1-12 ナナの可愛いお願い
フィリアの髪飾りを復元した俺はさっさと部屋に戻ってきた。
泣いて喜んでくれたフィリアに俺も嬉しい気分になったのだが、強い疲労感が襲ってきたのでとっとと部屋に戻ることにしたのだ。
疲労感はハンパないが今回得る物が多かった。
180年程時間を戻したのだがMP900程使用したのが判明した。一年当たりMP5使用するようだ。
1年分の時間逆行が【アクアボール】と大差ない。いいのかそれで?……と思ってしまう。
俺の現在の正確なMP量は不明だが、1000以上は確実にあるとのことだ。
長期の時間を巻き戻せるのが分かっただけでも収穫は大きい。
しかもたったMP5の使用で一年程戻せるのだ。大抵の物はこの魔法で修復できるだろう。
武器や防具のメンテもたったMP5で新品になるのだ。まさにチートである。
あと、1番大きな収穫は、俺への雰囲気が変わった件だ。
とんでもないオリジナル魔法を使ったのだ……警戒した人を見る目から尊敬の眼差しに変わっていた……大きな進歩だった。
これまでも嫌な視線ではなかったのだが、警戒されて避けられていたので結構傷付いていたのだ。
美少女にフンッてされたら、男なら絶対に凹むはずだ。
これまであまり深く考えなかったのだが、今回の件でフィリアのことを考えさせられた。
加護とか言ってたが、200年もの間歳も取らずにこの神殿に縛り付けているのだ。
13歳でここに連れてこられ、それ以降親兄弟とも会えないまま家族と死に別れたようだ。
神殿内で仲良くなった者とも沢山の別れがあっただろう。長寿とはそういうことである。
髪飾りを胸に声を殺して泣いていたフィリアを思うと切なくなる。
任期は3年以上らしいが、年齢制限があるので本来長く居たくても辞めさせられるのだ。
フィリアのように200年とか務めているのは何か理由があるのだろうか?
一度その辺の事情も聞く必要がありそうだ。
MP枯渇で少し気怠く部屋でくつろいでいたのだが、雨足が強くなって外は土砂降りのようだ。
風も出てきたようで、どこかの木窓がガタガタ音をたてている。
明日晴れたら窓周りのチェックが要るな……そんなことを思いながら今日はもう疲れたのでさっさと寝ることにした。
『……マスター、起きてください』
ナビーの声が頭に聞こえ目覚めた。寝てるのを起こすぐらいだ、何かあったのだろう?
『どうしたナビー? 何かあったか?』
『……扉の前にナナが居ます。一度ノックしたのですが、マスターが目覚めなかったため扉の前で迷っているようです』
時間は夜の8時過ぎ、俺が疲れて寝てから1時間ほどしか経っていない。ここではそろそろ就寝時間だが、遊びにきたのかな? そう思っていたらそっと扉が開いてナナが入ってきた。
手には犬のぬいぐるみだろうか? 少し大きめのぬいぐるみを抱いていた。
「……リョーマ、もう寝ちゃった?」
「ナナか? どうしたんだ、もうそろそろ寝る時間だろ?」
「うん……ナナね、リョーマにお願いがあるの」
「ぬいぐるみでも壊れちゃったのかな? すぐ直してやる、ナナのお願いなら何でも聞くぞ」
修理依頼かと勝手に先走った俺に、ナナはほっぺを膨らませて拗ねたように言う。
「違うよ、もう! ナナ、雷が怖いの! ナナと一緒に寝てほしいの!」
なんとも可愛いお願いだった。
どうやら疲れて寝た俺は気付かなかったが、大荒れになった外は雷も鳴っていたようだ。
「ナナは、雷が怖いのか?」
「うん、おっきな音がするとビクッてなるの。リョーマ一緒に寝ちゃダメ?」
可愛いナナのお願いだ、聞かない訳がないだろう。
子供の願いは聞くべきだ。シーツの端をめくってナナを迎え入れた。
「ああいいぞ、おいでナナ」
言っておくけど、俺、ロリ属性ないからね!
