第367話スラム

「ではなにか?貴様は一人で十分と申すのか?」



「ああ、その通りだ。問題は落とし所だな、俺は人は好きじゃないが憎むほどでも無い。俺自身人間だしな。あのお花畑が咲いたお姫様はどうでも良いとして、悪意の塊みたいなお偉様は皆消えて貰うよ。その騒動の首謀者として魔王のアンタが名乗り出て精霊の監禁について正当性を主張しつつ、国を解き放てば良い」




「待て、そなたはそれで良いのか? 得る物が何も無いではないか」



「さぁな、賊の様に勝手に戦利品を貰うとするさ」



「そうか、それでよかろう。所で、そろそろ名くらい名乗ったらどうだ?仮にも一国の主の前だぞ」



「遠慮しておこう、縁なんぞ欲しくないのでね。アンタの名もおっさんの名も聞かない」




 名前ってのは案外大事なもんで世界に縛り付ける楔。最近はそう思える様になった。同時に希薄であればあるほど俺には都合が良いのではないだろうかと思うようにもだ。



「見惚れたとか言う割には冷たい物だな、向こうで遊んでるミューには言わないでやってくれよ」




「煙に巻く程度にしとくさ、それじゃ俺は行動を開始するとする。忙しい最中にアホ共に巻き込まれたんだ。早々に終わらせて帰るとする、事後報告くらいはするから後始末は任せた」



 俺はそういいながら部屋を出て人から見えない死角に入り転移符を起動する。起動先は護衛が倒れた近くに設置した場所だ。












 急いであの場を離れたのは完全に怪しまれる事無くってのは無理でも早く戻れば軽減はされる、まだ寝ていれば更に良い。




 どうやらまだ寝ている様だ。一番楽な展開、起きるのを待って俺も倒れて先に起きたと適当な事情を話す。周囲に魔族や魔物が居ないか警戒した物の3時間程度しか経ってなかったことが幸いして、心配されるも怪しまれる事は無かった。




 護衛と話した結果、一度城へ戻る事になった。これで随分と楽に事が進む。




 帰路に数日使うのが勿体無くはあるが俺がいきなり城の自室から出てくるのは無理があるので仕方ない。強行突破で皆殺し前提であればそれでも良いが、時間が惜しいだけの為に無闇に犠牲を増やす程外道では無い。



 護衛と共に戻るのが一番平和的なのだ。城下町周辺に戻ったのは日が落ちかかった黄昏時で最短ルートで城に向かう為スラム街を突き進んでいる。しかし、護衛の態度が妙だ。普通はもっと警戒して進むものではないだろうか? 俺なら間違いなく警戒度を上げる。対して護衛の二人は町の外に比べてあからさまに警戒を解いている。





 妙な違和感を感じながら進んで行くと、今にも死にそうな浮浪者や孤児が散見できる。なのに助けを求めるでもなく、襲い掛かって来る訳でもない、人として異常だ。ああ、そうか。これが悪用された精霊の力か。進みながら見えてしまう人であった物と吐き気がする臭いに耐えながら先へと進む。




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