第579話 嘘つけ――――――いっ!
ウチの息子君、私に似てしまったために鼻炎持ちなんですね。
いやぁ、似てほしくないところが似てしまいましたよ、まったく。
というわけで、耳鼻科にちょいちょいお世話になっているのです。
またお鼻がつまって来たので、学校の帰りに行きつけの耳鼻科に行ってお薬もらってきたんですね。また2週間後来てくださいねーって。
そんでその2週間後ですよ。
また学校の帰りに病院ですよ。
家からはちょっと遠いんですけど、学校からは近いので、一緒に歩いていくわけですね。もうすぐ運動会だね、みたいな話をしてですね、手をつないでね。ああ、いつまでこうして手をつないで歩いてくれるのかしらとかちょっとしみじみ思ったりしながらね。
で、病院でまたお薬もらって、お鼻に吸入して――っていういつもの流れではあるんですけど、前々からですね、酷いようであれば治療しましょうって言われてたんですよ。何かちょっとずつアレルゲンに身体をならすみたいな、そんな感じのらしいんですけど。もう7歳だし、そろそろやっても良いかもね、っていう話になりまして。もらったお薬を飲みきったら、次回から治療開始だ! という感じなんですけども。
以前、アレルギー検査をしてるんですが、簡易検査みたいな感じだったみたいで、指にちょこっと針を刺しだけだったらしいんですよ(旦那が付き添った)。だけど、治療を開始するにあたって、しっかり調べておかないといけないらしく。
息子、初めての採血です。
まぁ、うんと小さい頃にやったとは思うんですけど、そんなの記憶にないでしょうし。
宇部「息子君、お注射だけど、頑張れる?」
息子「ぼく頑張る!」
宇部「おお! 良いお返事!」
もうこの時点で何かしらのご褒美確定ですよね。よっしゃ、帰りにコンビニ寄ってやんぜ! ってなもんです。
「じゃ、お母さんはこちらでお待ちください」
What!?
えっ、嘘! どんな時でも一緒だったのに!
マジで?! マジで私いなくても大丈夫なんですか?! 娘の予防接種は腕を押さえる係に任命されてたんですけど、本当に必要ないんですかぁっ?!
ちょっと離れたベンチに座ってですよ、カーテン一枚隔てた向こうでは、息子が何やら「はい、靴脱いでねー」「ここに寝てねー」って言われて、「はーい」なんつってるわけです。カーテンが完全に閉まりきってなくて、息子の足だけちょっと見えてるんですよ。おお、嫌がってない。すごいぞ息子。ママはてっきりこっちに逃走してくるものと思っていたよ。
が。
待てど暮らせど、始まらないのです。恐らく「はい、ちょっとちくっとするよー」みたいなのが聞こえてきたら始まると思うんですけど、全然そんな感じにならないんですよ。で、ややしばらくしてですね。
「お母さん、ちょっと来てもらえますー?」
って。
でしょうね。
何せウチの僕ちゃんスーパービビり野郎なものですから。
へへっ、すみませんね、とカーテンをめくりますと、ちょっと気まずそうに苦笑いしている息子。やはり心細かったようで。畜生、可愛いなぁ。
ママが来たからもう大丈夫よ、とにっこり笑って――、
両肩をぎゅー! 看護師さん! いまです!!
「うう、痛いよぉぉ」
という息子の声に手を緩めそうになりますが、そんな針刺さった状態ですからね、中途半端な仏心の方が危険ですから。
「頑張るんだ息子君! これ終わったらローソンでお菓子買って帰ろ! ね?」
「うん、頑張る! でも痛い。まだ終わらないの?」
「えーとね、うん、まだだわ。もうちょい、もうちょい……あっ、終わるって。終わるよ息子君。いま針抜くよ! もう痛くないからね」
「アッハハハハハハハハハ! ハハハハハハハ! あー痛くない痛くない痛くなかったー!!」
嘘つけ――――――いっ、お前!
さんざん痛い痛い言ってたじゃん!!
ていうか最後の笑いなんなんだよ!
とまぁそんな感じでドッキドキの採血は終了。
絆創膏をはがした後も小さい針穴を見ては「ぼく頑張ったでしょ?」と確認。いちいち可愛いなおい。
予防接種が嫌で嫌で最後まで抵抗していた数年前の息子は一体どこへ行ったんだ……? もうね、逃げなかっただけでも十分成長したな、と。
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