第1632話 それは既にいる

 今日はですね、宇部夫妻の車内での会話からお話させていただこうと思います。


 それは、半年に一度の息子の通院に向かう車内でのこと。目的地が車で50分くらいかかることでもうお馴染み(お馴染みか?)の秋田市ということで、そこそこのロングドライブです。

 

 皆さんもご存知の通り、車の運転がド下手過ぎてもう二度とハンドルを握らないと心に誓った私に出来ることといえば、ドライバー旦那の眠気を撃退するため、フリスク的な清涼菓子を然るべきタイミングで差し出すことと、軽快なトークで場を盛り上げることくらいなものです。その他、場合によってはペットボトルの蓋を開けたり、菓子パンの袋を開ける、コンビニおにぎりのビニールを剥がす、なんていう大役もございます。大役じゃねぇよ。


 それでですよ。いまってほら、甲子園じゃないですか。私ははっきり言って1ミリも興味がなくててですね。まぁ、母校が出場する確率なんてのも限りなく0ですし、かといって北海道の学校ならどこだって応援するってこともないですし、秋田県の学校もまぁ頑張ってくれる分には良いけど、これといって注目するということもないわけです。


 ただ数年前、金足農業というところがまぁどえらい盛り上がりまして、ええと誰でしたっけ、そう、吉田輝星こうせい君が大活躍した時はですね、試合の時間帯、マジでお店からお客さんが消えたんですよね。あの時はね、まぁ社員の人は困ったでしょうけど、店員サイドは仕事が楽で良かったです。試合が終わった途端に混み始めて地獄でしたけど。


 とまぁ、それは置いといて。

 そう、その甲子園でですね、選手の名前がずらっと並んでる中、みんな名字だけなのに、小さく名前まで書かれている選手がいたんですね。ほら、佐藤とか田中とかたくさんいたりして、区別するためにってよくあるじゃないですか。そういうのかな? って思ったんですけど、どうやらそういうことではなく。


 双子で。

 双子で野球やってて、どっちもメンバーに選ばれてたんですよ。


 ほえー、すげぇーって。

 だってほら、双子と言ってもですよ。もしかしたら、片方は球技が得意だけど、もう片方はそこまででもない、ってこともあるかもしれないじゃないですか。そりゃね? タッチとかね? そういう作品もありますし、何となく我々も双子にそういうイメージを抱いている部分はあるじゃないですか。顔も似ていれば背格好も同じ、身体能力なんかもほぼほぼ同じで――、みたいな。


 兄弟とかね? 上の子がやってる習い事とかやりたくなったりするじゃないですか。私も姉がピアノ習い始めたら、私もやる! ってごねたらしいですし。だから、同じ部活をやるところまではまだわかるんですよ。でも、どっちも同じくらいの能力があって、しかも甲子園に出られるレベルのやつってすごくないです?!


 なんかもう一人で盛り上がってですね。


宇部「同じチームに双子がいたらさ、双子ならではの作戦とか使えそうだよね。『お前、さっきまで一塁にいたはずなのに!?』みたいなさ(※宇部は野球のルールを知りません)」


 かなりトンチキなことを言ってますが、それを否定する旦那ではありません。こいつ馬鹿だなと内心思ってはいたでしょうが、そうだねぇ、と聞いてくれます。


宇部「でもさ、だったら野球よりも、サッカーとかの方がよさそうだよね。野球って、守る場所決まってるし。サッカーならわちゃわちゃ動くからさ、同じ顔があっちにもこっちにも!? どっちが蹴るんだ?! みたいなさ、相手をかく乱させるようなさ」


 もちろんサッカーのこともいまいちわかってませんが、思いついたことはすぐに口に出してしまう私です。すると旦那は言いました。


旦那「それは既にいる」

宇部「既に?! どういうこと?!」

旦那「キャプテン翼キャプ翼に立花兄弟っていう双子の兄弟がいる。しかも、秋田県鹿角市出身設定」

宇部「既にいた! しかも秋田県! 何という偶然!」

旦那「技もあるよ。スカイラブハリケーン!」

宇部「あっ、何か聞いたことある!」

旦那「他にも、同じくサッカー漫画『シュート!』の高橋兄弟ね。マジックシザーズっていう技がある」

宇部「すげぇ、双子めっちゃいるじゃん……」


 やっぱりあれですね、私が思いつく展開なんて既にあるんですよ。私なんてほんとまだまだだな、って。発想が安直すぎるんだろうなってちょっと自分自身の底の浅さにがっかりしたんですけど、それはそれとして、よく覚えてんな旦那! その日も旦那の株が上がりまくりでしたね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る