第309話 獅子頭

 って書くと、「いやいや宇部さん、『獅子舞』でしょ?」って突っ込まれそうですけど。もうすぐお正月ですしね。「んもう宇部さんったら、本当に無知なんだから」、そんな幻聴すら聞こえてきそうです。


 いや、そもそも今日はクリスマスなんでね。そりゃお正月はもうすぐですし、もう~い~くつ寝~る~と~で数えられるレベルに迫って来てますけど、まずはクリスマスなんです。こういうイベントはひとつずつ消化していかないといけないわけでして……。


 ていうか、すみませんけど、今回の話、クリスマスすら関係ないです。ごめんなさいね、そんな私で。



 高校生時代を思い出しまして。

 私はいつだって何の脈絡もなく昔のことを思い出しちゃうタイプなんです。

 私が高校生の時ですから、もう20年ちょっと前の話になるんですけど、TOYOTAのハリアーって車のCMで、頭が完全なライオンの人間が出てたの知りません?

 その獅子頭がですね、ばしっとスーツを着こなして、ハリアーに乗って、女性もエスコートしてたかな? とにかくもう紳士的なふるまいをしていたんですよ。


 これが私のハートにドストライクだったんですよ。

 私、ディズニーだと美女と野獣が一番好きで、何なら野獣も王子様に戻らないでほしかったってくらいあの野獣の感じがストライクな人間なんですけど、まぁちょっと現実的に考えるとですね、全身毛だらけの獣と生活するって結構無理がありそうというか……主に衛生面がね。ですけど、こっちはほら、頭だけですから。頭だけならねぇ、全然問題ないというか。たてがみからはもさもさ抜けそうですけど、人間だって毛は抜けますから。


 成る程こりゃあ彼氏も出来ないわけです。

 皆が「●組の●●君恰好良い♡」とか言ってる時に、「あの獅子頭恰好良い♡」って思ってるわけですから。いや、普通に人間の男も好きでしたけどね。


 で、通学路にTOYOTAがあったんですけど、そこを通る度にポスターの獅子男を見ては「なまらすごくタイプだべさ」とそこまでバリバリの方言で考えていたのかはわかりませんが、とにかく恰好良いと思っていたわけです。


 ちなみにこの道産子が良く使う『なまら』ですが、ルビの通り『とても』とか『すごく』とか、つまり英語でいうところの『very』と同じ使い方をします。これをはっきり『なまら』と言わず、『な』と『ま』の間に『ん』を挟むとよりネイティブになります。つまり、『なんまら』です。あまり『ん』を強調してはいけません。『なンまら』くらいでしょうか。


 合コンで使えるモテテクとして、めちゃくちゃ美味しいものを食べた時「これなン~まらうめぇべや!」と言った後で、ちょっと恥ずかしそうに「やだ、訛っちゃった」と頬を染める、というのがあります。道外でしか使えない上に、本当にモテるかはわかりません。さらに「えっ、どこの方言?!」って目当ての男性が食いついてきた場合、あなたは最後まで北海道民を装わなくてはなりません。自己責任でお願いします。


 もうかれこれ15年近く東北に住んでいて北海道の方言とか全然使わなくなった私でも、『なまら』だけはめちゃくちゃ美味しいものを食べた時についつい出てしまうんですよね。ただ「こなンまらうめぇから、食ってみれじゃ」と東北の方も混ざってしまい、ハイブリッドな食レポになりがち。どこの人間なんだ私は。


 いや、話が大きくそれてしまいましたが。

 

 その獅子頭なんですけど、なぜか数年(数ヶ月?)後、完全な獅子の頭部ではなく、「君、顔がライオンに似てるってよく言われない?」って感じの獅子風の顔の男性になってしまい、急激に冷めました。私が求めているのは二足歩行する獅子男であって、獅子顔の男ではないのです。TOYOTA、君にはがっかりしたよ。


 でもこれが、ゴリラになりますと、本物のゴリラも好きだし、ゴリラ顔の男性も悪くないと思えてしまうのが不思議なものです。


 あ、ちなみに旦那は獅子顔でもゴリラ顔でもありません。善良な人間の顔をしています。


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