第156話 どうして私に聞く

 不思議なんですけど、声を掛けられやすいんですよ、私。


 ナンパとかね、そういうのじゃなくて。

 道を聞かれたりって、そういうやつです。


 これがですね、不思議で不思議で仕方がないわけです。

 というのも、私、そんなに親しみやすい顔してません。むしろ、一人で歩いている時って、仏頂面といいますか、そんな感じですから。おまけに恰好もですね、不審者一歩手前といいますか、黒い長袖パーカー(UV対策)に、黒いスキニーパンツ(仕事着)、日によっては黒いバッグ、おまけに顔の半分を覆うマスク。これ、完全に強盗に入る時の服装ですから。性別に助けられてる部分が大きい気がします。辛うじて足元は真っ赤なスニーカーですが、ここに注目させる作戦かもしれませんしね。


 若い刑事さんがね、上司に聞かれるわけですよ。


「ホシの特徴は?」

「30代女性。身長は160前後。髪の色は黒、肩までのセミロング。服装は黒いパーカーに黒いズボン、黒い鞄に、白いマスクです」

「全身黒づくめ、か……」


 ベテラン上司、ひげがじょりじょりの顎を擦りながらため息ですわ。すると、


「いいえ警部、足元だけは、真っ赤なスニーカーでした!」

「何……? 赤いスニーカー……? そいつは目立つな、よし、それで当たってみよう!」


 みたいな。

 でも、私はその裏をかくわけですよね。別に赤いスニーカーばっかり履いてるわけないでしょ? こちとらおしゃれに敏感な女子(かつては)ですけど? ってね。


 全体的に、私は何を書いているんでしょうか。


 まぁ、そんなこんなでですね、その強盗ルックで通勤してますし、それに、イヤホンもしてるんですよ。音楽(特撮ソングかアニソン)聞いて気持ち上げまくってますから。進め銀河の果てまでもって気持ちで通勤してますからね。銀河の果てでやるような仕事じゃないけど。


 にも拘わらず、呼び止められちゃう。もちろん職質とかじゃなくて。


「あのー、ここに行きたいんですけど」

「○○眼科ってどこでしょうか」

「この辺に○○銀行ってあります?」


 なぜ私に聞く。

 この、強盗ルックかつ、耳から白いコード垂らしている私に、なぜ聞いた。


 しかも恥ずかしながら、私は方向音痴でして、自分が行ったことのある場所しかわからないのですよ。それも、決まったコースじゃないとたどり着けませんし。だから正直聞かれてもばしっと答えられない。ていうか、何なら知ってる道ですら、上手く説明出来ません。


 酷い時は自転車に乗ってる時に呼び止められましたからね。そこまでして私に聞く? その辺で歩いてる人に聞いてよ!


 そしてそもそも私、ここに住んでまだ数年だからね? 最近出来た建物ならまだしも、公民館とか銀行とか、昔からある系の場所聞かれても全くわかりません!!


 さらにですね、子連れだとより一層声を掛けられちゃうわけですよね。これが田舎の恐ろしいところですよ。ベビーカーをガラガラすれば、まず間違いなくおばあちゃん達の餌食になりますから。何ヶ月? って。


 でもさすがに小学生の息子となら……? って思うじゃないですか。

 ところがどっこい、息子は昔っからマダムキラーでして、面白いくらい年配女性を釣り上げるのです。その上、厄介なのは、私の愛車ですよ。電動自転車。電動自転車プラス子どもという組み合わせは大変危険です。


「あら、その自転車良いわね。電動? やっぱり楽? 良いわねぇ、後ろ乗せてもらって~」


 これね。

 乗り心地とか値段とか聞いてきますから。

 子ども達なんて十中八九「良いの被ってるわね(ヘルメット)~」って言われますから。

 もうにっこにこですよ、褒められた! って。


 ただね、ママはスーパー人見知りだから。

 知らない人に声を掛けられるとか、もうどきどきしちゃうから、まじで。


 あと、もう本当に道はわかりませんので勘弁してください。

 だいたい、方向音痴の人間にいちばん聞いちゃダメなやつだからね? どこにたどり着いても、私は責任をとりません。あしからず。


 

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