魔女(男)が来るっ!
竹内緋色
プロローグ 6月1日 異世界転生
世界は恐怖に満たされた。
人々の心に潜む蟲のような存在。それが恐怖。
ひとたび希望というエサを見つければ、恐怖に逃れるために蟲のように群がってゆく。
そんな世界に一人、少女がいた。
「ええっと……アルハザード先生。一体これは?」
「うん?異世界転生装置だ」
少女、衣笠芧の頭には大昔のSFの装置のような管のいっぱいついたヘルメットを被せられている。手足は縛られ、その体にも管がいっぱいつけられていた。
「ええっと……どこからツッコめばいいのかわからないのですが……まず、異世界転生ってことは、この装置で私、死んじゃうんですよね」
「まあ、端的に言うとそう言うことだな。明確に言っても、結局のところ、結果は変わらないわけだ」
芧が先生と呼んだ女性、アルハザードはメガネをわざとずらす。
「おおよそ3年前、この世界に何が起こったのか覚えているな?」
「はい。第三次世界大戦――」
ある日突然人々は何の前触れもなく、国家間、もしくは個人間で争いを始めた。理由もなく、そして、終わりもない戦い。それが第三次世界大戦。世界中に人々がいなくなるまで争いは終わらない。
「そんな中、外の世界と交信できる偉大なる魔女が現れた。それは一体誰だ?」
「いいえ。知りません」
芧の言葉にアルハザードは鼻で笑う。
「この装置には性感帯の感度を高め、性欲を増進し、そして、局部にバイブレーションを起こす装置が付いている」
「一体何てものをつけてるんですか!」
「いやぁ、逝かせて異世界転生させてやろうかと」
「アルハザード先生!アルハザード先生こそ偉大なる大魔術師!」
「大魔術師はあたいではないが、似たようなものなのでよしとしよう。あたいは外なる世界と交信し、この世界で何が起こったのかを知った。そして、この世界を救う手立てを見つけた」
アルハザードは先ほどずらしたメガネを戻す。
「この世界とは別の世界、いわゆる並行世界とやらにはこの世界で失われた17の禁書が眠っている。その禁書を異世界転生してかき集めろ。そうすれば万事うまくいく」
「……純粋な質問をよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「それ、先生が行けばいいのでは?」
アルハザードは思わず溜息をついた。
「あのな、あたいは死にたくないんだ。だから、お前が死ね。助手」
「いや!私、助手になった覚えもなければ、先生に簡単に殺されちゃう所以もないわけなのですが!」
「うるさい。つべこべ言うな!絶頂を迎えてさっさと異世界転生しろ!」
「レイティングとか大丈夫なんですか!?それと、今さらながら、魔術師のくせしてなんで機械だより――うぅっ」
芧はビクンと体を跳ねさせる。条件反射のようなものだった。
「それと言い忘れていたが、並行世界を越えるためには年齢と同じくらいの業を背負わなければならない――らしい。それがどういうことなのかはおいおい分かるだろう――多分」
「あっ、あんっ!そこは、らめぇえぇえぇえぇ!」
芧の体がいくつもの残像が見えているように、像がずれてゆく。幾重もの像が産まれ、像が生まれるたびに影は薄くなっていく。薄くなっていった像はそれぞれが距離を取り始めた。
「いくっ、いくっ、いっちゃうぅうぅうぅうぅっ!」
(いや、性感帯どうこうの話は冗談だったんだが)
この世界から消えゆく少女を尻目に見ながらアルハザードは呟く。
「どうせもう彼女がこの世界に帰ってくることはないのだから、この世界最後のジョークとしては最高だったのではなかろうか」
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