第785話 教育

 つってもね、別にそんな堅苦しい話をするつもりは全然ないんですけどね。


 先日ですね、職場で「その家の教育とか躾について」みたいな話をしたんですよ。


 パートさんがですね、病院でわぁわぁとはしゃぎ回る3歳くらいのお孫さんと、それをほのぼのと見守るおばあさんを見かけたらしくて。まぁ3歳ですからね、どんなところでもはしゃぎたいのはわかるんですよ。ましてや病院なんてあんまり行かないですし、珍しいものがいっぱいありますから。でも、その珍しいものって、医療器具とかなんですよ。ただでさえいまはコ□ナで医療に従事している方々は神経すり減らして頑張っているのに、余計な仕事増やしたくないじゃないですか。私の姉が看護師なもので、いま本当に大変だって話を聞くんですよ。


「宇部さん家だったらどうします?」

「ウチの子がそんなことをしていたら首根っこ捕まえて隅っこに誘導し、ド叱ります」

「やっぱり。私は手が出るかもしれません」

「病院は駄目ですよね」

「病院は駄目です」


 いや、虐待とかじゃなくてね。

 子どもがキャッキャしても良いのはキッズスペース内のみなんですよ。キッズスペース内であっても静かに遊びなさいね、って私もその隅っこにお邪魔させてもらって目を光らせてますから。


「それでその後、もう一組親子連れが来たんですよ。その子と同じくらいか、もっと小さいか、ってくらいの男の子だったんですけど、その子はお母さんの隣にちょこんと座って大人しくしてて」

 

 で、思わずそのおばあさんとお孫さんと比べてしまった、と。

 ええ、私も比べちゃいますよ、絶対。いやいやおばあさん、ここ病院でっせ? って。そりゃね、内科とは違って皆身体は元気そうですよ? だからって騒いで良いわけじゃないからね? 孫が可愛くてついつい甘やかしちゃうのもわかりますけどね?


 それで思い出したのが、息子が保育園入りたての頃とかですね、実母から「ちょっとアンタの躾は厳しすぎる」って言われてたんですよ。ありがとうとごめんなさいをちゃんと言うまで何度でも声をかけるとか、なるべく何に対してのありがとうとごめんなさいなのかまで言わせるとか、返事や挨拶が返って来ない時はやり直しもさせるとか、そういうのが。


 私はコミュ障なので、誰かがしてくれたこと、自分がしてしまったことに対してその場ですぐに気持ちを伝えないと次がないんですよ。あとで言おうと思っても、それを実行に移すのがすごい勇気なんですよね。勇気が出ずにそのままのパターンもあります。感じ悪いですよ、ほんと。そういう時は家に帰って一人で反省会ですよ。

 なので確実にその場で全部言わないといけないわけです。返事や挨拶も絶対にその1回で終わらせたいですからね。聞き返されたくないんですよ。


 って、子ども達に対してはそんなネガティブな理由ではないつもりなんですけど(笑)

 まぁ、この先運動も勉強もどっちも得意にならなくても、そういう礼儀の部分さえしっかりしていたら、人から雑に扱われることはないんじゃないかな、って。少なくとも私がそうだったので。


 そんな気持ちでずーっとやって来たわけですが、時は流れ、子ども達もだいぶ大きく(8歳と5歳)なりまして、ある日、私の仕事終わりに旦那と子ども達がお迎えに来てくれた時のことです。


 もうすっかり顔馴染みになった店長が、息子に「おぉ、息子君こんにちは」と軽く声を掛けると――、


 ビシィッと気を付けの姿勢をとり、そこから「こんにちはぁっ!」とそれはそれは元気よく挨拶を返したらしく。


「宇部さん家って、軍隊みたいな躾してるの?」


 って、その次の出勤時にめちゃくちゃ笑われましたわ。

 

 息子、お前いつもはそんなんじゃないだろ。ていうか、さすがにそこまでの教育はしてないぞ。何の影響だ。お前、最近何を見た。ウルトラ警備隊か。

 

 ママ、職場で鬼軍曹だと思われるからやめて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る