第431話 準備はいいかーいっ!?
子どもっていうのは、とにかくもうすーぐ影響を受けるものでして、ウチのアイドル娘ちゃんは、ちょっとアイドル要素のあるアニメとか、バレエ的なやつとか、そういうのを見るとですね、すーぐ踊りだしますから。
先日もですね、「ママ、今日、わたしのショーあるから!」とか言い出しまして。えっ、ママこれから仕事行くんだけど? と思っていたらですね、大丈夫、ショーの開催は夜らしく。仕事が終わり、わくわくしながらその時を待ちますと、予告通り『宇部娘ちゃんショー』が始まりまして。
ワァー、パチパチ、と観客1名の拍手の中、んふんふと機嫌よく登場したスーパーアイドル娘ちゃんが、舞台(リビングの隅)でくるりと華麗にターンを決めました。多少ふらつきましたが、そこはご愛敬です。
さぁ、ここから何が始まるのかな? と最前列の親衛隊(1名)が心の中で手作りうちわ(『ほっぺがキュート!』と書いてある)を握り締めます。
と。
「おわりです!」
終わったのです。
娘ちゃんのステージはプリンシパルもかくやというその華麗なターンで終わったのです。大丈夫、可愛いからすべて許されます。たとえそのステージのS席が8000円とかだとしても許されます。だって可愛いですから。
さて、影響を受けるのはもちろん娘だけではありません。息子もです。
ある夜のことです。
私がお風呂から上がり、脱衣所でパジャマに着替えておりますと、引き戸がガラガラと開き、息子がひょっこりと顔を出しました。
「ママ、もうすぐ始まるから急いで」
何が?!
一体何が始まるのです?!
とりあえず、急いで着替えを済ませリビングに戻りますと、テーブルの周りに息子、娘、旦那が集まっています。息子はコピー用紙で作られたマイクを持っています。とりあえず何かが始まる予感でいっぱいです。その他、旦那はネックのないウクレレのようなもの、娘は筒を持っています。もちろんすべてコピー用紙製です。
何何、何が始まるのかしら、と完全に観客のつもりで椅子に座りますと、私の席にも何やら置いてあります。
コピー用紙で折られたピアノでした。ご丁寧に鍵盤にはドレミと書いてあります。ママは一応ピアノが弾けるのですが、もうかなり離れてますからね、その心遣いが嬉しいです。
ていうか。
え?
ピアノ?
すると息子が言うわけですね。
「パパ、準備はいいかーいっ?!」って。
旦那はもちろんノリノリです。「イエーイ!」と拳とネックのないウクレレ(推定ギター)を振り上げます。
「妹ちゃん、準備はいいかーいっ?!」と笛担当の娘ちゃんにも問い掛けます。
娘ちゃんもノリノリです。「イエーイ!」と縦笛(ただの筒)を振り上げます。
となると当然……。
「ママ、準備はいいかーいっ?!」
そうですよね。私もメンバーですからね。
言いましたとも、「イエーイ!」ってね。でもほら、ピアノですからね、持ち上げられませんから。
さぁ、打ち合わせ0のライブがスタートです。
と思ったら、息子は「あっ、僕もメンバーの一員だった」って思い出したんでしょうね。
「僕も、準備いいかーいっ!?」
自分自身に問い掛けましたよね。そんで「イエーイ!」言いましたわ。
もうこの時点で腹筋が爆発しそうだったんですけども、息子がノリノリで歌い出したすべてが謎の曲でとどめを刺されましたね。
メンバーは皆思い思いに楽器を奏でます。何せその曲全く知らないやつですから。
旦那はジミヘンばりにギター(ただしネックはない)をかき鳴らし、娘はピコピコと笛を吹き(ピコピコ言ってるだけ)、私も気分はスティービーワンダー(濡れた髪を振り乱す)です。
ああまさか、家族でセッション出来る日が来るなんて……とちょっとうるっと来そうになりましたが、そんな涙も息子の謎の歌(ちょいちょいそれっぽい英語がまざる)で引っ込みます。
そして、気付くわけです。
観客0―――――――!!!
これ、誰に向けてのライブなの?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます