第480話 怖い音
ふと思い出した話なんですけどね。苦手な音といいますか、怖い音ってあるじゃないですか。
例えばウチの子ども達は小さい頃、ドライヤーの音が怖くて、お店のトイレとかにあるハンドドライヤーも駄目でした。娘はいまでもちょっと怖いみたいですけど。
息子はそれに加えて太鼓ですね。もしかしたらナマハゲが太鼓と笛の音をバックに現れるのが原因だったのかもしれないんですけど。
あとは、強風とか雷の音。
これはぶっちゃけ私も怖いです。私は基本的に大きな音が苦手なんですよね。とはいってもあれですよ、コンサートとかそういうのは全然大丈夫なんですけど。
でも、いま思い出してもそんじょそこらの強風や雷より段違いに怖かった音があるんです。今日はそのお話です。おっ、今日の宇部ッセイはホラー話かい? うーん、まぁ、どうでしょう。
私が営業職に就いて、そこで成績が全然ふるわず秋田に異動になった時のことです。
その異動先の部署、中途やら異動社員が多い割には若い人が多いんですよ。所長を除くとたぶん平均年齢は35にも満たない感じ。つまりは結構なブラックで、次々と辞めていっちゃう、ってだけなんですけど。
そんな若い人の多い職場でですね、私は思ったんですね。
「内勤だし、普通にオシャレな恰好しちゃっても良いのでは?」と。
外回りじゃないので、女性社員は余程ぶっ飛んでなければどんな恰好でもアリっちゃあアリなんですよね。男性はスーツでしたが、夏はポロシャツもOKでした。
まぁ、私のいう「オシャレ」なんて高が知れてるんですけど、とりあえず、スカートもOKですし、明るい色を着ても何も言われないだろう、みたいな。旦那の話では、「こりゃまたえらいオシャレな子が来た」と思ったらしいのですが、恐らく半分はリップサービスだと思っています。ただ、最初の歓迎会で誰よりも早く連絡先は聞かれましたね。
そんなことは置いときまして。
そんなこんなで毎日(いまの私には考えられないくらい)可愛らしい恰好をし、勤務時はサンダルなのを良いことにパンプスなんか履いたりもして、髪も耳の下で2つに結わってくるりんと巻いたりしていました。
で、大学生以来のイケイケ気分で日々を送っていた時です。
そこの部署、勤務時間が13~22時なんです。皆だいたい職場の近くに住んでいる(男性社員は多少遠い)ので、これといって危険なことはなかったんですけど、ある日の帰り道、横断歩道の前で信号待ちしていると――、
バチバチッ、バチバチバチバチバチッ!
そんな音が聞こえたんですね。
かなり近くからでした。
え? 何? 何の音?
もう普通に恐怖ですよ。
かなり近くというか、もうほんと耳元くらいでしたから。
何でしょうね、ドラマや映画で聞くようなスタンガンの音ともまた違うんですよね。でもとにかく、文字で表現すると「バチバチ」なんですよ。
え? 何? 何の音? どこから聞こえてくるの?
と、辺りを見回しますが、不審者の類はおりません。
そもそも23時近くにその辺を歩いている人間なんておりませんよ。車だってほぼほぼ通ってませんからね。
じゃあ、これは一体――?
とはいえ、うすうす感づいてはいたんですよ。
もしかして、私の身体に何かしらついてるんじゃない? って。
この場合の『ついている』っていうのはもちろん『憑いている』ではありません。もう普通に『付いている』というか、『とまっている』というか。
虫、なんじゃない? って。
だとしたらどこ?
スタンダード(?)に背中? それとも頭? いや、でも音の近さからいって考えたくはないけど顔? だとしたら気付け! ていうか、お前もさっさと逃げろ!!
そこでやっと身体を大きく動かすなどして本格的に追い出しにかかったわけですよ。すると、どこかにいるであろうその虫がまたもバチバチやりだしたわけですね。ええい暴れるな、わかった、お前も逃げたいんだな? でも逃げられないんだな? 思いは一緒だ、私もお前を捕まえる気なんて毛頭ねぇよ!
どこだ? どこだ?! どこなんだ?!!
いた――――――――――!!!
くるんくるんに巻いた髪の毛の中だ――――――――!!!!
そりゃあ出られねぇわ。
私の髪の毛といったらそりゃあアナタ、泣く子も黙るしこっちが泣きたいほどのバリカタハリガネなの。この天然要塞から逃げられる虫なんてそうそうおりませんて。
意を決して、音がする方のおさげをゆさゆさしますと、そこからかなりの大きさの緑色のヤツが飛び出しました。
そいつ、でっかいバッタだったんですよ。地面に着地した後、どっか跳ねていきましたから。
いや、お前、どうやってこの中に入ったの?
そんな飛ぶの?
そりゃあショッカーもバッタ人間作ろうとか考えるわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます