第374話変容

 配り終わり、神との練習に取り掛かる。



「取り合えず今できる全力でやって見て」



 促され俺は。自身体から魂を取り出し、歌い始める。なに、まだまだ届かないのは分かっている。それでも理想の姿は、目指すべき先達の姿は俺に刻まれている。


 思い浮かべるは彼の姿、まるで音を従える指揮者の如く歌う彼だ。さぁ歌え、目標に自身を重ね可能な限りを尽くせ。


「はいはい、ストップ、ストップ」



 俺は半強制的に体に戻された。



「何かまずい事でもあったか?」



「まずいよ、危ないよ。君さ、誰かを見本として重ねるのは良いけど、やりすぎだよ? 魂が変容しかけてた。いや、ほんの少しではあるけど変容してる、具体的には顔つきが中性寄りにだけど。このやり方は危ないからね、魂に引っ張られて肉体の変容だってありえ無いわけじゃないんだからね?」



 変な方向に集中しすぎたか。



「それはまずいな、気をつけよう」



「所で誰だったのあの女性は?」



「あれは男だ、師匠の息子だ」



 芸術の神は難しい顔をして考え込むと。




「師匠ってあの少年だよね? あの子も性別がイマイチ分かり辛いけどさ。人間だよね?あの年齢で子供って」




「アレでも結構な年齢だぞ? そういう血筋だそうな」




「君のいた世界は不思議な所なんだね」



「何処も大した差は無いさ」




「そう言われてみればそうだね。じゃあ次は音だけ重ねながらやってみようか、姿は頭から追い出してやってね」




 それから歌い、時に神の教えを聞きながら歌い続けた。途中からは小さな合唱団の乱入の為歌のお兄さんと化した神と合唱団の教育番組モドキになっていたが、まぁそれもいいだろう。




 その後は戻ってきたルイからおっさんを引き取り、魔王の元へ送り届け、ミューを預かりルイへと預ける。待ち時間は妖精達と戯れて過ごす。悪くは無い休暇ではないだろうか?


 その後は契約を終えて戻ってきたミューを送り届け、礼でルイに酒を振舞う。ルイも懐かしい味や物にいつもよりテンションが5割増しで高い。


 そうして俺の休日のような何かは終わった。



 翌日。俺は転移符で人間の島に来ている、顔合わせの為の迎えである。転移符を仕掛けた部屋から出ると、使用人らしき人が俺を主の所へ案内する。


 応接間までたどり着くと、あの老人と赤い女、そして今回は30代くらいに見える男が娘と老人の間に立っている。こいつが当主だろうか? とりあえず話を進めよう。



「待たせたな、向こうの王と街の所有者にはある程度の話はつけた。後は互いで話し合って欲しい。これから俺が向こうへ連れて行く事になるが構わないか?」



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