが居なくて置いて行かれたと思いすっ飛んで部屋を出たところをおかみさんに捕まって、剣の練習に言ってると聞いてやっと落ち着いたのですよ』


『あー! 言わないでって言ったのに! ナビー、ひどい!』


 騒がしい2人は放っておいて、豪華な朝御飯をいただいていよいよ出発だ。


 村の入口には見送りの村人がかなり来てくれている。なんだか照れくさいが悪い気はしない。


 今回の件でこの村のこの冬は安泰に越せると村長直々に見送りに来てくれてた。プリンの器が福利収入になったようだ。まだ夏本番前なのにもう冬の心配をしている。冬はそれだけ厳しいということなのだろう。


 おや? 昨日の例の夫婦がこっちに来たぞ……こいつらまだ諦めてないのか?


「兄ちゃん昨日は悪かったな。つい興奮してしまってよ。反省している」

「許しておくれ。この人、気は強いが腕っぷしは全くで、いつも損して帰ってくるんだよ」


 信仰値は高くないが、なんだかんだ言ってもこの世界で犯罪履歴のない人たちだ。この村には元犯罪者も結構いる。今は反省して頑張っているのだから過去の事はとやかく言わないが、この夫婦よりあくどい事を過去にはしていた者もいるのだ。許してやるが、ちょっと晒して発破をかけてやるか。


「皆さん聞いてください! この夫婦は昨日剥ぎ取りに来てないにも係わらずプリンをくれと宿屋にやってきて俺に因縁を付けてきたのですが、この夫婦は過去の犯罪履歴が全くない善良な人間です。でも旦那の方が怠け者で奥さんがかなり苦労しているようです。このままだと不貞腐れて犯罪者になってしまう可能性も少し有ります。この村に引っ越して来て犯罪者になってしまったとか、元からいる村の方たちからすれば恥ずかしいことじゃないですか? この主人の方は採取と弓による狩りが得意なようです。奥さんの方は裁縫が少しできるようです。狩りや採取で役に立つでしょうから、村の男たちで狩りに出かける時に無理矢理にでも連れて行ってやってください。奥さんも言ってたように気は強いが腕っぷしは全くなようなので、2・3発殴れば渋々でも働くでしょう。稼いだお金は旦那に渡さないようにして、奥さんに預ければこの夫婦も上手くやっていけるはずです」


 インベントリから2個プリンを出して、夫婦に渡してあげた。


「皆の前で晒して恥を掻かせたお詫びです。これを元手に装備でも整えてのし上がってください」


「ありがとう。うちの旦那もなかなか村に馴染めずちょっと腐ってただけなんだよ。みなさんもよろしくお願いします! なんでしたら首輪でもつけて引っ張っていってもらってもいいので、良ければうちのバカも狩りや薬草採取の際には一緒に連れて行ってあげてください」


 奥さんも顔を赤らめながら、声を上げて村人にお願いした。

 ここで前に出るか、恥ずかしがって後ろに下がるかで、夫婦の明暗が変わるだろう……奥さんは前に出た。


「兄ちゃんありがとうな、これ以上の恥を掻くこともそうそうないだろうから、今後は恥ずかしがらずに皆に頭を下げて、一人では行けないような良い狩場に連れて行ってもらうよ」


 旦那も前に出た……下手に出た人を村の人も邪険にはしないだろう。


「では、そのうちまた寄らせてもらいます」




 村人総出の見送りで出発し、バナムの町を目指して2日が経った。

 前回の疲労のことも考え、採取しながらのゆっくりめのペースで進んできて、今は街道から少し入った林の中でログハウスを出しての野営中だ。


 オークキングの件もあるのであまりゆっくりもできないが、進展があればナビーが知らせてくれるのでそれほど心配はしていない。もっか悩みといえばフェイのことだ。


「さてどうしようか? フェイはどっちの姿がいい? どっちの姿になってもお前には良い点と悪い点が出てしまう。可愛い過ぎるのがいけないんだ」


『……人の姿の方がナビー的に良いと思いますが、マスターの理性がいつまでもつか心配です』


「竜の姿だと商人や盗賊、貴族に狙われる可能性が高い。それに手がない分、町での生活には不自由がでる。人の姿だといやらしい男に絡まれたり、やはり貴族が妾や愛人にしようと下卑た考えをする可能性がある。どっちも使い分けるって手もあるが、周囲の人間と仲が深まるほど矛盾がでてきてそのうちバレる」


