第1436話 あるいは
宇部夫妻はまぁまぁ欧米です。
違います、二人共めちゃくちゃ日本人です。アイキャンノットスピークイングリッシュです。いや、旦那はこないだなんかしゃべってたか。オンラインで韓国の方と。
それはまぁ良いとして。
愛情表現が欧米。
子どもの前でもハグやらチューやら当たり前にします。さすがにハニーダーリンとは呼び合いませんが。
ただ、思い返せば私の実父もそんな感じで、チューはしませんでしたけども、よく母と抱き合ったり(やらしいやつじゃなくて)、ただいまお帰りの際には私にもハグを求めてきたものです。欧米か。
だけど、旦那のご両親はそんな感じではなかったはず。てことは私の影響かしら。まぁ良いです。
さて、そんなある日のことです。
その日も茶碗を洗う旦那の背後に回り、背中の匂いをスゥハァスウハァしておりました。子ども達はこんな母の奇行にも慣れたものです。娘すら、よほど興が乗った時くらいしかパパラッチ(写真を撮るジェスチャーをしながら近づいてくるやつ)しなくなってきました。寂しいですね。
「可愛いねぇ」
旦那が言います。彼の目はもう駄目です。『妻フィルター』がかかっていますので、美醜感覚がおかしくなっています。たぶん、ペットを愛でる感覚のやつです。ちょっとブサイクなお顔でも我が家のワンちゃんが一番可愛い! みたいなアレです。
決して客観的に見れないわけではないのです。世間一般的には、『ブサイク』のカテゴリに属することはわかっている。でも、俺にはわかる。コイツは愛嬌があって、俺のことが大好きで、辛い時にはそっと寄り添ってくれ、嬉しい時には千切れんばかりに尾を振るのだと。そういうのを全部込みで可愛いのだと。
そういう感じのアレで、彼は日に何度も可愛い可愛い言うのです。
そこへ、食事を終えた息子が、薬(鼻炎の)を飲むためにやってきました。
旦那「息子よ。お母さんは可愛いよね」
これはいけません。
まだ正常な判断が出来ない幼子に、そんなことを聞いてはいけません。
旦那「息子はどう思う? お母さんのこと可愛いと思う?」
やめろやめろ。逆に私が恥ずかしいわ。夫婦のプレイに子どもを巻き込むな。夫婦のプレイって言葉が生々しい。
息子「うん! 可愛いね!」
お前が可愛いね。
可愛いのはお前だよ。
ていうか、お前は私と同じ顔をしているんだから、つまりはお前が可愛いんだよ。
とりあえず、お前が可愛いお前が可愛いと連呼して撫でくり回しておりますと、息子が「あるいは」と言い出しました。あるいは?
息子「あるいは……美しい……?」
あるいは、美しい……!?
語尾が疑問形になっていたのがやや気になるところではありますが、彼は言いました。美しい、と。
旦那「そう来たか! そうか、お母さんは美しいか!」
息子「うん!」
とても良い返事をし、息子は薬を飲みます。鼻炎の治療のため、もう何年も欠かさず飲んでるやつです。息子はルーティンに強い子なので、もうすっかり生活の一部になっています。
文句の一つも言わず、粉薬をサラサラと飲む姿を見て、
「そのうち何も考えずに女の子に可愛いとか言って勘違いさせる無自覚系主人公になったらどうしよう」
そう思う母でした。
ちなみに彼は未だに私が髪を下ろしていたりすると(普段はひとつ結びorお団子)、「お母さん、髪きれいだね」とか言ってきます。おい、どこで覚えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます