第237話偽善だろうがやらないよりは良い。

 それからどうしたかって?まぁ勝ちは拾えたさ。ただし数は3。7人相手しかも2回武器ありと素手でだ。計14戦3勝。




 弱いと思ったか?いやいやそれはない。初見殺しとは言えだ、国の守りの要に3勝できた。明らかにステは向こうが上、それでもだ。快挙と言わずしてなんとするか。



 魔術戦も見たい言われたがそれは辞退した。



 それからは王の行動力とそのフットワークの軽さに振り回される事になる。その内に辺境伯領に行く羽目になったのだ。




 なんでも「思い立ったら吉日」だそうだ。よくもまぁこんな言葉を翻訳されてるのか実に興味深い。転移符が既に設置してあるだろう事も当然言われ連れて行けと人使いが荒い事。




 次にやった事は砦の強化だ。まぁこれはルイの無双を見る事になった。ルイ曰く魔術とは魔力と言う問題さえなければほぼ万能の代物なのだよ。との事、実践するかのように砦の周囲に堀を作成、幅350メートル深さ25メートル。堀の底は油を撒いて水分を摘出で取り去った、砂状のえげつない代物。




 ここで起こる惨状は想像に難く無い。




「所でダイス君は君の仕上げがあるだろう?」



「その前に仕込みを少ししたい。その後仕上げだ」ルイの問いに俺はそう答える。




 がんばれと肩を叩くと王と辺境伯のいる場所へ行ってしまった。




 それでは仕込みと行こうか。転移符で向かう先はこの前ジャガイモの様な物を見つけた飲食店だ。何しにいくかって。




「ありゃこの前の兄さんじゃないかい?また来てどうしたんだい?」



 そう、あの時の夫婦の行商人の夫婦。多分それなりの商会の会頭のはずだ。




「この前のお店に行きたくなりまして。おばちゃんもとおじちゃんもどうだい。今回は俺が奢るよ」



「気に入ってくれたかいうれしいねぇ。折角だい御馳走になるよ、アンタ」



 おやじさんは頷くとついてくる。




 店に入り席に着くと周りには誰もいない。空いてるのではなくこれは故意だと判断できた。



「で?お前さんの用事ってのをきこうか?」



 さてどこから話したものか。



 考えた末俺は結論から行く事にした。




「近いうちに大飢饉が起こります。教国は自身の神の怒りに触れた、3日後には神による沙汰が言い渡され、次の日には大飢饉に見舞われるでしょう」




「それが本当として、アンタは何が言いたい?なにをして欲しい、いや、どういう取引がしたい?」



 二人の目は鋭い、当然だ。そういう風に見えるし当然だ。



「簡単です。神は人の死を望む訳ではない。怒りに触れたのは自分の名を語り悪逆を行う者。しかし、神は一人一人区別などできません。我々は神の前では小さいありの様な物」



「そこでです、私は御夫婦に今から手持ちの食料を渡します。それで本来関係のない人々を救って欲しいのです。無論神が気まぐれでその様な事にならないのであれば貰って頂いて結構」



 俺は空間庫からマジックバッグを取り出す。次々に淡々と。




「この中全て食料が入る限り入っています。焼け石に水でしょうがお願いしたい」


 夫婦は中を確認していく。



「これは本気の様だね。って事はアンタは使徒様なのかい?」



「今回限りのですね、たまたま儲かっていたから食料を振舞えと半分脅されたのですよ。まぁ礼はするそうですからそれに期待しての先行投資です」




「3日だね。何も無ければ本当にもらってしまうよ?ただし真実なら商会の誇りに賭けて成し遂げるさ」


 「よろしくお願いします」




 自分で飢饉を起こして人道支援なんぞ本当に吐き気がするな。俺って奴は。

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