「兄様はどっちがいいと思いますか?」

「双子の兄妹として冒険者登録して、街中では人の姿でいいと思う。つまり使い分けるってことだけど、バレる前に拠点を変えるつもりだから問題ないと思う。ご飯とかは人の方がフェイもいいだろう? 従魔は獣舎って宿屋がほとんどだろうし、それは嫌だろう?」


「嫌です! 兄様と一緒に寝ます」

「寝るのは別だ……折角ベッドが2つあるのに一緒に寝て起こされたくないからな。じゃあ方針としてはどっちも使い分けるという案でいいな。ナビー、フォローよろしくな」


『……分かりましたマスター。それから先ほどコロニーで2匹目のクイーンが誕生しました。討伐の方も急いだ方がいいですね』


「クイーンが生まれたらどうなるんだ?」


『……誕生という言い方は間違いでしたね。正しくは上位種への進化、変態です。魔力の高い若い雌がキングの寵愛を受けているうちにクイーンに進化するようです。クイーンになるとひたすら子供を産み続ける出産マシーンになるので災害級の被害が出ます。キングが災害級のAランクモンスターに指定されているのはこのせいですね。通常3カ月に1回の出産が、クイーンは1カ月ほどに短縮されてしまうのです。しかも生まれる個体は上位種がメインになっています』


「それはヤバいな……コロニーが爆誕するってことじゃないか。明日ギルド登録して、明後日には狩っちゃった方がいいな。ここに来るまでに見つけた2つもあさって一緒にやっちゃうか」


