第338話 要接待

 接待ですよ。

 日本人って接待大好きじゃないですか。知らんけど。


 もうね、染みついちゃってるんですよ、身体にね。

 じゃあ、誰に対して接待してんのか、って話になるわけですけど。


 我が子ですよ。

 我が子に接待ですよ。


 というのもですね、色々出来るようになったとはいえ、まだまだしっかり子どもなわけです。出来てるように見えても出来てなかったりするんですよ。かといって出来てねぇじゃんって言っちゃったら、可哀相じゃないですか。せっかくやる気出してんのに。持ち上げてそのままやる気継続したら、そのうちすごいの作れるかもしれないじゃないですか。ウチはどっちかというと「出来てないじゃん」って言われちゃう家庭だったんですけど、それが嫌で嫌で。これから出来る予定なんだよ! って悔しい思いしてましたんでね、大丈夫、私のお前達にそんな思いはさせん。


 もの作りが大好きな息子は、紙と鉛筆、はさみとセロテープがあればもう何時間でも引きこもれる質でして、ああ、こういうところも私に似てしまったなぁなんて思ったりするわけなんですけど。先日ですね、またも朝からいそいそとごそごそやってた息子がですね、にこにこと何かを持ってくるわけです。


「じゃじゃーん、マジックショーでーす!」って。


 おいおいママこれから仕事なんですけど?(日曜日)


「ワァー、たぁのっしみぃ~!(鳴りやまない拍手、そして着席)」


 観客の熱い声援に気をよくしたマジシャン(息子)がですね、得意気にどんとブツを置くわけです。裏紙で作られた箱でした。上に丸い穴があいています。子どもの手が入るくらいの大きさの穴です。中に何かが入ってるのが正直丸見えです。さて、ここからどんな手品を見せてくれるのか。あんなに小さかった息子がママに手品を披露してくれる時が来るなんて……ともうこっちの涙腺なんてあってないようなものですから。ちょっと気を抜くとだらだら出ちゃう感じですから。待ちますよ、ショーの開幕をね。


 すると。


「はい、ママ、当てて!」

「……え?」

「何がはいってるでしょうかっ!」

「……え、当てんの? ママが?」

「うん!」


 ママが当てるのでした。

 手品でも何でもないです。

 これはただの『箱の中身はなんだろな』です。


 ですがここで丸見えだからって即当ててしまっては盛り上がらないわけです。


「うーん、なんだろうー(指先を入れてごそごそ)。難しいなぁー、わかんないなぁー」

「ヒントはねー」


 頼んでもいないのにヒントをくれるようです。なんと優しいマジシャンか。


「ナンタラカンタラ(?)ザウルスですー」

「えっ、それヒントなの?」


 ほぼ答えじゃない? ていうか答えそれじゃない? このフォルム、確実にナンタラカンタラザウルスですけど?


「む、むむむ難しいなぁ~、ごつごつしてるなぁ~、何だろうなぁ~」

「うふふ、うふふ(めちゃくちゃ楽しそう)」

「うーんと、『恐竜』とか?(さっきの何とか部分を覚えてない)」

「せいかーいっ!」

「判定が甘い!」


 ガチでそれで正解だったのか、それとも「どうせママには『男のロマンナンタラカンタラザウルス』なんてわからないだろうし、恐竜でいっか」ということなのか。


 えっ、ちょっと待って。もしかして接待されてるの、私の方なんじゃ?!


 そして、旦那も旦那でばればれの「だーれだ」を必死でわからないふりして「えぇーっとぉー? この声の感じからして……?」と頑張っている模様。


 成る程、こうやって接待を身体で覚えていくのね。数十年後、お前達も接待する側になるんだからな。

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