第220話探してたもの

 着いた先は高級な建物に品の調度品。如何にも金持ちを相手している店だ。



「サンはいるかい?」従業員に伝えると大急ぎで呼びに行った。随分扱いが良いらしいなこの夫婦。



 バタバタと慌ただしく複数の足音が聞こえてくる。そこまでする必要はあるのだろうか?こちらに来たのはさっきの従業員と十代半ばの美形の男女だ。



「こんなに物々しく迎え入れる必要はないよ。私達はただの行商人さね」おばちゃんはサバサバと言う。




「いいえとんでもない。貴方方夫婦はフィンド商会の会頭じゃないですか。それに今回の注文だってかなり面倒をかけてます。このくらいは当然です。所で初めて見る方がいらっしゃるのですが。新しい従業員さんでしょうか」美女の方は俺に気が付いたらしく尋ねる。



「いいや、街に入る時に会ってね。そこで面白い物を持ってたからここで売る事を薦めたのさ」とおばちゃん。



「質は見た限りでは最高の物だった。ここでは喉から手が出る程欲しい物だろう。見て損は無い」とおじちゃん。



「では、まずは見せて頂いてよろしいでしょうか」イケメンのシェフ風の男が言うので俺は塩と小麦粉を見せる。



 袋の中を見た反応を見る限りでは合格の様だ。



「これを是非私にお売り下さい。金額も他より高く買う事を約束します。是非」



 この国では麦自体はあるが、気候の相性か土の相性か余り出来は良くないそうだ。その代わりポートと言う名のうっすら甘味のあるジャガイモのような物が主食となってるそうだ。



 ジャガイモ・・・探してたんだよなぁ。なんに使うかって?無論食べますよ?他は巨壁の国の食糧自給率の増加が狙えるという点だろうか。どちらにしろ簡単に買える物だ、後に回しても良いだろう。




 結局小麦粉と塩を売ったにしては破格の金額を受け取り正直面食らっている。いくら金があってもこう言う所で面食らう辺り、小市民なのだろうな俺は。オマケに昼食までついてくる。



 高級店の感想だが。ただただ丁寧な仕事だと思う。技術は無論あるのだろう。しかし、メニュー自体は普通だ。当たり前の物を食材と技術を使い、高みを目指す。俺が受けた印象はそんな所だろう。



 夫婦に感想を聞かれた時に少しマイルドに今思った事を言うと。


「一流の商品を扱う商人は言う事が違う」とからかわれてしまった。



「でもアンタはその口ぶりだと料理を作るのかい?」



「独り者ですのでそのくらいはしますよ。やるからにはそれなりの物を食べたいから工夫だってするしね。そんなもんでしょ?」



「興味ありますね。それを是非見せていただけないでしょうか?」唐突にイケメンシェフは俺に提案する。夫婦の商人も便乗する。



 だが俺は「作るだけなら構わない。しかし、作る風景を見せる事はできない。俺のレシピは売却済みだ。不用意に教えたりできねぇんだ」




「それでも構いません。是非お願いします。材料も好きに使っていただいて構いませんし、手持ちを使うのであればその分はお支払いします。当然お礼も弾みます」



 ここまで言われたらやらざるを得無い。材料ならいくらでも空間庫にある。寄り道の少しぐらいは良いだろう。

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