第1308話 目撃者になりませんように
いまウチの裏でですね、何かを建ててるんですよ。外観はほぼほぼ出来上がってるんですけど。
ほら、夏にね、宇部家にアリさんが大量発生して、それがその工事のせい(土を掘り起こしたりなどして住処を追われた的な)なんじゃないのかとか、散々騒ぎ倒してたやつですよ。あれがね、そろそろ完成なのかな? パッと見はほぼほぼ出来上がってるのでそう見えるだけかもしれませんけど。
それでですよ。
まぁ、仕方ないんですけど、やっぱりうるさいわけです。何せ、近所で、とかっていうレベルじゃないんですもん。ガチの裏。真裏ではなくて斜めではあるんですけど、そんなのもうほぼ真裏って言っても良いくらいの距離感ですよ。なので、もうすんごいうるさいわけです。
かといってね、苦情なんて入れられませんって。ちゃんと事前に挨拶も来ましたしね? 確か高齢者施設とかそれ系のやつなんですよ。デイサービスとかショートステイとかそういう感じの。伊達や酔狂で建ててるわけじゃないですからね。伊達や酔狂で建てるって何だよ。石油王の遊びか。
それにまぁ、当たり前ですけど、永遠に続くわけじゃないですからね。サグラダファミリアでもあるまいし。いや、あれも永遠に建ててるわけじゃないんですけど。
それでですよ。
何度も言うように、パッと見はほぼぼ出来上がってますので、そろそろ足場を解体する段階になったようで。
なんかね、やたらとカンカン聞こえて来たんですよ。ここ最近は割と静かだったのに。何だ何だ、まだ何かトンカンやるような作業が残ってたのか? って思って窓を覗いてみたら、足場を解体していたというわけです。
これがね、もう噂に聞いていた通りで。
何が、って思われたかもなんですけど。
旦那からね、聞いてたんですよ。
足場の解体方法。
足場ってわかります? 単管パイプを組んで、その上に鉄の板みたいのを乗っける感じのやつです。伝わりますかね。それで、当たり前ですけど、上から解体していくわけですよ。詳しい手順はわかりませんけど、たぶん、板を外してからそれを支えているパイプを外して――って感じなんだろうな、って。
それで、私が見た時はですね、ちょうどそのパイプの方を外しているところでですね、たぶん2~3メートルくらいかな、とにかくそれくらいの高さのところに人がいて、地上にいる人に外したパイプを渡しているところだったんですよ。
その渡し方がね。
そのままストンってパイプを落とす、っていう。
そんで、下の人がそれをキャッチするんですよ。
あのね、バトンとかそういうやつじゃないからね? 1メートルとかそれくらいの短いやつでしたけど、鉄パイプだからね? 普通に危ないですよ。さすがに地面に突き刺す感じで投げてるとかじゃなくて、ほんと、手をパッと離して落とす、って感じでしたけど、それをね、下の人もなんてことないようにパッと掴むんですよ。
いや、これ、掴み損ねて足にでも当たれば普通に折れるでしょ。安全靴履いてるのかもしれないけど、いや、上にいる人が履いてんのは地下足袋っぽいな。てことは下の人も地下足袋か? だとしたら普通に折れますね。いや、安全靴を過信していけない。あいつにも守れていない場所はある(仕事の時は私も安全靴履いてます)。
もうね、しばらく目が離せなくて。
どうしよう、その瞬間を目撃してしまったら、って。
普通にね、ほんと全然普通にやってて、すげぇなぁ、カッコいいなぁって思ってたんですけど、だけど、その瞬間を見てしまったらどうしようって、しばらくハラハラしてましたね。
何事もなく終わってホッとしました。
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