第471話 漢字の説明が難しい

 いまから7年ほど前になりますが、息子が出来た時ですね、名前を考えるわけですけども、我々の中で『ここは絶対に譲れない』というポイントがあったんですね。


 まずは漢字の意味ですよね。やはり多少は色々込めたいじゃないですか。でも、漢字の成り立ちみたいなのを調べていくと、いまは良い意味でも元々は~みたいなのがあって、そしたらもうどうすりゃ良いのよってなりましたね。


 それから画数。男の子ですし、女の子と違って総画数が変動することはないでしょうから、やはり画数は少々気にしました。ただ、きりがないので、最終的にはそこそこの数で落ち着きましたけど。

 ちなみに娘の場合は嫁いだ際に画数が変わることを見越して、あんまり気にしませんでした。だから頼む、嫁いでくれ!


 あとはですね、『電話で説明しやすくて、紛らわしい読み方とか出来なそうなやつ』というのがあったわけです。


 というのも、それよりさらに数年前なんですが、私、電話でやり取りする系のお仕事をしてたんですね。その業務に、『漢字検定の受付』というのがなぜかプラスされたんですよ。受験者が○人以上いれば、民間企業とかでも運営出来る、みたいなのがあったんでしょうね。


 学校にビラを置かせてもらい、それを見た人からウチの会社に申し込みの電話をいただくわけです。その時私は事務だったので、ほぼほぼ私が受けるんですね。


「ありがとうございます。『(会社名)』でございます」

『すみません、漢検を申し込みたいのですが』

「ありがとうございます。このお電話で受付させていただきます。まずは受験される方のお名前をお願いいたします」


 なんていう流れで、住所・氏名・生年月日・電話番号・受験級を聞くわけです。それをリスト化して漢検本部に送る、みたいな。


 で、一番困るのが名前の漢字でした。住所は多少漢字がわからなくても調べようがあるんですけど、個人の名前は調べるの難しいですからね。

 親御さんの方でも、いままで電話で我が子の名前の漢字を伝えたことがなかったのかな? ってくらいに困惑してるんですよ。いやこれはですね、昨今のキラキラネームがどうとかって話じゃないんですよ。『月』と書いて『るな』だったらいっそもう逆に良いんですよ。向こうも「『月』と書いて『るな』です」で済みますし、こっちも『月』くらいわかりますから。


 ただ、例えばですね『草間彌生』さんの『彌』とかね。『森繁久彌』さんの『彌』でも良いんですけど、そういうやつ。いや、まだこれは「『弥生』の『弥』の旧字です」で通じるから良いんですけど。だけど、向こうもパニクってるのか、『あの、ほら、えーと草間彌生さん、わかります? あの『や』なんですけど』みたいなことになってて、そんで私も何かつられて「ああわかります。アレですよね、森繁久彌さんの『や』っていうか」って返したりして、『そうですそうですー』みたいな。

 あと困ったのが『嗣』ですね。確か『~つぐ』みたいな名前だったと思うんですけど、これはもう一生懸命漢字を分解されました。


『まず『口』って書いて、その下に『冊』です。ええと、『冊』は本が何冊~とかの『冊』で、その隣に司会者の『司』ですね』


 もうね、これは大変だぞ、と。

 倖田來未さん全盛期の時代だったので、『來未』の『來』も結構あったような気がします。

 だから、もう電話でパッと言えるやつにしよう、って。その辺も旦那と一致しましたね。同じ職場でしたから、私が大変そうにしているのを見ていたのでしょう。


 で、何でこんなことを思いだしたかって話なんですけど、先日、仕事中に仕入先さんに電話をする用があって、『荘』っていう字を説明しなくちゃいけない感じになったんですよ。


 そこで案の定困ったわけですよね。

 いや、『荘園』の『荘』だな、っていうのは浮かんだんですよ? 一応。でも、『しょうえん』って言われて『荘園』にすぐ変換されるかな? って。


「えーと、あの草冠にー、うんと、壮行会とかの『壮』なんですけど」


 って言ってから、いや、その「そうこうかい」にしても、『走行会』とか『総工会』とかあるじゃん! ってなってたら、向こうの方が『あのー、何とか荘の『荘』ですか?』って助け舟を出してくれまして。


 それがあったか! そうだよ『マカロニほうれん荘』があったじゃん! って。


「そうです、『マカロニほうれん荘』の『荘』です!」


 ってついつい言ってしまって『……はい?』ってなった、っていう。


 よくよく考えたら向こうは『何とか荘』としか言ってなかったよなぁ、って。

 もうしばらくあそこに電話かけられません。

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