第578話 オスカー女優
宇部は子ども達に対してはかなりの演技派女優です。
子どもというのは、まぁ可愛いものでして、まだまだ騙されてくれるんですよ。いやぁ、私に似ず素直な子達です。
何をどう騙してきたかと言うと、特に食べ物ですね。自分が好き嫌いの多い子だったので、何としても好き嫌いをなくしたかったわけです。
私の場合、祖父母と同居していたこともあって、献立がなかなか渋かったというのもあったかもしれません。小学生に焼きナスの旨さなんてわかりませんって。肉より魚ばっかりでしたし。子どもが喜ぶメニューというのもあまりなかったのです。
で、いま家庭を持ったわけですけど、そんな渋いメニューを食べ続けてきた割にはそっち系の料理を全然作れないわけです。きっと一念発起して頑張れば舌が覚えているといいますか、そんな感じで作れると思うんですけど、何せそういうのが嫌だったわけなので、作っていないのです。
とはいえ、毎日毎日カレーやらオムライスやら作ってるわけじゃないですし、煮物とかね、和食も作ってるんですけども。
せめてどうにかお野菜は何でも食べられるようになってほしい。何かこう……トリッキーなやつ(パクチーとか)は良いとしても、メジャーなやつは一通り食べられるようになってほしい、と。
そんで、かつて息子がスーパー偏食君で、冷凍食品のアンパンマンポテトとほうれん草と焼き海苔を混ぜたやつとお豆腐しか食べなかった(保育園の給食も全く食べず、おにぎり握ってもらったり、パンを持たせてた)んですが、ある日突然何でも食べるようになったんですよ。
それほぼほぼピーマンだぜ? って料理も「ぼく、ピーマンだぁい好き!」とか言いながら食べるようになって、まぁ、おかわりを要求しないところを見ると本当は好きじゃないっぽいんですけど、たぶん私を喜ばせるために旨い旨い言って食べるんですよ。泣けるわ、お前私の夫かよ。
問題は娘ですよね。
食べ物に限らずですけど、この子は兄よりも好き嫌いをはっきり口にするタイプなのです。それだけまだ幼いってことなんでしょうけど。
「ママ、朝ごはん○○と△△だけ?」
「わたしってー、○○ちょっと苦手なのよね」
兄さんが何の文句もなくうまうまと食べている横でそんなこと言い出すわけですよ。ごめんって。朝は忙しいから勘弁して。
ですが、娘も娘で割とお野菜は嫌がらず食べるのです。何でって、
「お野菜を食べると、ほっぺがもちもちになる」
という私の言葉を信じているからです。
彼女のほっぺが良い感じに育ってきた頃からそう言ってきましたからね。実を結びましたね。たぶんそんな好きじゃなさそう(食べてる時の顔から判断)なんですけど、もちもちほっぺのために食べてるんですよ。5歳にして美容に気を使ってるんですよ。さすがは女子!!
というわけで、だいたいの野菜は『翌朝のほっぺがもちもち』というあながち間違いでもないやつでクリアしたわけなんですが、ここへきて、伏兵が現れたのです。
きのこです。
何かいきなり「わたし、きのこきらいなのよね」と言い出したのです。
なんですと!?
これから秋ぞ? 実りの秋ぞ?
我、これからきのこガンガン使う予定ぞ?
これは何としても食べてもらわんと。
またオスカー女優張りの演技をするっきゃないわけです。
「あれっ?! ママ、言ってなかったっけ?」
「えっ? なに?」
「きのこって、とーっても栄養があって、お肌にも良いんだよ! 娘ちゃん、こないだ給食に出たって言ってなかった? 食べなかった?」
「たべたよ?」
「でっしょぉ~!? だってほらっ、娘ちゃんのほっぺ、とってももちもちもち子!」
「ほんと!? もち子!?」
「ほんとほんと。あぁ~、そっかぁ、ママ言ってなかったかぁ。ごめんごめん。きのこ食べるとお肌ぷりっぷりのもっちもちになるのよねぇ~」
「知らなかったぁ~。もぉ~、ママったらぁ、ちゃんと言ってヨネ~」
「ごっめーん(テヘペロ じゃ、きのこ、どうする? 食べる?」
「たべるー!」
ちょろい。
私の演技がうまいのか、娘がちょろすぎるのか。
いや、きっとこれもあながち間違いじゃないはずなんでね、うん。
とりあえず、そんな感じでたまに女優になります。個性派女優です。
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