「リョーマ、ありがとう!」
満面の笑顔でいそいそとベッドに潜り込んできた。その時ピカッとひかり、すぐに大きな雷鳴が轟いた。
ナナは、『ヒッ!』と悲鳴にならない声をあげ俺にしがみ付いてきた。
僅かに震えているではないか! よほど怖いのだろう、可哀想に。
「ナナ大丈夫だ。ちょっと待ってろな」
【魔法創造】
1、【音波遮断】
2、空間魔法・時空魔法・風魔法の併用魔法
指定した空間内の音を操れる
空間内の音を外に出さない ON・OFFできる
空間内に音を入れない ON・OFFできる
タイマー式発動時間の調整ができる
最大発動時間は発動時に込めたMP量に比例する
発動後、任意のタイミングで解除できる
3、イメージ
4、【魔法創造】発動
「スキル発動【音波遮断】」
ん!? まったく音の無い世界は気持ち悪いのが発覚!
ナビーに検索してもらい、すぐに調整した。
指定範囲はこの部屋、こちらの音を外に出さないにチェック。
外の音はノック程度の音以内の範囲で聞こえるようにした。
持続時間は8時間ほどに設定、朝方までぐっすりできるだろう。
「ナナ、魔法で大きな音は聞こえなくしたからもう大丈夫だぞ」
「リョーマ? 音の魔法使えるの? すごーい!」
あれだけ怯えたナナだったが、雷の心配がなくなったとたん上機嫌だった。
俺にしがみついているナナの頭を優しく撫でながら思った。
そうだよな。周りがいくら優しい少女ばかりでも、知り合いの居ないこんな山奥に8歳で親元を離れ、一人部屋で寝る。この歳ならまだ親や兄弟と寝ていてもおかしくない年齢だ。
まだ親が恋しい年齢なはずだろうに、気丈にもいつも笑顔を振りまいて皆に愛されている。聞けばまだここにきて2ヶ月ちょっとだそうだ。今が一番寂しい時期じゃないだろうか? ホームシックとかかかってないだろうか? 凄く心配だ。俺がここに居る間は気に掛けてやろうと思った。
「ナナ、これまで雷の時はどうしていたんだ?」
「サクラ姉かフィリア様が見にきてくれているのだけど、まだ8時だからお仕事してるのかも」
「いつもはきてくれる人がきてくれないから俺のところにきたのか?」
「むぅ~……お母様がここにくる時にナナに言ったの。『優しくしてもらっても、あんまり頼ってはダメですよ、できることは自分でやりなさい』って。皆、ナナと同じ巫女なのだから、8歳だからって甘えちゃいけないんだって」
結構躾の厳しい母親のようだ……ここまでナナを良い子に育てたんだ、悪い人じゃないのは間違いないだろうが、どんな人なんだろう?
「リョーマは巫女じゃないから甘えてもいいんだよね?」
「あー、いいぞ。好きなだけ甘えろ。子供の願いは叶えてやるのが信条だ」
ナナと寝るのはいいが、この時期くっついて寝るのは流石にちょっと暑いな……。
「ナナは俺との約束守れるか?……う~ん、でも8歳だしな~。ついぽろっととかありそう……」
「な~に? ナナ約束できるよ」
「よし、スキル発動【エアーコンディショナー】俺の凄いオリジナル魔法だ。【エアコン】って唱えてみろ」
「【エアコン】エッ!? リョーマなにこれ? 涼しくなった!」
「使い方教えてやるな。【エアコン】って言えば、透過した設定画面が出ただろ? そこで温度調整・湿度調整・結界膜の範囲・持続時間・害虫の排除ができる。凄いだろ? 俺のオリジナルだ。皆には内緒だぞ。【クリスタルプレート】の方でも操作できるからやってみろ」
「リョーマ! これ凄いよ! 寒い時はあったかくできるの? しつどってなーに? 虫!……」
ナナ、大興奮であった。色々説明してやって、やっと落ち着いたようだ。
注意事項だけはしっかり行った……命に係わるからね。
・寝る時は結界範囲を1mにすること。26度以上にすること
(皮膚上5mmとかだと、布団がかからない場所が出る為)
・湿度は下げすぎない、50%前後にすること
(下げすぎると朝、喉が痛くなると注意)
・行動中は結界範囲を迷惑にならない程度まで小さくすること
・温度は上げすぎても下げすぎても体に良くないこと、下手すれば命に係わる
ナナにこの魔法をコピーしてやろうと思ったら、できなかった。
生活魔法程度のスキルがあれば習得できるはずなのに?と思い、ナナのステータスを確認したら水属性極振りだったのだ。皆、ほぼ持っている【亜空間倉庫】すらない。どうしてだ?
