部活動見学大事件


「では、部室に一緒に行きましょうか」

「そうですね、行きましょうか」


 そう言って先生―新山にいやま 陽子ひなこ先生と廊下を2人で歩き始めた。先生は綺麗な黒髪で私よりちょっと小さい程度で、制服に似ていた服を来ていたため、学生と間違えられそうだ。


 朝のHRホームルームの話によると、今日から部活動見学でそれぞれがやりたい部活を顧問と一緒に見学するそうだ。私は吹奏楽部を希望したため、今はこうして先生と並んで歩いているが、他の人は誰もいなかった。今年は希望者が少ないとは聞いていたが、まさか私一人だとは思わなかった。

 ふと校庭に目をやると、あちこちで運動部がもう見学を始めていた。この学校は部活動が多種多様な様で、野球やサッカーはもちろん、ヨットや日本舞踊についても部活動としてやっており、それなりの結果は残しているようだった。

 もうクラスの子達は部活は決めたのだろうか。隣の席の子が悩んでいたのを聞いた気がするな。なんてことを考えていると、もう部室のすぐそばに来ていた。

「あ、先生はどういう曲が好きですか?」

部室に入る前にふと思って尋ねてみた。

「そうねぇ、私は歌劇が好きよ?でも私は指揮は

なにか引っかかるような言葉だった。しかしその時は私には何に違和感を感じたかまではわからなかった。


 そして部室へ入るために先生はに手をかけ、

「私もこの学校は1年目で今日が初めて部員と顔を合わせるのよ。だから私もどんな子たちがいるか知らないの。一応名簿は貰ってるんだけどね。」

そう言って、苦笑してドアノブをひねるのだった。

ドアの向こうにあったもの、それは―

―先輩2人が走り回っているものだった。


先生も私もさすがに戸惑いを隠せなかった。私たちは互いに顔を見合わせ、私達は――


――そっとドアを閉めていた。

「先生...今の光景は見間違いですよね?」

「ええ、私もそうであることを信じてるわ」

まさか強豪のこの学校でそんなことはないはず。うん、きっと気のせいのはずだ。今度は私がドアを開けてみよう。すると――

⋯むしろもう1人増えて鬼ごっこが始まっていた。

さすがに2度も見せられると諦めるしかない。残念ながらこれが現実のようだった。

「えっと...皆さん?何をやっているのです?」

先生もさすがにこれには堪えたらしく不思議そうに尋ねていた。

「え?鬼ごっこですよ?」

「それはわかりますそうではなく、部活時間に何をしているのかと―」

「あ、もしかして部見学で新入生きたの?今年は2じゃん。去年よりは良さげだ―」

「2人じゃないです1人です!」

先生は顔合わせの時点から、とても大変なことになっていた。

「あ、顧問の先生か。よろしくお願いします」

と言って先輩は私に挨拶をしてきた。

「違います!! 私のほうが顧問です!!」

先生はこの苦労がいつもの事なのだと半ば諦めている様子だった。

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