散歩(さんぽ)

「ごちそうさまでした!」


 両手を合わせ、食後の礼をするメル。


「気に入ってくれて良かった。ところで、メル」

「はい」

?」


 メル・アイヴィーがここに来てから半年。

 男は、毎朝この質問をしていた。


「いえ、まだ……」


 そしてメルは、今の自分の状況をそのまま答えた。


「そうか。なら」


 男はメルの答えを受け取ると、脳裏に浮かんだ事をそのまま告げる。



「散歩でもしようか。メル」



「はい!」


 男からの言葉を受け取ったメルは、すぐに支度を始めた。



     *



「凄い……!」


 久方ぶりに、いや地球に来てから、初めて雪に触れたメル。

 その姿は、わらべが玩具に触れるが如く、無邪気なものであった。


 その姿を、男は黙って見守っていた。

 彼女の好奇心が尽きるまで、ただただ触れ合わせてやろうと思ったのだ。


「あ」


 と、メルの声が響く。


「どうしたんだい?」


 男が尋ねた。

 しかし男の表情は、確信をはらんでいた。



!」



「そうか!」


 メルの嬉しげな返答に、男はしたりと言った様子で返した。


「では、君の歌を聞かせてほしい!」


 男が叫ぶと、メルは「喜んで!」と言い、男の前へと立った。

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