第5話 とある魔族「世界を牛耳る謎の組織が邪魔だから勇者でも嗾けるか…」
sibe:勇者 高橋
5年前、リンドン王国の勇者 高橋遊星は高校の帰り道、突然異世界に召喚された。
『世界に蔓延るダンジョンを滅ぼせ』
それだけを言われ、新品の鎧に、高そうな剣、少量の貨幣、それから使い方がわからない薬草を持たされて旅にでた。
それは俺のことだ。
俺を呼び出したリンドン王国はサポートをほぼなし、拒否権なしという最悪の対応をしてきたが、勇者というだけでモテる上、食事や宿代などが割引になる。
ただし他人の家に不法侵入してタンスやら壺から金を取るのはダメらしい。
やったら、怒られた。
捕まった時に元の世界では常識だったと言って誤魔化した。
最初は一人でやっていたものだが、ダンジョンを共に踏破した剣士のアッシュに、勇者に憧れているヒーラーのルーシー、元奴隷で今はシープをやっているニャッシュ。
この3人も共に最近はダンジョン攻略をしている。
シープをやっているだけあってニャッシュは色んな情報を知っていて挑むダンジョンに出てくるモンスターや、怪しげな組織を調べ上げて来てくれるので、他の国で召喚された勇者達に比べて攻略したダンジョンは多い。
全180階層の中堅ダンジョンを攻略して祝杯をあげていたところにニャッシュがまた情報を持ってきた。
なんでも世界中にライフラインを引いたとある組織が実はダンジョンだというのだ。
その名は人類生活保護委員というらしい。名前が怪しいこの組織は、人類の発展によく関わっており、歴史書には必ずこの名前が登場するほどだ。
この世界は歪だ。
見た目は中世の街並みだというのに量産化された衣服や、24時間街を照らす街灯。蛇口をひねれば水が流れ、家の中には電化製品がある。
正確には電化製品のような見た目をした魔法具とかいうやつで電気の代わりに魔力をエネルギーに動いている。
魔力は万能なエネルギーであるため、ガスや電気、水道を分けてひかずとも魔力を流す線を引くだけで済んでしまう。
流れてきた魔力は、術式に流れることで火になり、水になり、エネルギーとなる。
魔物が外を徘徊する世界で人類は人類生活保護委員を頼りにしなければ生きられないほどになっている。
そこまで思い出して感心した。
ダンジョンは敵だ。
ダンジョンは生き物を引きずり込み捕食するが、人類もダンジョンに潜りコアを壊して死んだダンジョンを解体して利益を得る。
死んだダンジョンからは巨大な宝石やら、希少な魔法具やらが出土する。
本当に人類生活保護委員がダンジョンだとすれば仮にバレたとしても、この楽な生活を失いたくないと討伐を諦めたり周りに止められるだろう。
だが、俺はやる。
きっと奴らは便利にさせることで人類を弱らせ弱りきったところを殲滅する気だ。
それを俺はゆるさい。
俺を召喚した王国の王は言った元の世界に返す魔法はダンジョンマスターが持っていると。
絶対に奴らを倒して元の世界に帰るんだ!
あと、そうだな…帰る前に俺を召喚した王のいけ好かないツラを金貨の詰まった袋で殴ってやりたい。
◇◆
sibe:魔導王ユーリ
私は勇者タナカが発明した薄型魔導板(ノートパソコン)をシャットダウンしながら今日みていた掲示板を思い出した。
迷宮0000様に評価された。
こんな嬉しい事はない。
人類生活保護委員を立ち上げで惑星中に根を張り、魔力を供給して人類とともに成長してきた私は幾度となく他のダンジョンマスターから寄生虫だの臆病者だの罵られてきた。
迷宮0000……あの方は私の親といってもいい。
あの方は100個の迷宮を生み出し、その中から生き残ったのが龍神と森羅万象と私だ。
今日初めて存在を確認した天地創世さんは世界を本物の神と共に創造し、モンスターをダンジョンを、その他諸々魔法や、スキルなど全てを築いた偉大なお方でもあるが、正直雲の上すぎて有り難さが伝わってこない。
私は魔導王などと言われているが、正直勇者タナカや天地創世さんには及ばない。タナカはアイツは勇者補正によってかなりズルをしているので尊敬には値しない。
タナカもパソコンを作っていい気になっているが、通信機能や掲示板を作ったのは天地創世さんなのだから、感謝をしたらいいと思う。
私が世界の全ての都市にライフラインを引いてから300年。もはや人類は我が手に落ちたと言っても過言ではない。
楯突くものには供給をストップしてやればいいだけ、私が手を汚さんでも我々に頼りきっていたお陰で勝手に弱っていくのだから、笑いが止まらない。
そして笑いが止まらないものがもう一つ。
「くくくっ…また勇者がかかった……」
何処から聞きつけたのかダンジョンだと知って乗り込んでくる勇者に頭を抱えていた私は岩蟲の帝王ランドロの協力の元、凶悪なトラップを仕掛けた。
ランドロから借りた記憶を読み取る蟲を使って勇者から記憶を取り出し元の世界とやらを投影するだけ。
