【未使用】エピソードの墓標

神納木 ミナミ

ラストシーン その1バッドエンド

 エメルが鬼丸の頭を抱いた時、彼の身体は何の反応も示さなかった。もはや、彼には自分に対する情など、欠片も無い事が解った。


 彼の右手がゆっくりとエメルの身体を這うように伸ばされる、その手にナイフが握られている事も(       )


 左手に鬼丸の頭を強く抱いたまま、右手にベレッタを握り、彼の心臓に銃口を押しつけた。鬼丸の手の動きが焦りで速まった。冷たい刃の存在感を背に受けて、それでも彼の中に自分への情が残されていて、そこへ思い至る際まで、待った。ついに、エメルの望みは叶わなかった。


 引き金を一杯まで引くまでの間、

 ベレッタの音は男の身体に殺され、目立つ事はなかった。鬼丸の身体が強く痙攣し、背後で地を跳ねる金属の音が僅かに鳴った。彼の腕が力を失い、金属板の床へ落ち、手の甲を引きずった。血と硝煙と、汗の絡まりあう濃い臭いが全ての終わりを彼女に告げる。


 エメルに抱かれた鬼丸の身体は、糸の切れた人形のように、歪に折れ曲がり、後は腐っていくのを待つだけだった。エメルの腕に力が入る。彼の体温が消える前に、少しでも暖めてやろうと思った。もはや、彼が何かを思い出す事があるわけもない、空しい自己満足の祈りだった。


 強い地鳴りとともに、フェリーの汽笛が耳元で大きく揺れる。出発の合図だった。船員のかけ声とともに(     )が引き上げられ、大きく旋回し、フェリーが流れていく。


 上階から、群れた足音がやってくる。

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