第328話 レモンティーとの因縁
好きな飲み物は何ですか、って聞かれたら迷わずカフェオレと答える私なんですが、その次は? って聞かれたら、カフェラテかな? って答えると思うんですね。そんでその次はコーヒー牛乳で、ミルクコーヒーで、うん普通のコーヒーももちろん好きよ? ってなって「もうコーヒー関係は駄目!」って言われたら、じゃ、ミルクティーってなるわけです。別に紅茶が嫌いとかじゃないんですよ。コーヒー関係がひたすら強いだけで。でも、寒くなりますと、あのホットコーナーのミルクティーが私を誘ってくるわけですよね。
「宇部さん、見て。私、『ロイヤル』って書いてる」
「宇部さん、見て。ここに『北海道』って書いてるわよ」
私なんかはあの北海道の形を『美味しさ保証マーク』だと思ってますから。『北海道産●●使用』とか書かれているだけで購買意欲が高まっちゃうタイプですから。最近じゃあ旦那の方でもこの『北海道の形=美味しさ保証マーク』がすっかり定着してきまして、「あっ、ここに北海道って書いてる。よし、買おう」って財布の紐を緩める傾向にあります。
さて、そんなミルクティーなんですけど、出会いは私が小学生の頃でした。午後の紅茶です。いまでも紅茶(缶とかペットボトルの)といえば午後の紅茶ってイメージがあります。最近はリプトンも頑張ってますけど。でも、昔は午後の紅茶だったんですよ。まだ『午後ティー』なんて言葉もない時代のことです。
当時の宇部家は基本的にジュースNGの家でしたから、家にある飲み物なんて手作りの麦茶か牛乳しかないわけです。でも、BBQの時とか、家族で遠出する時なんかはジュース解禁となるわけで、たぶん、そういう時に飲んだんでしょうね、ミルクティーを。いま思えば紅茶ってがっつりカフェイン入ってるんですけど、宇部母はその辺ザルのようでして、コーヒーじゃないからOKみたいな感じというか、いや、よくよく考えたら、2歳くらいの時に紙パックのカフェオレ飲んでる写真ありましたわ。まぁ、昭和ですから。おおらかな時代ってことでね。
ああそうそう、ミルクティーなんですよ。
誰かのお土産的な感じだったのか、ある日、宇部父が午後ティーのミルクティーとレモンティーの缶を持ってきたのです。姉妹で仲良く分けろ、と。仲良く分けろも何も妹に選択権なんてありませんからね。私はレモンティーになりました。初めて飲むやつです。いつも何かと私を助けてくれたミルクは入ってません。何だか良い感じのお姉さんが飲むものとばかり思っていた、レモンティーがここにあるのです。
隣では姉が喉を鳴らしてミルクティーを飲んでいます。これ見よがしに。畜生。
ごくり、と一口飲んで――、
ああ、これ、私無理だ。
もう一瞬の判断でした。
舌に乗った瞬間に「違うな」って思いました。でも責任もってその一口は飲みましたけど。
ただ、問題はその残りまくったレモンティーですよ。
まさかトイレに流すなんてことは出来ないし、流しに捨てに行くにしても、下には両親がいる。とりあえず、隠しておこう。
いま思えば、なぜ隠すという発想に至ったのかほんと謎なんですけど、「これ美味しくないー」って親に渡すなりすれば良かったんですけど、そういうのを言えない子だったんですね。何かこう、わがままは言えない、みたいな。
結局、学習机の下の足置き(?)みたいなところの後ろに隠したんです。ここならその足置きに守られて私の足がぶつかることもありませんから。とりあえずここに置いて、後で捨てよう。たぶんそう考えていたはずなんです。
まぁ、忘れますよね。
子どもだもの。
その哀れなレモンティーさんが見つかったのは、数週間後のことでした。むしろ数週間でよく思い出したなと自分を褒めてあげたい。よしよし。
さてさて、そのレモンティー、どうなってたと思います?
さすがにこれは捨てないと、と思って、こっそり流しに捨てに行ったんですよ。で、注ぎ口からちょろちょろと……あれ? 出てこないぞ? 乾いた? もしかしてこの数週間で蒸発した? 蒸発とか、一応知ってる年齢だったんですね。
と、首を傾げていたら――、
ドンッ!!! って。
何か黒い塊が出て来たんですよ。
えっ、レモンティーってこうなるの? 数週間もほっといたらこんなことになるの? って。いまでもあれが何なのか謎なんですが、とりあえず、黒い塊が出て来たんです。そいつが栓をしていたようで、残りのレモンティーも出てきました。
あれ以来、やっぱりいまでもレモンティーは飲めませんね。レモンティーに何も罪はないのに。
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