好きなことを、好きなだけ

第780話 ヒデトシ

　子ども達がね、ドラえもんを見てまして。

　私も子どもの頃は楽しく見てたんですけど、大人になるとのび太くんのクズっぷりが気になっちゃいますね。

　いやほんともう何でしずかちゃんは彼と結婚しようと思ったんだろうって。

　確かにね、劇場版の彼はなかなか良いキャラですよ。能力としては色々劣っているかもしれないけど、仲間を大切にしたりとか、勇気を振り絞って云々とかね。こちらの涙腺なんてもう小学生男子の赤白帽のゴムかってくらいにゆるゆるですから、涙もだばだばですよ。

　だけどね、よくよく考えてくださいって。

　彼ね、いつもジャイアンに「お前のものは俺のもの」なんつって色々取り上げられたりとかしてひどい目にあってますけど、毎回毎回ドラえもんの道具を勝手に借りて一騒動起こしてるのお前だからな？　

　もう力を手に入れた途端に即調子に乗りますから彼は。私だったらこんな男絶対嫌ですよ。宝くじで一発当てたら株とかに全部突っ込んで大損しそうで怖い。

　しずかちゃんに普段から割と迷惑をかけているのに、彼女が出来杉君と仲良くしてるのを見て「しずかちゃんは僕と結婚するのに！」ってよくも言えたな、と。

　しずかちゃんのパパはね、確かに良いことを言ってくれましたよ。

「あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。それが一番人間にとって大事なことなんだからね」

　ですって。

　ええ、本当に大事なことですよ。

　でもパパさん、それ劇場版ののび太くんですからね？　彼、普段は割と特定の人物に対してかなり強い怨恨を抱いてますよ。彼がひどい目に合ったりすると良い気味だ、なんてほくそ笑むような人ですよ。

　そんで、親友ポジの猫型ロボットの道具を勝手に悪用しては各方面に大迷惑をかけるような人物ですよ。

　しずかちゃんが私の娘だったら絶対に出来杉君を推します。

　だってのび太くんはリスキーすぎますもん。

　確かに未来から来た猫型ロボット付きなんだとしたらおいしいですけど、その頃にはもう帰ってるんでしょ？　ちょっと彼単体はねぇ……。

　それにもう大人になったら劇場版ありませんからね？　それも猫型ロボットありきですから、劇場版は。

　そうそう、出来杉君といえばですよ。

　こないだドラえもんを見ている時に、彼の名前が『ヒデトシ』だってことを知ったんですよ。旦那とね、へぇー、初めて知ったなぁーなんて話してですね。

宇部「ヒデトシってどんな漢字あてるんだろうね」

旦那「それはもう賢い感じの字だろうな」

宇部「ヒデはさ、絶対あれだよ。秀才の『秀』」

旦那「あぁ、ぽいぽい。そんじゃ、『トシ』は？」

宇部「何か賢そうな感じの『トシ』なんてあったかなぁ」

　我々の頭ではどうにもその『賢そうな感じのトシ』が浮かばなくてですね。もうそもそも『賢そうな感じ』っていう言葉からして賢さからかなり程遠いんですけど。もう会話が馬鹿っぽい。違うんです、馬鹿なのは私だけですから。旦那はちゃんと賢いんですから。

　でも本当に浮かばなかったものですから、いっそ調べてみようぜって。出来杉君のフルネーム調べてみようぜって。

　まぁ主要キャラの名前が『のび太』『しずか』『たけし（ジャイアン）』『スネ夫』ですからね、ひらがなの可能性は無きにしもあらずでしたが。

　しかし、さすがは秀才キャラ。ちゃんと漢字があったのです。

『出来杉（できすぎ）英才（ひでとし）』

　まさかの英才――――！！

　もう生まれながらにして秀才になることが約束された男！　そっちか！　そっちの英（ひで）だったんかお前！　いや才が『トシ』って読めるなら、『秀才（ひでとし）』でも良かったじゃん！？

　とはいえ藤子先生に喧嘩は売れませんから。御大を敵に回すとか無理ですから。ええ、彼は英才でね。英才教育を受けて育った英才（ひでとし）でね。

　しかも彼、秀才キャラにありがちな嫌味な感じなんかもまったくありませんから、ほんとしずかちゃんにはぜひ彼を選んでいただきたかったな、って。