この小説には二つの速度がある。一つは車輪の速度。これは少女を未来へと連れていく。もう一つはボールの速度。これは少女を過去へ引っ張っていく。誰であれ感じ、だからこそ共有が難しい、自分自身を見失う感覚に包まれ立ち止まっていた少女が出会う、この二つと二人の意志ある速度を感じて欲しい。誰かと一緒にいる速度、誰かを追い自分を奮い立たせる速度。二つの速度という形で、成長途上の少女自身の感覚も細かに描かれている。少女の目線で描かれる「二つの疾走感」と共に、ふとした再起の過程を楽しんで。