どの勇者も元の世界とやらを見せると隙を見せてくれる。
その隙に拘束魔法で封印し、魔力融合炉へ運び逃げ出す前に放り込むのだ。
まあ、私のダンジョンは世界に魔力を供給しているが正直足りない。
タナカが教えてくれた原子力発電とやらを元に魔力をほぼ無限に生み出す夢の装置である魔力融合炉を完成させた。
魔力融合炉には勇者を入れる事で稼働する。勇者というのは元の世界からこの世界にくる間に本物の神より加護を預かっている。
加護によって身体は再生し、魔力も減らない。
その特性を使い、高温の魔法で焼いて動けないようにしながら魔力を絞り出す。
罠を設置してから今までに捕まえた18人の勇者をこれに放り込み全18基が稼働している。
2基で世界の魔力が補えると言うのに、16基も余っていたのは非常にもったいないということで、現状実行不可能とされてした地殻破壊魔法を試し打ちしてみたいと思っていたが、丁度いい。
あの星屑のダンジョンとやらを第一号にしてやろう。
遠見の魔法で、みると拘束された勇者が何やら叫んでいた。
その隣にはオスとメス二匹が転がっていた。
しかしその中の一匹に非常に見覚えがあった私は逃げられまいと転移を使ってその場に飛んだ。
丁度目の前にいた勇者が驚いた顔をした後、すぐに剣を握り私を切りつけるが私の身体をすり抜け地面に叩きつけるだけで終わった。
目は勇者をみたまま、拘束魔法によって転がっていた女へ無詠唱の即死魔法を放つと、いつのまにか私の後ろに拘束を解いた女がいた。
「ニャッシュ……貴様、どういうつもりか説明してもらおうか?」
驚いた顔をする勇者に心の中で笑いながらニャッシュを睨みつける
「ンニャ?お前こそ、こんなか弱いおンニャニョコに魔法を放つなんてどういうつもりニャ?」
「聞きづらいから普通に話せ」
「はいはい…ニャ」
「やめろ」
「やにゃよ」
「病気か?直してやろう、後で解剖する」
「ぶふふ……サイコパス怖ーい」
「普通に話せるではないか」
「………言ったニャ」
「何故、ニャンニャンの配下の貴様が勇者をけしかけてきたのか説明頂こうかな?」
「え?えーと、あれだよ。うん、主様からのプレゼント?うん、そうだよ。多分ね。あれだから、サプライズってやつ?
わざわざお礼とか言わなくてもいいニャ」
「そうか、しかしだな、こんな素晴らしいプレゼントを貰ってはお礼をいないといけないなぁ」
眼を白黒させる勇者をよそに話は進んでいく。
助けてくれとニャッシュに視線を送る勇者をみていい事を思いついた。
「勇者くん、この子ね、悪い子なんだぁ?
ダンジョンマスターの配下だっていうのに哀れな奴隷を演じて私にお前を嗾けて来たのさ」
「嘘だ!」
「ほんとだよ」
「そんなの嘘だ!ニャッシュはドジだけど頑張り屋で、親をダンジョンから溢れたモンスターによって殺されて復讐に取り憑かれていたところを俺が保護したんだ!ニャッシュは!ニャッシュはなぁ!!このダンジョンを踏破したら結婚する予定だったんだぞ!
そんな訳ねぇだろォ!」
「……うーん、随分今回は練った設定だったね。しかも結婚って」
「私はそんなこと一言も言ってない。
てか、前々からこいつキモかったんだよね。キモいしね。
ユーリさん、早くこいつ放り込んでください」
「おい、何帰ろうとしてるんだ。責任とれ……ってあ、逃げやがったか…はぁ」
まあ、良い。
勇者はゲット出来たし、オスとメス二匹も実験に使えそうな素体が確保出来たんだ。良しとしよう。
◆◆
ユーリの始末に失敗して帰ってきた。
多分主様が喜ぶだろうと思って十分強くした勇者を嗾しかけてみたのにあっさり負けた。あと勇者がキモかったからちょっと清々している。
ユーリのおっさんは人間の生活を整えて何が楽しいのだろうか。
そういえば、主様がユーリは"いくせいあーるぴーじー"好きで私は"えむえむおー"のほうが好きだから……って話していたけど何か関係があるのだろうか?
私の首元に付けられた呼び出し鈴という魔法具が鳴る。私のこの鈴をならせるのは主様だけだ。
「ニャッシュ、お帰りー。ユーリくんからお礼届いてたんだけど何か知らないかなぁ?」
部屋に入るなり言われたのはこれだった。
あ、そうだった。
やっばい、バレた。
主様は怒っているときはニャをつけない。つまりガチだ。
「えっと、アレです、サプライズプレゼントってやつです」
「ふーん?まぁ、今回は許してあげる。ユーリくんが本気で喜んでたみたいだから……次はないよ
((部下なんだから暴走しないで…お願い!)) 」
「はい!((次こそ、ちゃんと殺します))」
「ニャンニャン様、期待していてください!」
「えっ……((そんな大ごとなの?ただ辞めるだけだよ?わかってる?))うん、頑張って」
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