『……登録してすぐだと目立ってしまうと思うのですが、それはいいのですか?』

「この容姿で、フェイを連れて目立たないでいられると思うか?」


『……絶対無理ですね。さっさと冒険者ランクを上げて、誰も文句が言えないようにした方がいいかもしれません』 


「そうだな、明日10:00頃には着くだろうから、まず冒険者登録をしてインベントリの素材を売ってからフェイ用に町の服屋と防具を見に行こう」





『……マスター、少しご相談があります。織り機の開発が上手くいきません。何か良い案はないでしょうか?』


「え? まさか生地から作っているとかなのか? 明日服屋で生地も買ってやるから待ってろ」

『……拘りたいので、できれば生地から作りたいのですがダメでしょうか?』


「いや、ナビーの趣味にしたいって話だから全面的に応援するぞ。要は現代風の機械化が今の工房じゃ難しいんだろ?」


『……はい、その通りです』


 うーん、工房の強化か……よし。


【魔法創造】

 1、【機械工房】

 2、・機械製造特化工房

   ・【機械工学】【機械設計】【機械加工】の熟練度が反映される

   ・ナビーの作製イメージも反映される

 3、イメージ

 4、【魔法創造】発動



【機械工学】

 ・機械に関する知識を高めることができる

 ・インターネットから情報を引き出し利用できる



【機械設計】

 ・機械物特化の設計ができる

 ・インターネットから情報を引き出し利用できる



【機械加工】

 ・機械を加工したり修理したりできる

 ・機械用の部品を製造できる

 ・錬金術で錬成可能



「ナビー、とりあえずこんなんでどうだ? まだ足りないようなら何か考えるけど」

『……完璧ですマスター、十分すぎるほどです。ありがとうございます』


「あ!……ヤバそうなの思いついた。どうしよう」

『……いいのではないでしょうか、ちょっと怖い気もしますが』



【高速思考】

 ・思考の加速ができる

 ・レベルによって加速度が変わる

 ・ナビーも龍馬の【高速思考】のレベルが反映され、高速演算が可能になる



『……ナビーまで、ありがとうございます』

「どうナビーに影響がでるか分からないけどお試しだ。さあフェイ、マッサージやって寝るぞ」


『マッサージ! じゃあ人化するね』


 実は俺もフェイもこの時間が楽しみなのだ。

 まだ今日で3回目なのだが、この世の天国と言っていいだろう。

 食事とどっち取ると聞かれたら、俺はこっちがいいと言うだろう。それほどの気持ち良さなのだ。





 今、俺たちはバナムの東門で町に入る為の手続きを行っている。

 西門はそれなりの数の出入りがあるようだが、東門は並んでいる人も居なければ門番の数も少ない。



「見ない顔だな? 身分証を見せてくれ」

「身分証の代わりになるか分かりませんが、これを預かってます」


「水神殿の隊長2名の身元保証書じゃないか! 何言ってんだ兄ちゃん十分だ! 町に入るのに1人銀貨5枚要るが持ってるか?」


 町に入るのになぜお金が要るのか……日本では考えられない事だが、こちらの世界では魔獣がわんさかいる。

 魔獣の魔石に反発するクリスタルの結界石があって、騎士が守ってくれる安全な場所に入れるのだから、お金を払うのが当然だという考えらしい。


「はい、金貨1枚。冒険者登録すれば以降お金は要らないと聞きましたが」

「ああ、この町の住人と商人や冒険者はお金を取らないようになっている。町の活性化の為だな。一応犯罪履歴のチェックをするから【クリスタルプレート】を出してもらえるか? プレートをこれにかざしてくれ、犯罪履歴が表示されるので、もし過去に重犯罪歴があれば中には入れられない」


 俺は素直に指示に従った。


「犯罪歴なしと、よし入っていいぞ。冒険者ギルドは中央の方にあるから、この道を真っすぐ進んで広場付近で誰かに聞くといい」


「ありがとう、行ってみます」


 広場にはかなりの人が溢れていた。これで町だというから驚きだ。ナビーが言うには人口1万人ほどが暮らしているそうだ。俺が住んでた市が2万人前後だったからその半分なのだが、日本と大きな違いがある。


 まず街道沿いに民家はない。一軒で建てても魔獣の餌になるだけだ。そう、魔獣が出る為にこの世界では高い外壁で囲って中に神殿を造って結界で魔獣を入れなくしている。その為どうしても一箇所に人が集まり住むようになってしまうのだ。


 広場には露店が数十件出ていて良い匂いがしている。その中で肉を串焼きで出している店が在り、思わず足が止まってしまった。


「フェイお前も食べるか? 俺はあの串焼きが気になってしまったから1本食べようと思う。欲しいのが他にあるなら言ってくれ」


「フェイもお肉が食べたいです。後、喉が少し乾いたのであの飲み物も欲しいです」


「おじさん、1本幾ら? 良い匂いだけど何の肉です?」

「1本銅貨5枚だ。オークの肉だが塩味で美味しいぞ!」


「じゃあ4本頂戴、はい鉄貨2枚」


 旨い! 何かに漬け込んでるようで肉が柔らかくなっていて塩味がちょうどいい感じに馴染んでいる。フェイも2本あっという間に平らげた。ジュースの方は柑橘系の果物の果汁を水で割ったシンプルな物だったが、これも夏の暑い時にはさっぱりして中々美味しい飲み物だった。これは鉄貨1枚だったが十分満足のいくものだ。


「美味しかったよおじさん、ギルドの方はどっちに行けばいいか教えてくれる?」

「兄ちゃんここは初めてか?」


「うん、さっき着いたばかりなんだ。それで冒険者登録に行こうかと思って」

「なるほどな、あそこに見えてるでかい建物がそうだよ。辺境は強い魔獣が出るからな、一攫千金を狙ってその魔石や素材を求めて冒険者がかなりこの町にもやってくる。近くにはダンジョンもあるしな」


「へー、ダンジョンか。是非行ってみたいね」

「死なないように頑張んな。折角のお得意さん候補がすぐに死なれちゃがっかりだからな」


「あはは、頑張るよ。また寄らせてもらうね」



 ギルド前に来て中に入る前にフェイに一応念話で注意しておいた。


『フェイ、変な奴に絡まれるかもしれないが、相手にしないで基本無視しろな』

『分かってます兄様、でもあまり舐められると後々大変なのでその時は兄様にお任せしますね』



 ギルド内部は予想に反して、とても綺麗に整頓されていた。まるで役所に来た感じだ。


 受付窓口が3カ所あるのだが誰も並んでいない。カウンター前で番号札を先にもらうのだ。現在何人待ちという札がかかっており、待ち順の多い所は格別綺麗なお姉さんが座っていたのでそこは避けて一番待ち順の少ないところの札を取った。


 失敗だった……ここのお姉さんはどうやら処理が遅いのか進みが悪いみたいだ。素材の買い取りもしてもらいたいし、この人だと余計に時間かかるかな? 今からでも隣に移った方がいいかと考えてる間に意外と早く自分の番になった。仕方ない……今回だけこの人でいいか。


