第969話 招かれざる客

 ここが田舎だからか何なのか、職場には、人間以外のお客様もよくお見えになります。


 アッ、違います。霊的な話じゃなくて。


 とりあえず、虫関係ですよね。

 ハエとかハチなんかはもうよく入ってきます。彼らほら、羽あるから。自由の翼持ってるから。稀にね、トンボとか蝶々なんかも入ってきますね。これはレアキャラですよ。


 あとたまに、やたらとぴいぴい聞こえるなって思ったら、鳥さんなんかもいたりします。よくもまぁ入ってきましたわ。あと、鳩レース(?)の鳩が迷い込んできたこともありました。どうにか飼い主さんと連絡を取って(首輪か何かでわかった)引き渡したりして。


 まだこの辺はね、微笑ましいレベルですよ。ハチは微笑ましくないけど。


 コウモリね。

 倉庫の搬入口からね、堂々と入ってくるから。でっかい蛾かな?(それも嫌だけど)と思って、とまったのを見てみたら、まぁーコウモリ。小さいやつなんですけどね。コウモリって夜しか活動しないイメージだったんですけど、バリバリ昼間に飛んできましたわ。


 そんでほら、彼ら寄生虫とかね、あとよくわかんない病気とか運んでくるっていう話ですから、下手に触るわけにもいかないんですよ。まぁ大抵の場合、搬入口からまたお帰りになるんですけど。どういうわけだか高確率で入ってきますね。餌とかないんですけどね。不思議。


 この辺は空を飛んでご来店されるお客様なんですが、地を這う系のお客様もいらっしゃいまして。


 ここでもやはり虫関係は強いですね。それでも羽があるタイプよりは少ないです。いや、目につかないだけでひっそりと掃除のおばちゃんに始末されているのかもしれませんが。


 あとはね、ほんと迷惑なのがネズミです。

 ペットフードの袋を破いて食べちゃうんですよ。それで発覚するんですけど。棚の裏にネズミ捕りを設置したりしてね。


 とまぁこの辺がレギュラー、準レギュラーメンバーですかね。年に数回は必ずお会いします。


 が、先日ですよ。

 私もかれこれ5年くらい働いているんですが、初めてのお客様に遭遇したわけです。


 第一発見者は先輩でした。


先輩「宇部さん、午前中ね、私、すごいもの見て」

宇部「どうしたんですか」

先輩「○○売り場で作業してたんだけどね、視界の隅でなんか大きいものが動いてるのに気付いたのよ。大きいって言ってもアレよ? 小さいんだけどね、何ていうかなぁ、ねじとかね、そういうのに比べたら大きいっていうか」

宇部「何となくわかります」

先輩「それでね、パッ、てそっちを見たらね、一瞬、足が多い系の虫かな、って思ったのね」

宇部「うわぁ……。私虫駄目なんですよ」

先輩「知ってる。大丈夫、虫じゃなかったの」

宇部「虫じゃなかったんですか? じゃあ一体……」

先輩「カニ」

宇部「えっ?」

先輩「カニ」

宇部「カニ?!」

先輩「そう、カニ」

宇部「いや、カニったって、この辺、近くに海なんてないですよ。海どころか、川だって結構遠いですし」

先輩「そうなんだよね。だからさ、ほんとに謎で。だけどね、確かに見たから。少しでも証人を増やしたくて捕まえようと思ったんだけど、意外と足が速くてね、棚の下に逃げられちゃった」

宇部「ありゃあ」


 とまぁそんな感じでですね、沢ガニっていうんでしょうか、とにかく、それくらいのサイズのカニがいたらしく。


 もうほんとに謎なんですよ、どこから来たのか。どこから来て、そしてどこへ。


 考えられるのは、人間のお客様による持ち込みですよ。晩御飯のおかず的なやつが脱走した、とかね。スーパーでそういうサイズのカニが売られてるの見たことがあるんですよ。生きてるやつ。そんな小さいカニをどう調理するのかって思ったら、旦那が味噌汁に入れるんじゃない? って教えてくれたものですから、ハハン成る程、こっちの人はこのサイズのカニを味噌汁に入れるんだな、って。


 だからね、注意喚起(うっかり踏みつけないように)のために、翌日、他のパートさん達にもね、教えたんですよ、これくらいのサイズのカニが店のどこかにいるみたいですよ、って。お味噌汁に入れるサイズのカニですよ、って。


 そしたらね。


「えっ。北海道の人って、そのサイズのカニを味噌汁に入れるの?!」って。


 いや、違う違う。えっ、むしろそれは秋田コッチの人の話なのでは?! 北海道のカニ味噌汁(てっぽう汁)は脚が入ってるんですよ。給食でたまに出るんですけど、私はカニが嫌いなので、普通に嫌でしたね。


 とりあえず、店にカニが出たことはわかったけど、宇部さんのカニのサイズの説明が一番わからないって言われました。味噌汁に入るサイズのカニって何よ、って。そんな。


 結局そのカニさんなんですけども、第一発見者の先輩が最初に目撃したところから数十メートル離れたところでお亡くなりになっていました。南無。

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