第1112話 サプライズ絶望

 予防接種なんですよ。

 我々のやつじゃなくてね。いや、我々のコ□ナの3回目のもあるんですけど。


 子ども達にもですね、この度、コ□ナワクチンの接種券がいよいよ到着しまして。先日、たまたま遅番だった私と、仕事が冬休み中の旦那でですね、嵐のチケットを取るファンの気持ちで予約TELに臨んだわけです。

 ちなみに宇部家ではこういった、なかなか予約の取れない電話(主に医療機関)のことをいまだに『嵐のチケット』と表現します。いまはもう嵐じゃないんでしょうけどね。わかんないんだもん。


 それでですよ。

 予約開始と共にかけても全く繋がらなくてですね、結局最終的にはネットで予約したわけなんですが(最初からそうしろ)、その際にですね、「そういや娘の麻しんの接種券が3/31までだったな」って。


 3/31まで無料なんですよ。ウチの市だけなのか、秋田県がそうなのか、全国的にそうなのか知りませんが、とにかく無料なんですよ。確か出生届を出した後で色んな書類をもらったりするんですけど、その中に、予防接種無料券みたいなのがあって、母子手帳の予防接種スケジュールを確認しながら、それを使って受けるんですよ。


 で、6歳ともなれば、もうほぼほぼ受けてるんですが、それでもまーだ残ってるんですよ。13歳くらいまでで終わるんだったかな。ピークはたぶん3歳くらいまでですかね。いやー大変でした。


 でもね、これ、コレクター系の人はわかってくれるんじゃないかと思うんですけど、母子手帳の予防接種のページにですね、受けたやつのシールが貼られていくのが何か嬉しいんですよ。よっしゃ、肺炎球菌コンプリートだぜ! みたいな。


 そんなこんなで、受けねばならぬ予防接種の予約も(これは別の病院で)せねばならんと母子手帳を見たらですね、どうやら麻しんだけではなく、日本脳炎も残ってて。私、鉛筆でメモしてたんですよ「5、6歳〜OK」みたいな。

 色々タイミングがあるんですよ、予防接種。○歳にならないと駄目だったり、2回目は1回目から○ヶ月(あるいは○年)あけないと駄目とか。前回受けた時に看護師さんに教えてもらったんでしょうね。


 で、麻しんと日本脳炎の両方の予約を取ろうとしたら――、


「実はいま、日本脳炎ワクチンが品薄で、緊急性のない方には見送ってもらってるんです」


 と。

 こちらの券は3/31までとかそういうのはなかったものですから、そんじゃあまぁそっちはまたの機会でいいや、と。だけど接種券に色々記入(生年月日とか出生体重とか)しちゃったから、なくさないように母子手帳に挟んでおこう、と。


 それで、運命の日ですよ。

 娘は朝から、


「ワクチンってふつうの注射?」

「はんこ注射と同じくらいの痛さ?」


 などなど、ビビり散らかしていたわけです。だけれども、「もう小学生になるお姉さんだから、泣かない!」などと勇ましい発言もあったりし、頼もしいなぁとその丸いほっぺを見ながら待合室にいたわけなんですが――、


「宇部娘ちゃんのお母さん」


 看護師さんが呼ぶわけです。

 何でしょう。書類に不備でもございましたか?


「この日本脳炎なんですけど――」


 あぁそれは、次回受けようと思って挟んでおいた接種券! 違うんです、今回は見送ることになってて、それは忘れないように挟んでいただけで――、


「やっぱり何とかなったんで、受けていきます?」


 ――?!


「両腕に打つことになりますけど、娘ちゃん頑張れそうですかね」


 お願いします。

 大丈夫、この春から小学生になるお姉さんですから。


 もうね、娘にも聞かずにゴーサイン出しましたわ。


「いやー、娘ちゃん、今日のワクチンねー、何か二本打つんだってー」


 しれーっと言いましたわ。

 娘にしてみればいらんサプライズですよ。何それ、聞いてないんだけど、って。ものすごい顔してましたから。


 もうね、直前まで持ち上げまくりましたよね。イヨッ、春から小学生のお姉さん! って。


 そんで、結局泣かずにやり遂げ、私からわしゃわしゃと褒められ、「だって春から小学生のお姉さんだから!」と得意気でしたが、足はガクガクでしたね。


 その日はひな祭りだったこともあり、夕飯は娘の大好きな手巻きずしになりました。

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