母親の影響だった。
「お母様が、色々な竜神様にお願いしていたらダメって言ってたよ。ナナは水の適正が凄いんだって。だから水神様だけお祈りしてたら凄い魔法使いになれるって言ってくれたの」
言ってることは正しいのだが、間違っている。
「ナナ、お母さんが言っていることは正しいけどそれじゃダメだ。可能性をできるだけ広げて応用が利かないと、結局はあまり役に立たない。バランスが大事なんだぞ」
「お母様のは間違いなの? ナナ、皆の役に立てない?」
「間違いじゃない。お母さんのやり方で成功している人も沢山いる。でもナナは折角凄い才能があるんだからそれは勿体ないことをしているんだ。ナナは水以外にも風、聖、時空属性の適正があるみたいだぞ。折角凄い適正があるのに【亜空間倉庫】も持ってないのはダメだ」
「荷物とかは使用人に持たせればいいからってお母様が言ってたよ?」
「ナナってひょっとして上位貴族か?」
「うん。伯爵ってお母様は言ってた」
伯爵といえば、確か上位のほうだ。成程な、母親もちょっと特殊な考え方をするわけだ。
「ナナ間違ってる? どうしたらいい?」
「もう一度言うけど、お母さんの考えも間違ってはいない。でも、ナナは才能があるから本当はもっと強くなれるのにこのままだと折角の才能を無駄に殺してしまう。ナナはこの先どういう仕事とか、人間になりたいんだ?」
「ナナは人を守ったり回復して役に立つ人になりたいの? フィリア様みたいになれるかな?」
「お! ナナは俺と同じ職業希望か! ああ、今のままでも成れるぞ。でも、もっと役に立つこともできる。ナナ次第だな。フィリア様が目標なのか?」
「リョーマもナナと同じ仕事になりたいの? ナナどうやったらいいか教えてくれる?」
「ああ、いいぞ。ヒーラーって言って、皆に感謝される職業だ。俺が教えてやる。俺のさっき使った魔法は役に立ちそうだったろ? でも、あの魔法は火・水・風・聖・暗黒の5つの生活魔法程度の属性が要るんだぞ。本当に役に立つオリジナル魔法とかは、殆どが何種類かの属性の複合魔法なんだ。特に闇黒神ヴィーネの属性は色々な魔法の応用で使われる」
「エアコンの魔法、5つも属性使ってるんだね。リョーマはやっぱり凄いね!」
「よし、ナナの適正を最大限に生かした育成を俺が考えてやる。とりあえず明日からこんな感じでやってみろ」
・主神:アリア
・副神:水神ネレイス・暗黒神ヴィーネ・ちょっとだけ風神エウロス
要はこれまでの祈りに暗黒神をサブで追加し、他の属性神も生活魔法が使える程度の祝福を得ようということである。生活魔法程度の祝福はすぐにもらえるのだ。
「わかった! ナナ明日から始めるね」
素直な良い子だ。雷のことなんか綺麗さっぱり忘れているようだ。
「話し込んで遅くなったな、エアコンの設定をちゃんとして、もう寝るぞ。生活魔法の祝福が付いたら、エアコンのオリジナル魔法を伝授してやるから頑張れよ。ナナならきっと覚えられる」
「ホントにいいの? あれ凄い魔法だよ? やったー! ナナ頑張るね!」
「ああ。おやすみ、ナナ」
「おやすみ、リョーマ!」
最初興奮気味で寝付けない様子だったナナも、快適な温度で静かな空間、安心できる存在の俺が側にいてすぐに寝息をたて始めた。
ナナとリョウマは知らなかったが、そのころ寝付けない二人がいた。
雷が怖いフィリアとサクラである。
少しずつの時間差でナナの部屋に向かった二人だったが、どっちも空振りでナナは既にリョウマの部屋に居た。 先にフィリアがナナの部屋に行ったのだが居なかった、サクラに先を越されたと思い、渋々部屋に戻り雷に怯えていた。
サクラも同じだった。ナナはフィリア様の部屋で寝ているのだと思い、渋々部屋に帰り、頭からシーツを被って耳を塞ぐのだった。
秘かに行われていた雷の夜のナナ争奪戦は、リョーマに軍配が上がったようだ。
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