第720話 ちくちく

 これ、皆さんも経験があるんじゃないかなって思いたいやつなんですけど、こう、服を着てる時にですよ、まぁ普通の人は大抵服を着てると思うんですけど、その服を着てる時にですね、


「あれー、何かちくちくするなぁ」


 ってことありません?

 

 何かしらの何かが、服と肌の隙間に挟まっている。あるいは服の繊維に刺さっている、などなど。


 それが私の場合、それは髪の毛か、羽毛布団から飛び出した羽毛なんですよね。


 これが、全然見つからない。探し当てられない。重ねに重ねた衣服を残らず剥ぎ取り、疑惑のインナーをひっくり返して捜索するも、まぁー見つからない。悪(ちくちく物質)はいつだって、このちくちく警察24時の目をかいくぐって、善良な市民をちくちくさせてくるのです。


 これがまだ自宅なら良いですよ。子ども達がいようが旦那がいようが私はNO MUSICでストリップショーしますとも。幸いなことにまだまだ子ども達は「ちょ、おばさんの裸とか見たくないんですけど」とか「母さん、変なもの見せないでよ」とか言うような年齢じゃないものですから。え? 旦那? もちろん見て見ぬふりしてくれますって。いや、「どうしたいきなり」くらいは言いますけど。いや、言ってくるってことはがっつり見られてたわ。まぁそれは良いです。


 問題は、仕事中とかにちくちくし出した場合ですよ。

 お前、どうして自宅では息をひそめていたんだ。これがお前らのやり方なのか?! と。怒りを募らせつつ、ちくちくに耐えつつ働かなければならないわけです。この年になると羞恥心も雲散霧消するとはいえ(しねぇよ)、さすがに休憩室でストリップショーなんて出来ませんから。


 時間になれば、もう脱兎の如くタイムカードを切って退社ですわ。買い出しもそこそこに帰宅してすぽぽぽーんで脱ぎますわ。


 でも見つからない!

 何で! 何でなのよ!!


 まぁ、なぜかっていうのはわかりきってるんですよ、ぶっちゃけ。

 だってインナー(ユニクロの長袖ヒートテック)、黒なんですもん。私の髪の毛も黒なんですもん。見つけられます? 黒いものの中に黒いもの。めっちゃ忍んでんの。これ忍者だったら完璧なの。百点満点で忍んでんの。見つかるわけない。


 けれども、ごく稀に、ごくごく稀に見つかることもあるわけですよね。きらっと光るわけです、私のバリカタハリガネのキューティクルがね。良かった、この日のためにトリートメントしてるみたいなところある。そんなわけない。

 

 とにもかくにもですね、やっぱり悪事ってのはバレるんですよ。いくらこのちくちく警察が無能なやつらの掃きだめみたいな部署でもね、その中には優秀な人物も一人くらいはいたわけですよ。そんなこんなで見つけました、私のバリカタハリガネ。長さは約1センチ。こんなものが一日中私を苦しめていたかと思うとですね、火をつけて2階からぶん投げてやろうかとかね、そんな過激なことも考えますわ。結局情けをかけてゴミ箱に放るんですけど。


 しかしこの1センチっていうのが厄介なんですよ。そこそこの長さがある時でもかなりの硬さを誇るマイヘアーですから、これが短いとなると最早、針。ふざけ半分でうえーいってちくちくしてたらマジで刺さりますから。何か痛いなぁって思ったら刺さってるとかありますからね。


 ただね、ふと思うのが、


 1センチって何? 先端から1センチ分だけ分離したってこと!? 何をどうしたら1センチだけ分離する?!


 髪は『長い友達』と書くように、40年近く長い友達やってますけど、もうこれに関してはミステリーの一言です。まだまだ人体には謎の部分があるようです。

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