第346話 いまを生きる息子、過去が気になる娘

 ウチの子達、同じ母の腹から出て来たといってもですね、全然性格が違うんですね。同じなのはちょっとお調子者ってところでしょうか。


 いや、タイトル通りなんですけども、息子はとにかくこの一瞬を生きてる! って感じで、過去は一切振り返らないんですね。って書くと恰好良いんですけど、単に忘れっぽいだけかもしれません。


 しかし、娘はいつだって過去が気になる。過去の自分が気になるのです。まだ4歳なのに。お前の思い出4年分しかないっていうか、そのうち記憶があるのって多くても2年くらいじゃない?


 そんな娘ちゃんは1日に1回は必ず


「ママ、娘ちゃんの○○、楽しみだった?」


 とこんな感じのを聞いてきます。


 こう書くと、「ううん?」ってなるじゃないですか。文法的に、というか。ちなみにこの○○部分には各イベントが入ったりします。『運動会』とか『発表会』とか、もっと具体的に『ダンス』とかだったりしますけど。

 つまり、あなたは数ヶ月前のイベントを楽しみにしていましたか、っていうことを聞いているわけです。


 そもそも最初はそのイベントを楽しみにしててね、っていう感じだったんですよ。もう一月も前から「娘ちゃん、○○やるから、楽しみにしててね」って告知をしまくってくれましてね。番宣のためにバラエティに出演している女優ばりにアピールしてくるんですよ。お前CMの度に番宣してくるな。

 でも、そのイベントも当然いつかは終わるわけじゃないですか。そしてそう毎月毎月イベントがあるわけでもないじゃないですか。だけど、娘ちゃんは聞きたいわけです。いつだって自分が一番注目されていたい。そこで編み出したのが上記の質問なわけですね。


 未来のイベントの話が出来ないなら過去をほじくり返せば良いじゃない!


 お前、何トワネットなんだ、と。

 マリー・何トワネットなんだ、と。


 昨年12月頭の発表会のオペレッタのこと、まーだ聞いてきますからね。「娘ちゃんのオペレッタ、楽しみだった?」って。ていうか、楽しみだったか否かで良いの? 上手だったかとか、可愛かったかとかじゃないの、そこ?


 そんで、最近はですね、娘自身もさすがにオペレッタについては納得出来たのかはたまた飽きたのか、


「ママ、娘ちゃんが赤ちゃんの頃、可愛かった?」


 って聞いてくるようになりました。えっ、これ何て答えるのが正解なのよ。


 もう可愛いのが約束されている赤ちゃん時代の思い出をも持ち出してくるわけです。


「赤ちゃんの時の娘ちゃんも可愛かったけど、いまの娘ちゃんもとっても可愛いよ☆」


 どうだ、これが100点だろ? と聖母マリア様の顔真似をしつつ(どんなだよ)答えるも、


「私いま赤ちゃんの時のお話してるデショ!」


 どうやら納得のいく答えではなかった模様。ほんとすんませんね。えーとあなたの赤ちゃんの時のお話ね、はいはい。


 で、さんざん赤ちゃん時代の娘の話をしておりますと、息子がね、こっちをちらちら見てるわけですよ。ヤバい! 娘ばっかりかまっちゃったからやきもち?! やきもちなの?! もう全く可愛いな、お前はYO!


 いつもは過去なんて興味0の息子ですけど、さすがに気になっちゃうよね? よね? 良いのよ、どんとこい。こうなったら今日はとことんお前達が産まれたてほやっほやの時の話を聞かせてやるぜ!


「ママ……」


 よし、来た! おいでなすった!! あのね、息子君はね――、


「セロテープ貸してくーださいっ」


 セロテープなのでした。

 過去の自分よりいまの工作。


 こいつやっぱりブレねぇな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る