研究者たちの目的
ぐるぐると。ぐるぐると。
まとまらない思考が渦を巻く。
到底、講習に集中できる状態ではない。
ベルゼクトも無理に続ける気はないらしく指示棒を仕舞いながら言った。
「少し休憩を挟もうか」
昼食をまだ済ませていなかったようで、野外用の調理器具と食材の準備を始めた2人に一緒にどうかと誘われたが首を横に振って断る。
食事が喉を通るようなら講習だって続けられる。
腰を降ろせばそのまま椅子に受け止められた。
ゆるゆると体を前に倒して組んだ手に額を乗せる。
率直に今の心境を述べるなら「知りたくなかった」だ。
今更すぎる。
奴らのルーツを知ってどうしろと言うんだ。
誰かや何かを恨むには時が経ち過ぎている。
かと言って些事と切り捨てるには失ったものが多すぎた。
キャロルの中にあるのは純粋な戸惑いである。
……1つ目の
運命を嘆き、死者を弔い、脅威に身を隠して過ごしていれば済んだ。
けれど、それが
生み出した者を責める?
責任は自分にもあると奴らの殲滅に尽力する?
そもそもの原因である魔法原子をどうにかすべく動く?
「キャロルさん」
声を掛けられ視線を上げる。
食事を乗せたトレーを片手で持ったシャンテルがもう一方の手で湯気の立つカップをキャロルに差し出していた。
……ほんのりと甘いこの匂いはココアだろうか。
「どうぞ」
「いや」
「答えが出ない時には一息つくことも大切ですよ」
糖分を摂取した方が頭も回ると、ほんの少し口角を上げて表情を緩めて見せた。
少女の優しさを拒み切れずにカップを受け取る。
それから、トランクケースに腰掛け直したシャンテルはキャロルの隣で食事を摂るつもりらしい。
落とされた沈黙が酷く居心地を悪くする。
数秒か。数分か。
「あなた方の目的はいったい何なんですか」
滅びた村の生き残り。
大した力もなければ森の中を案内するくらいのことしかできない自分に利用価値があるとは思えない。
けれど、メリットもないのに講習を開くような真似はしないだろう。
彼らが嘘八百を並べてキャロルを騙そうとしているとは思わない。
しかし、それならいったい何を目的としている?
カップに注がれたチョコレート色の液体を見詰め続ける自分に2人の視線が集まるのを感じる。
問い掛けに答えたのは、千切ったパンの欠片の咀嚼を終えてから唇を開いたシャンテルだった。
「先生が霊魂の研究者であることはお伝えしたと思いますが」
「うん……」
「実証のための
無情な言葉の響きに思わず顔をしかめると、誤解のないようにと彼女は続けた。
曰く、被験体とは述べても周囲の原子の動きや及ぼすことのできる影響についてなど。
経過観察と測定をメインとして霊魂に負担のかかることは避けるという。
「闇深き森を抜けた先のお城には旧世界の頃より亡くなった住人の魂が現れるという噂があったとの話を小耳に挟みましたので、ご協力をお願いできないかと足を運んできた次第です」
森を抜けた先にあるお城……。
もちろん、その場所についても噂についてもキャロルは知っている。
道を案内することもできる。
けれど、問題があった。
————
1つ目の鴉の親鳥が住処を構えているのがその城の屋上なのである。
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