第1345話 そんなことになっていたとは

 今日はですね、まさかそんなことになっていたとは、って話なんですけど。なんてことはない、98円の玉子のお話です。


 ほら、いつも宇部さんがね、もう全力で買いに行ってるっていう、例の限定100パック玉子です。


 その日はですね、私、子ども達の学校行事があったので仕事をお休みにしてたんですよ。学校行事の方はね、もうひたすら可愛い感じで終わってしまって、これといったネタがな――あぁ、息子の方の劇が『ごんぎつね』で、おいおい大丈夫か、とハラハラしていたら、最後、


「これで終わると悲しいので、僕達がハッピーエンドにします!」


 って司会の子が言い出して、救急車を呼び(時代設定ガン無視)、緊急手術を行って一命をとりとめたごんが無事、兵十と和解するというほのほのハッピーエンドになってましたね。すげぇ力技じゃん。


 そう、それでですよ。


 そんなこんなでお休みだったんですけど、それでも玉子はほしいのでね? 16時からだから。いつもは私の仕事が16時に終わるので、そこから着替えやら何やらを済ませてスーパーに向かう頃には16時10分くらいになってるんですよ。そしたらもう結構残り僅かになってて、何とかギリギリで買えるんですけど、今日はほら、張り込めるから。


 15時40分から待機して。

 他のお買い物を済ませて、15時50分くらいに玉子コーナーに行くとですね、なんか、周りのお客さん達も玉子コーナーに集まり始めるんですよ。集まり始めるというか……並んでる!? めっちゃ列出来てる!?


 えっ、そんな誘導あった!?

 私全く聞いてないけど!?


 たぶん、毎週この時間帯はそうなんでしょうね、なんとなーく列が出来るっていう。


 私はその列とは逆の方にいたんですけど、さすがにこれは横入りになると思って並び直しました。


 えぇ、毎週こんなことになってたんだ。そんで私が16時10分に着く頃には列がなくなってて、残り僅かになってたんだな。成る程成る程、って。


 もうね、私の後ろの人もね「ねぇ。これなんの列?」とかざわついててね。あっ、何の列かわからないのにとりあえず並ぶ人ってほんとにいるんだ、って思いつつ。


 そんで、16時になって玉子の販売スタートですよ。パックを取って避けるだけですから、スイスイ進むわけです。すると、私のすぐ前で、奥さんが「ちょっと! 皆さん並んでるんですけど!?」って別の方から手を伸ばしているおじいちゃんに注意してて。おお、正義の人がいる、って思いながら自分の分を取ってね。


 その日は旦那も仕事が早く終わったので合流したものですから、「あぁいまなら私も二パック買えるんだな」って正直過ぎったんですけど、そういう時に限って冷蔵庫に玉子結構あるのよね。やめました。


 いやでもね、あの奥さん勇気あるな、って。私ならきっと言えないというか、言えたとしても「あの、並んでるんですけどぉ」くらいだったもんな。あの奥さん、語尾に『!』ついてたもんな。


 だったらいっそ、お一人様一パックだっつってんのに二パック三パック持ってく人にも言ってほしいなぁって思ったんですけど(他力本願)、その人こそが二パックいってる人だったので、そりゃあ言えんわな、って。この場合、横入りししたおじいちゃんと、貼り紙無視して一人で二パックいってる奥さんと、どっちが罪のランクは上なんでしょう。


 こないだね、外国人の方が普通に三パック買っててね、小さなお子さんもいたので二パックまでは良いだろうけど、三パックかー、ってもやもやしたんですよ。日本語がわからなかったら仕方ないと思うんですけど、息子さんとめちゃくちゃ日本語でしゃべってた上、私と目が合ったら、そそくさとその三パックの玉子の上にエコバッグ被せて隠してたんで、こりゃあしゃべれるだけじゃなくて、張り紙も読めてんな、って。


 でも、そこに住んでる日本人がルール破ってるんですもん、そうなりますよね。98円の玉子は毎回ありがたいなぁと思いつつも、私の心をモヤつかせるんですよね。


 でも買う。

 98円だから。

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