第2126話 戦場だと思って

 どういうわけか、びっくりしやすい人間です。

 ちょっとやそっとのことでもすーぐびっくりしちゃう。ビビリなんでしょうね、ほんと。


 大きい音、特に、ドン! とかバン! みたいな爆発音というか、急に大きな音が鳴るのが駄目。なので、コンサートとかクラブとか、ずっと大きい音が鳴っているところにいるのは平気です。騒がしいところも、好きではないけどそこまで駄目ってわけじゃない。


 雷とか、物を落とした音とか、いきなり大声を張り上げて怒鳴りつける人とか、そういうのが駄目。何ならくしゃみとか咳なんかもあんまりボリュームが大きいとびくっとします。旦那のくしゃみがまさにそんな感じで、私が毎回びっくりするものですから、事前にどうにか告知を――みたいな話を書いたことがあります。『第1522話 ただただ驚いただけのやつ』です。


 いまだに事前告知してくれているのですが、それでもなんかびっくりする日々。


 さて、そんなある夜のことです。

 やっぱり二人で洗濯物を干している時のことでした。


 最近の宇部家洗濯事情ですが、そろそろ二階の洗濯物干し部屋は寒くて乾かなくなってきたので、緊急を要するもののみリビングで干しておりまして、洗濯機から濡れた洗濯物を取り出し、二階に運ぶのが旦那、こまごました小物類をピンチハンガーに干すのが私、と割り振られております。

 その日もそのように、私の後ろで旦那が洗濯機からずるずると重たい洗濯物を取り出し、私はその中から小物を抜き取って干しておりました。


 ちまちまとピンチハンガーにかけていると、そっちの作業が終わったらしい旦那が、音もなく私の背後に回り「じゃ、残りのやつ(二階に)かけて来るね」と一言。


宇部「ぎゃあ! 何?!」


 何ってお前。

 旦那だよ。


 後ろで作業をしているってわかっていたはずなのに、真後ろ0距離で話しかけられるとは思っていませんでしたので、こともあろうに「ぎゃあ」とか出ました。そこはお前「キャッ」とかであれよ。一応ヒロイン枠だろうが。


 ただまぁ、ゴルゴだったら撃たれてますから、旦那もちょっとは悪いことをしたと思ったのでしょう。ごめん、と詫びてくれたのですが、恐らく、「こいついい加減驚きすぎじゃね?」とでも思ったのか、


「松清子、ここは戦場だよ」


 突然トチ狂ったことを言い出したのです。


宇部「戦場……? 家だが? マイホームだが?」


 最も心落ち着く場所、それがマイホームのはずだが?


旦那「まぁ、家なんだけどさ。でも俺は常にそう思って行動しているよ(キリッ」


 嘘だな。

 最後のキメ顔でそう確信しました。

 逆に言えば、そのキメ顔がなければ、マジなのかなって思ったかもしれません。男は外に出ると七人の敵がどうたらこうたらとか聞いたことがあるような気がします。そうか、家の中でも気は抜けんのだな、と。そんなわけあるかい。


 ですが、とにもかくにも旦那はそう言ったのです。こりゃあしばらくはこの設定で行くんだろうな、と思いました。


 で、何はともあれ、旦那は二階へ洗濯物を干しに行きました。私は残っている小物を干す作業を再開です。


 と。

 

 私のすぐ隣にある引き戸が開きました。


宇部「ぎゃあ! 今度は何?!」


 旦那でした。

 忘れ物を取りに来た旦那でした。お前……!

 おかわりの「ぎゃあ」が出ちまっただろうが。


旦那「戦場だって言ったでしょ。気を抜いたら駄目だよ」

宇部「いやいやいやいや……!」


 まさか短期間に二回も驚かされてしまうとは私も誤算でした。チクショウと思いながら小物をかけ終わり、いざ旦那の手伝いをしに二階へ。


 あまりにも悔しいので、私も驚かしてやろうと、気持ち強めにガラス戸を開けました。すると――、


 旦那はサッと身を落とし、両手をひらひらさせて視線を素早く右左に走らせました。わかりますかね、あの、アクション映画とかで銃声が聞こえた時にやるやつ。完璧です。ちゃんと設定通りです。彼の中ではここは戦場なのです。いや、洗濯干し場ですけども。


 でもほんと何なんでしょうね、このビビリっぷり。

 某バラエティ番組内の企画で『ビビり-1グランプリ』とかあったと思うんですけど、私あれも全部ビビり倒す自信しかないです。

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