私とメル
もりくぼの小隊
第1話
私が彼女と出会ったのは高校生になって初めての夏休みだった。
その日は友達と遊ぶためにバス停でバスが来るのを待っていた。生憎の雨とバスの発車時間に間に合わなくて憂鬱な気分だった。私の住んでいる町はバスの本数が少ない田舎と言っていい場所、遅れは致命的だ。私は友達にごめん遅れると携帯電話で連絡をして少しシワの付いたスカートを弄りながら溜め息を吐いた。
「こんにちは」
不意に声を掛けられて私は驚いて顔を上げた。自分意外に人がいるなんて思わなかったからきっと酷い顔をしていたことだろう。
「……ぁ」
顔を上げた私は思わずと惚けた声を漏らした。声を掛けてきたのは同性の私でも息を飲むほどに綺麗な女の子だったからだ。
潤みの強い青い瞳に銀色の編み込んだ長い髪に、透き通るような白い肌。外国の女の子かな?
私が着ればきっと子どもっぽくなるだろう白いワンピースを着こなし首の黒いチョーカーは大人びた雰囲気を与える。彼女がそこに立つだけで雨降りの田舎バス停が幻想的な空間に包まれる。
彼女は綺麗な青い瞳を細めて微笑み、私にこう言った。
「久しぶりだね。元気だった?」
朝露のような透明感のある声で不思議なことを言われて私は何度かまばたきをして首を傾げた。
(どこかであったけ……?)
記憶の中を何度も探してもこの子にあった事があるとは思えなかった。こんな綺麗な子、一目みたら絶対に忘れない筈……たぶん。
「そっか、わからないんだ」
彼女は少しだけ寂しげな表情をして私はなんとなくチクリと胸の痛む罪悪感を覚えて「ごめん」と謝った。彼女は頭を横に振って「ううん、あたしもごめんね」と謝り返した。
「これ、お返し」
彼女は唐突にそう言うとわたわたと手を遊ばせる私に何かを渡した。
「え、これって?」
それはプリンだった。どこにでも売っている市販のプッチンな冷凍プリンだ。これを渡される意味がわからなかった。
「あの時のお礼」
そんなことを言われても困る。私はお礼をされるような事をした覚えは無いのだから。
「いいよ、貰えないよ」
私は彼女にプリンを返そうとしたが、彼女は楽しげに鼻唄を歌いながら軽く手を振り微笑んでいた。
「あたし「メル・アイヴィー」またいつか会いましょう」
彼女はそう言うといつの間にか雨の上がった空を見上げながら横に飛ぶと私の目の前から忽然と姿を消した。
「ちょっ、ちょっと待って!」
そう遠くには言ってない筈と慌てて彼女を探したけど、彼女はもうどこにもいなかった。
「どうしよ、これ」
私の手にはプリンだけが残った。
これが、不思議な女の子「メル・アイヴィー」との最初の出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます