落下(らっか)

 恋人の死を間近で見たメル・アイヴィーは、あてもなく森をさまよっていた。


 考えは無い。

 あるとすればせいぜい、その辺の野獣に喰われて死ぬ、くらいのものであった。


 けれど、自ら死を望むような考えを抱く時点で、彼女の心は既に擦り切れきっていた。

 やがて目より景色は絶え、それでも体は、足は動いていた。




 やがて、自らが宙に浮いたごとき感覚を覚えた。

 メル・アイヴィーが気づいた時、彼女は穴に落ちていた。


 ―― そして彼女の意識は途切れた。

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