「この子と2人、ギルド登録したいのですが」

「はい、ギルド登録ですね。説明はいりますか?」


「詳しくないのでので簡単にお願いします」

「では簡単に……まずギルド登録をするのに1人金貨1枚が要ります。これは冷やかしや遊び半分で登録だけする人を減らすためです。金貨2枚を今お持ちですか?」


「はい大丈夫です」


「では話を進めますね。登録をした方にはギルドカードが発行されるのですが、【クリスタルプレート】の方でも確認が取れます。ギルドカードにはランクがありまして、ブロンズ<アイアン<シルバー<ゴールド<ブラックの順になっています。最初はブロンズからですね」


「ランクがあるのですか……」

「ええ、このランクを上げるためにはギルドの依頼をこなしたりランクアップ試験を受けたり、町やギルドに貢献をしたりと様々な案件でランクを上げることができます。依頼を受けるにはそこの依頼ボードから選んで持ってきてください。ここで訪ねて受けることもできますが、あまり長々話し込んでいると並んでいる人に絡まれちゃいますから注意してくださいね。受けられる依頼は自分の現在のランクの1つ上までです。ランクより下の依頼はどんなものでも受けられますが高ランクが若手の依頼をもってったら嫌われちゃいますのでこれも注意してください。詳しいことはこの冊子をお読みください。それと定期的に初心者講習をギルドで行っていますので、受講をお勧めします」


「分かりました、説明ありがとうございます」

「今から登録されますか?」


「はい、お願いします。ある程度素材を先に狩ってきています。おそらくアイアンからのスタートになると思いますのでカード発行は素材を見てからお願いします。ではこれ金貨2枚です」


「金貨2枚受け取りました。素材は何があるのでしょう?」

「薬草・毒消し草・スライムの魔石・ゴブリンの魔石・オークの魔石・キラーマンティスの素材と魔石です。これでアイアンになれませんか?」


「個数によりますが、今、言われたやつで条件を満たしています。それは今お持ちですか?」

「はい、亜空間倉庫に入れています」


「ではそれを4番の買い取り窓口に行って出してきてください。傷みが酷いものは買取りできませんが、できるだけ買い取りさせてもらいます。他にも買い取ってもらいたいものがあれば一緒に出してくれれば査定して買い取らせていただきます。提出が終えて計算や冒険者ランクが確定しましたらまたこちらでお呼びしますのでこの番号札をお持ちください」


 この受付のお姉さん、処理も早くて説明も分かりやすい……なんで並んでいる人が少ないんだろう? 買い取り窓口も別ならそれほど時間はかからないのに……。


 言われた通りに4番窓口に行って素材をぶちまけた。あまりの量に途中で止められてしまった。まだ半分も出してないのに……となりの5番窓口も使ってくれと言われたのでそっちも使って全部出した。ただし全部出したわけではない。ナビーが使わないと言ったものだけだ。薬草類は殆んど持ったままだ。


 気付けば周りがざわついている。例のごとくインベントリの容量らしい。ここでごまかしたら後に大量収納できなくなるので隠す気はまったくない。量が多いので査定に2時間程ほしいと言われたので先に宿屋を決めようと外に出た。


「兄ちゃん、えらい沢山入る倉庫持ってるんだなぁ~、羨ましいぜ。冒険者になったんだろ? どうだ、俺たちのパーティーに入れてやろうか? シルバーランクだぜ」


「いえ、当分兄妹で活動するつもりですので、お断りします」

「まぁそう言うな。そっちの綺麗なねーちゃんも可愛がってやるからな」


 フェイに近づいていき、髪に触ろうとした瞬間フェイの蹴りが鳩尾に炸裂した!

 3mほど跳ばされてゲロを吐きながら悶えている……後ろにいる仲間が一瞬殺気を放ったが、『お前が悪いよバカが』とか言って笑っている。


「いや~嬢ちゃん、俺の連れが悪かった。兄ちゃんもかんべんな。こいつあほだから許してやってくれ」


「うちの妹も蹴っちゃってますのでいいですが、実際触ってたら俺が腕を切り落としてました。次はないと思ってください」


「それからフェイ! ワンピースで蹴りとかはしたないぞ。やっぱりお前はローブ着てフード被っとけ」

「うー、フェイが悪いわけじゃないのに」


 フェイは渋々だがローブを着た。


「この暑いのにローブとか……コイツのせいでなんかすまん」

「元々そのつもりだったからローブのことはいいけど、あまり他人と関わりたくないのでこれで失礼します」


 それほど悪い人たちではなかったが、上から目線でしつこい勧誘は御免だ。

 いきなり蹴ったフェイに少し注意がいるけどね。



 これ以上の面倒は嫌なので、俺たちはさっさと宿屋に行くことにした。

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