カササギの船籍
韮崎旭
カササギの船籍
カササギの数を数えて諧調表杭州の夜を渡る星の手
知らぬ間に忘れていたのが読み書きで私の表意は文字の葬列
電話口空白に向け口にする発話の中にのみ安堵
最終週、見果てぬ蕨、覗いた火、暗い灯火の揺れる幽冥
狐火の行く末までを見届けて死して探せば砂の底にも
時として安易にも見え当人の届け出もなく確証もなく
白菊の墓にも似つく光輝には、凍った指のあとがきと鵺
私ならあなただったらさもなくば。逃避、症候、虚言、失認
正しさのテンプレートの盤上で踊れるならば奨励賞受賞。
嫉妬だと知りたくはなく夜も明けて、文字と語ればここに居ぬふり。
人間を僭称すべく語るには、思考文明、蒙昧の宴。
凍傷の中に手折った夢想には些末の末路を彩る歳時記
知りたくはない人間の中身など私は私を知りたくもない
無知であれ、鮮やかであれ忘れ去れ。鳴らすかかとは告げる祭日
守護聖人パン屋の幟、旭日旗。前夜の喧騒のちの夜の漠。
シュトーレン製造規定と全粒粉寂しさだったといったのは嘘。
雨どいと山茶花の檻、見下した今生ですら流れぬ血はなく
悲しみにつけた名前を教えても誰も知らない壊れた群像
渡る瀬は浅くはかなく淡く凪ぐ。鉄とオパール鯨の肋骨
浜辺には待つこともなく不具の恋。腐敗してのち削がれる肉片
塩と錆、捧ぐ肝臓のちの朱と水銀の海霊廟の丘
律すると見せかけようとふるまえば嘲笑うだけ人は拝せど
規範にも意志にも意識にも似ない非人間こそ理性であれと
そうまるで幽霊に似てあてもなく行き先もなく乾いた崩壊
烙印に似た消印の文通に描くうつろな抑うつは晩夏の終わりに埋葬されたよ。
読点の隙間には虫、鳥、蛙。ラワン材、節、リベリア船籍。
カササギの船籍 韮崎旭 @nakaimaizumi
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