第2101話 一人で出来るもん

 大抵のことが一人で出来ないおばさんです。というか、最近になって、人の親になって、やっと一人で出来ることが増えてきたといいますか、やっと人並みになれたといいますか。情けないことこの上なし。


 別にお嬢様育ちというわけではないのですが、幼少時は食も細いし病弱だったりもしたものですから、割と箱入りの感はありました。またね、自分で言うのもアレなんですけど、幼少時は美少女だったんですって。そのまま育ってくれりゃ良かったのにね。生命の神秘。


 それでも高校卒業後は家を出て一人暮らしですよ。親はかなり心配してましたね。この子って生活力あるのかな? って。その頃にはさすがの私も自分のことは自分で出来ましたし、ある程度の料理スキルもあったんですけど、何せ親の前で披露してないから。母親は私が料理出来るって知って驚いてましたね。あとお裁縫も驚いてました。家でまったくやらなかったから。


 大学生〜社会人の頃が一番一人で頑張れてた時期です。何せ、授業にもちゃんと出てたし(当たり前だ)、就活もしましたし、免許も取りに行ったんですから。私ね、見た目とか、雰囲気っていうんですかね、そういうのでめちゃくちゃ損してるんですよ。あのね、なんかものすごくしっかりしてると思われてる。実際は全然そんなことないのに。なんていうか顔の作りが真面目なんですよね。

 で、そう思われてるから、期待に応えないと、って頑張る、っていう。この時期はそんな感じでめちゃくちゃ頑張ってました。


 が、秋田へ来て、彼氏――つまり後の夫となる良夫さんとの出会いによって雲行きが怪しくなります。


 良夫さん、何でもやってくれる。

 誇張無しに、マジで何でもやってくれる。

 一人暮らしの経験があるから自炊も出来るし家事のスキルもあるわけです。お付き合いの時も甘やかされていましたが、現在はそれに輪をかけて甘やかされているのです。


 これマジでさ、私この人いなくなったらマジで何も出来ねぇな。


 そんなことを考えたりします。

 なんかね、聞いたことがあるんですよ。奥様側の『復讐』的な話でね。家のことを何もしない旦那さんをですね、『仕事以外何も出来ない人間にする』みたいな。それはそれは甲斐甲斐しくお世話をして、お茶の淹れ方も、タオルの場所すらわからなくして、定年後に捨てる、みたいな。もう何も出来ない老人の出来上がりですよ。もしやそれか!? って思ったくらい。いや、さすがにそういうのは出来ますけども。


 いいよいいよもう松清子はね、あったかいところでのんびりしてて。お買物? 俺が行くよ! お洗濯も俺がやるし!


 こんなの好きになるでしょ。私アラフォーのおばちゃんなのにマジでお姫様扱いですよ。この人私に何か弱みでも握られてるんだっけ? って思います。


 そんな生活をしているものですから、『一人で出来た』ことへの褒めハードルがめちゃくちゃ低い。こんなの誰だって出来る、むしろ子どもにも出来るだろ、ってやつですら、「すごい! 私一人で出来てる!」って褒め出すから。


 先日ですね、ひょんなことから某クラシックのコンサートが開催されることを知ったんですよ。ずっとね、そういうの行ってみたかったんですよ。でも、開催場所だったり、あとは演目っていうんですかね、そういうのの関係で、なかなか行けなくて。でもこれはもう絶対行きたい! ってやつだったので、旦那に相談してみたんですね。


「良いじゃん良いじゃん! 行きなよ! 子ども達のことは俺に任せて! 松清子、そういうの好きでしょ! 行ってみたら良いじゃん!」


 もう思いっきり背中を押されてね。

 こりゃあもう行くっきゃねぇ。


 そうと決まればチケットの手配です。

 娘の吹奏楽のイベントとはわけが違います。

 チケットぴあとかローソンチケットとかで取るやつです。


 ドキドキしながら、いざ、チケットぴあ。

 ぜーんぜん繋がらん。あっ、ていうか何、これ会員登録とか必要なの? そうかそうか、それはすまんかった。いや、全然繋がらんのだが?


 なんかよくわからないんですけど、めちゃくちゃ混んでるのです。これがチケットぴあ……?!

 

 それでも何とか申し込みをし、お次は支払いです。コンビニでお支払い出来るとのことで、びくびくしながらコンビニへ。スマホとにらめっこしつつ、マルチコピー機? でしたっけ? あれをぽちぽちと操作。


 出来ました!

 レジでお支払いも完了です!

 すごい、私、自分でコンサートのチケット手配してお金まで払えてる!


 感動しましたね。

 いい歳したおばさんが、たかだかそれだけのことで、感動してふるふる震えてたんですよ。


 チケットの発券は〇日以降みたいなことが書かれていたので、それから数日後にまたびくびくしながらコンビニに行き、無事それもクリア。まぁ、誰にでも出来るやつだとは思うんですけど、なんていうかもうおばあちゃんなのでね。さて、次話はこの続きです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る