第305話紹介されるまでも無く出てくる奴
「ダイスよお前は神を殺そうとしたな?」
「殺される前に殺す。なにか問題があるか?」
賽の神は呆れた様にため息をついて更に言葉を続ける。
「お前なら逃げる事も出来たはずだ」
「逃げて先延ばしにするより断ち切る事で終わらせた方が良い」
「神殺しなんぞリスクの塊じゃ。今回は一方的に神が悪いから良い様な物の、場合によっては使徒を通じて人の世でお尋ね者じゃ」
「一柱と敵対するのを考えればどちらがマシなのやらわからんな」
「豊穣は次そちらに向かうような愚か者なら滅しても構わん。報酬の件じゃが、おぬしに賽を使う事は少し難しい。じゃから代わりに、好きな者に譲渡する事を許す。回数は3回、これはお主自身に使えない事への補填じゃな」
「身体能力の向上とか欲しかったんだがな。音域が上がるとかでもいいんだが」
「それは芸術の神でも頼むんじゃな。お前は商人だ。そして最高の商品が3つ手に入った。それで良しとしておけ」
「悪いもんじゃなし、ありがたく頂戴しとくよ。おまけに芸術の神とやらを紹介してくれると嬉しいんだがな」
「よかろう。気まぐれな奴じゃからいつくるか知らんが話しだけでもしといてやる、これでよいな?」
「満足だとも」
「逞しい商人だなお前は」
それだけ言うと神は消えた。それと同時に後ろから声を掛けられる。
「僕は紹介されるまでも無くここにいるよ」
白い長髪と胡散臭そうな声、そしてイケメン。俺の中での印象はマイナスだ。胡散臭そうなイケメンとか面倒事を運んでくる気しかしない。
「貴方が芸術の神か?」
「その通り。僕が芸術の神さ。何故こんなタイミングで出てきたかと言うと。君がエルフの子に歌を学んでたよね? あそこから歌う時は常に見てたからさ」
「そう面白い物でも無いだろうに」
「いやいや、君の歌は凄く面白い。特に、戦いながら歌うアレ、まさに魔王。あのまま演劇にしても良いくらいだよ、曲名はなんていうんだい?」
「魔王、シューベルトって天才が作り上げた名曲の一つだ」
「そっちの世界の名曲か。でも君が歌いたい曲は別なんだろう?」
「ああ、このままでは夢の彼方先だな」
「僕が協力すれば可能になるかもよ?無論色々お願いはするけど」
「条件による」
「流石商人。じゃあまず一つ目、僕の手を握って脳内でその曲を思い浮かべる。二つ目は歌えるようになったら確実に僕に披露する。三つ目は歌えるまで死しても諦めない」
「そんな事ならお安いご用さ」
「じゃあまずは思い浮かべる事から始めようか。どんな歌か知らないと話しにならないからね」
俺は芸術の神の手を取り、魔笛を思い浮かべる。
すると神は瞳を閉じ、まるでそこに無いかのように希薄になる。何かに同化するかのように。そして俺の中の魔笛が終わると同時に。
「ふふ、ははははははは。これを作った奴は大馬鹿者だ、神に愛されてるとしか思えない。僕も彼に会ってみたかったなぁ。それにしてもこれ、人間が歌えたのかい? いや、思い浮かべたって事はいたんだろうね」
「完璧に歌えるのは世界に10人もいなかったはずだ」
「男の声帯でこれに挑むとか君も大馬鹿者だ。何故これを歌おうと思えたのかな?」
「男でもいたんだよ。俺が思い浮かべてた奴、あれは男だ」
「それは愉快。作曲者だってそんな人間がいるなんて夢にも思わないだろうね。こんなに愉快なのは何千年、いや初めてかもしれないね。これから芸術の神たる僕が全力で歌という側面で君を手伝おう。よろしくね、ダイス」
「こちらこそよろしく頼む」
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