私とヤンキー

星宮コウキ

パイナップル

 私は瓶コーラが好きだ。


 私はいつものように、近所の居酒屋にある瓶コーラ専用の自販機で買った。


 美味しいコーラを堪能していると、居酒屋の入り口の方で大きな音がして


「誰だよ!こんなとこにビール瓶の箱置いといたのは!」


 そう言って箱と一緒に瓶を倒し、粉々にしてしまっていた。そこらへんにいるヤンキーである。しかも、そのヤンキーは帰ろうとするのである。


 仕方ないと思い、わたしは片付けに行った。


 すると……


「お前もしかして……“イイコ”なのか?」


「は?」


 言っている意味がよくわからなかったが、わたしはヤンキーに声をかけられた。


「少なくとも悪いことはしないですけれど……」


 あなたとは違ってね、と心の中で呟きながら答えた。そしたらヤンキーはわたしの肩を掴み言った。


「頼む!“イイコ”!俺に力を貸せ!」


 そんな上から目線のお願いに、しかしヤンキーであるし逆らうと何があるかわからなかったので、私はお願いとやらを聞くことになった。




「は?」


 とりあえず近くの公園に移動して、ヤンキーの話を聞くとこういう事らしい。今日は母の日だから、親孝行したいと思いパイナップルを切って食卓に並べておいてサプライズをしたいのだと言う。


「なんでパイナップルなのさ……。」


「しょうがねぇだろ!家の冷蔵庫にそれしかなかったんだから!」


「家の冷蔵庫にあったの!?それってもはやサプライズじゃなくない!?!?」


「親に小6から関わってこなかった俺が高3で親孝行することがサプライズだろ!」


「自分でも自覚してるなら、せめてちゃんと勉強とかして親孝行しなよ……」


 と言うか、同い年なんだ……。そんなやりとりがあって、二人でパイナップルを切ることになった。


 ______ヤンキー宅


 私たちは、丸々一個のパイナップルと対峙している。それは想像以上に大きく、私一人ではどうにもできないくらいだった。


「じゃあ、手伝ってね。まずは、ヘタ取って。私じゃ無理そう。」


「実が傷ついたらどうするんだよ!お前がやれ!」


 威勢だけはいいのだけれど、正論を盾にサボる口実にしようとしてるようにしか見えない。その証拠に、もうパイナップルを食べる皿を用意して食べる気満々である。……母親に上げるんじゃないのかよ!


「いや、私の力じゃ無理だよ。こんな大きなパイナップルだと男の人の力がないと。」


「それをどうにかするのが“イイコだろ!?”」


「お願い、君のかっこいいところ見たいな?」


「おっしゃ!任せとけ!」


 単純か!お前詐欺に引っかかるぞ!


 と思いつつも、これからヤンキーと何かあったら可愛くお願いしてみようと思ったのであった。


「母の日の親孝行なら、カーネーションとか買いに行けばいいのに。」


「金がねぇんだ。」


「ちゃらちゃら遊んでそうだもんね。」


「アァン?なんか言ったか?」


「なら、手紙くらい書きなよ。」


「え?」


 ヤンキーはきょとんとした顔でこちらを向いていた。


「多分お母さん泣きながら喜ぶと思うよ。ご馳走出るかもね。」


 ぐれてしまった息子が母の日に親孝行してきたら、相当な感動ものだと思う。ドラマ一本作れないかな?


「よしっ!これでok!」


 ヤンキーが色々と考えている間に、私はパイナップルを切り終えた。




 その日のサプライズは成功だったらしい。ほんとに泣いて喜んだそうだ。公園でその話を聞いてから、私は帰路につこうとして……。


「ただいまぁー。」


「おかえりなさい。……あら、なにそれ。」


「カーネーション。今日母の日でしょ?いつもありがとうね。」


 その途端に、母が涙を出した。


 ……え?


 私はもしかして、ヤンキーみたいに親孝行できてなかったのだろうか。実は、ヤンキーと同じ分類に入ってしまうのではないか。


 そう思ったとき、お母さんはやっと声を出した。


「はぁー。こんなに笑ったの久しぶり!」


 あ、笑ってたのか。声が出ないくらいに。……え、なんで?


「だって、母の日は明日よ?」


 この日の話は、一週間ほど、家族の笑い話になってしまった。





 ある日のこと。私はいつものように瓶コーラをのんでいたら、声をかけられた。


「おい、“イイコ”。あの時は世話になった。」


「あ、君か。」


 ヤンキーでも、ちゃんとお礼を言えるんだな、……私って偏見ひどいか?


「それでなんだけど……」


「なに?ヤンキーの君が私にお礼をしてくれるの?」


「いや、そんなわけあるか。」


 即答で否定された。やっぱりひどいやつだな、こいつ。私の偏見なんかじゃなかった。うん。


「実は、俺の後輩達の頼みも聞いてやって欲しくて……」


「は?」


「九九が言えないんだけど、どうすればいいんだよ!“イイコ”!」


「漢字を覚えるコツとかってあるのか?アァン?」


「ここにいる二人の他にもあと10人くらいいるんだけどよ、どうだい?“イイコ”。」


 私は世界に訴えかけたかった。


「もういい加減にして!」



 皆さんは、ヤンキーに絡まれないように注意しましょうね。

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私とヤンキー 星宮コウキ @Asemu

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